授業中、マナーモードにし忘れたケータイから初期設定のままの無機質な着信メロディが流れた。その時間およそ3秒。やけに短いのは多分メールを受信したという音だからで、この音にとても聞き覚えがあるのはそれが私のケータイであるからだ。数学教師の「誰だー?授業中は電源を切っておくように」という大きめの声にビビりつつも平静を装って乗り切る。


「なまえ、さっきのあんたでしょ」

「さ、さっきの?ナンノコト?」

「隣の席で分からないと思う?」

「思わないですはい」

「なまえが学校でケータイ触ってんのなんて見たことないからさー、ちょっとびっくりした」

「まあ誰からも連絡来ないからね、はは…」

「彼氏でも出来た?」

「ち、違うよ!」


私の知らない間に私に彼氏が出来るなんて不思議体験あってたまるかと思いながら、確かに今までこんな時間に人から連絡が来るなんてことはなかったから鳴らないようにするのを忘れてたのに一体誰だとケータイを開くとメールを受信しており、そこには”総悟くん”の文字が。


「え、ちょっとそれ男の名前!?」

「うわあ!勝手に見ないでよ!」

「やっぱり彼氏できたの!?」

「あああ大声出さないで誤解だから誤解!」


友人の声にクラスの女子が振り返りこそしないもののこちらに聞き耳を立て始めたのが分かった。さすが女子校、反応が早すぎる。


「じゃあメール開いてよ」

「見るの!?」

「彼氏じゃないんでしょ?お父さん?」

「お父さんではないけども。仕方ないなぁ…」

「なになに”ラーメン、もちろん手打ちで”って…何これ」

「…たぶんだけど今日の晩ご飯のこと、かな」


私の頼むから変な内容は送ってきてませんようにという希望も虚しくずいぶんと難易度の高い夕食を要求してきた総悟くんに「できるか!」と返しつつ友人の何か言いたそうな顔から目を逸らした。


「今日の晩ご飯のことをメールしてくるお父さんじゃない男、ってそれ彼氏なんじゃないの」

「本当に彼氏ではないんだけどあの、なんて説明しよう…」

「まさか同棲?」

「してないしてない!お隣さんだから!」

「彼氏と隣同士の部屋?」

「彼氏ではなくただのお隣さん!」

「ただのお隣さんに晩ご飯を作ってるの?」

「これには深い訳が」

「深い関係?」


どうしても相手を彼氏と決めつけたいらしい。ニヤニヤした顔をこちらに向けてきていたが、しばらく否定し続けるとなんとか納得してもらったようで今度は別の疑問を投げかけられた。


「でも毎日晩ご飯を作ってあげて一緒に食べるってそれ付き合ってるって言わないの?」

「え、私付き合ってるの?」

「質問を質問で返さないでよ。知らないけどあんた嫌じゃないの、その状況は」

「嫌とかは考えたことないかも…」

「好きなの?」

「す、好き!?」


歯切れの悪い私に呆れたのかチャイムが鳴ったからか「そんなんだから処女なのよ」と最高の悪口を残して友人は席に戻っていった。改めて総悟くんからのメールを見てなんだか少し嬉しくなってしまいニヤつきがバレないように授業を受けるのに必死になったせいで、正直全然内容を覚えていない。


「ていうか初めてのメールがこれですか」


/
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -