「これ、我ながら完璧すぎる」


一人暮らしの女子高生たるもの、毎日とはいかないがわりと頻繁にお弁当は作っているのだが、今回は私史上最高に上手く出来た気がする。なんて思いながら卵焼きやマカロニサラダ、昨日のハンバーグなど色味にも気を使ったTHE女子、という感じの煌びやかなお弁当を掲げて一人感動していた。


「あ、7時」


ということでお弁当を持って総悟くんの部屋に向かったのだけどいくらインターホンを押せども出てこない。まさか寝てるのか、と試しにドアノブを回すと簡単にドアが開いた。


「…総悟くーん、入っちゃいますよー」


なんだかよくテレビで見る寝起きドッキリのように暗い部屋に、私の声もお馴染みの「おはようございます(超小声)」くらいの大きさになってしまう。起こしに来たのだから別段静かにする必要もないのだが雰囲気がそうさせるのだろう、そっと足音を立てないように寝室に向かうと案の定寝息が聞こえた。


「総悟くーん…7時なんですがー…」

「…んん」

「おーい、布団取っちゃうよー」


ぐっすり眠っている様子の総悟くん。少し距離を置いて声をかけても起きないので心の中で謝りながらしゃがんで近づくと気持ち良さそうに眠る顔が。


「…まつ毛ながい、」


こんなに近くで総悟くんを見たことがなかったので長くてふさふさしたまつ毛に少しだけドキドキした。ああ、友人たちが紹介してと言うのもちょっと分かるかもしれない。総悟くんが自分でモテると豪語するのも分かるかもしれない。こんな綺麗な顔をしていたんだなとしばらく眺めていると、寝息に合わせてゆっくり動いていた肩が急に小刻みに震え出した。あれ、笑ってる?


「え、総悟くん起きてる?」

「っふ、おま、」

「え、え、え」


第一声で爆笑され思考停止。起きているのだとすればこんなに至近距離でずっと寝顔を見ていただなんて気持ち悪いと思われるに違いないと焦っていると総悟くんの手が私に伸びてきた。


「バーカ、とっくに起きてまさァ」

「う、うそ、あの、えっと」


とっくにと言うわりには低く掠れた寝起きの声で言われた一言と、一緒に伸びてきた手にわしゃわしゃと頭を撫でられ一気に鼓動が早くなる。なんだかすごく顔が熱い。


「いつまでボーッとしてんでィ、弁当だろ」

「あ、そう!そうお弁当!」

「どーも」

「わ、我ながら上手くできたと思うですはい今日は頑張ってねじゃあまた!」


もそもそと動き出した総悟くんに言われ思い出したように勢いよく立ち上がりお弁当を差し出し、受け取ったのを確認したらすぐに踵を返して玄関に。こんなに静かな部屋にいたらばくばくとうるさい心臓の音が聞こえてしまう気がして、とにかく早く自分の部屋に帰りたかったのだ。


「あ、おい」

「ままままた夜ねバイバイ!」


早足で逃げるように帰っていく私に驚いたのか総悟くんが何か言っていた気がするが聞いている余裕もなかった。自分の部屋に戻り頭は平静を取り戻したけれどやっぱり心臓はまだうるさくて、自分のものではないみたいだ。


「なんか変だ…!」


病気かも、とか少し思ったけどさすがの私もそんなのじゃないことくらいは分かる。単純な話だ、私は初めて見た総悟くんの寝顔に、ふいに撫でられた大きな手にドキドキしたんだ。


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