「総悟くんのばか」
「斬新なお出迎えだこって」
いつものごとく夕食をたかりに来た総悟くんへ投げかけた第一声がお気に召さなかったらしい、ものすごく眉間にしわを寄せられた。
「授業中にメールしたでしょ」
「なんだ、そんなことかィ」
「そんなことって!」
「どうせなまえのことだから授業中に着信音が鳴ったとかそんなんだろ」
「…それで大変だったの」
「今日食いたいものを早めに伝えてやろうとした俺の優しさを酷い言い様でさァ」
「早めに言われてもラーメンを手打ちで提供はできません」
小芝居がかった「嘘だろ…」という目で見るのはやめていただきたい。私は悪くないしむしろ悪いのはぶっ飛んだ要求をしてきた総悟くんだ。
「で、飯は」
「ないです」
「は?」
「作ってないです」
「舐めてんのか」
「総悟くん今般若みたいな顔してるよ」
「冗談はいいから早く出しなせェ」
「だから作ってないです」
恐ろしい顔で睨んでくる総悟くんには悪いが本当に用意していないのだ。そしてわざわざ中には入れず玄関先で話しているのにも訳がある。
「手打ちがいいんだよね?」
「出来ねぇことくらい分かってらァ」
おいじゃあなんで送ってきたんだと文句を言いたい気持ちを抑え財布を持ち靴を履いて総悟くんに言った。
「行こう!」
「どこに」
「ラーメン屋さん!」
「めんどくせぇ」
「近くに美味しそうなとこがあったから総悟くんと行こうと思ってたの」
「…なんだそりゃ」
だからお願い、と言う前に総悟くんはもう歩き出していて文句を言った割には意外と乗り気だなと私も早足で駆け寄り並んで歩く。
「総悟くん怒ってる?」
「別に」
「だってなんか歩くの早いよ」
「怒ってねぇ」
「ずっとあっち向いてる」
「ボインの姉ちゃんがいるからでィ」
「おじいちゃんしか歩いてないよ」
「心の汚ェやつには見えないボインだから」
「どちらかと言うと心が汚いのは総悟くんだよね」
「てめぇ…」
言い返すといつもはもっと矢継ぎ早に罵倒されるのになんだか家を出てから総悟くんの様子がおかしい。よく見ると少し顔も赤いしもしかすると熱でもあるのかも。
「具合悪いならやめとく?」
「それ以上喋りかけたら殺す」
「なんで!?」
そこまで言われてしまっては私の心配もよそに無言で歩く総悟くんについて行くしかなかった。それにしたって競歩レベルで歩くのが早いのだけど、ラーメンなんて食べるからにはカロリーを消費してからにしろという戒めなのだろうかと若干息を切らしながら思った。
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