「…ん」


目を覚まし、ズキズキと痛む頭を押さえながら体を起こすと、そこはいつも通りの自分の家で、いつも通りの朝。のように思えたのだけど、


「なーんか、良い夢みちゃったなぁ」


それは遠い昔の初恋の人、坂田さん、であろう白くてふわふわした頭の男性におぶられてお散歩をする夢だった。おばちゃんとあんな話をしたからだろうか。

と、昨日の団子屋での出来事を思い出してから、何か大事なことを忘れているような気がして必死に記憶を辿ってみた。


「あ。」


団子屋の帰り、私はどうしたんだったか。高くて可愛い声に危ない!とかそんなことを言われてそれから、それから…?そこから記憶が途切れているのだ。自分に何が起きたのかもよく分からないままとりあえず外の空気でも吸って落ち着こうとベランダを開けると大量の洗濯物。


「うっそ…最悪だぁ…」


よくよく見てみれば昨日買い物をした袋も枕元に置いてあるままで、中身は特に冷蔵庫などには入れていない様子。
そしてその買い物袋と一緒に何か小さい紙が置いてあることに気づいた。なんだろう、と手に取ってみるとどうやら名刺らしい。


「よろずや、ぎんちゃん…」


ぎんちゃん、と呟いてなんだか不思議な感覚に襲われる。なんだろう、おばちゃんと話した事と言い、夢と言い、坂田さんのことを思い出させるようなことばかりが起きている。


「なんかよく分かんないけどいっか…とりあえず今日はバイト休みだし、助かった」


とは言ったものの、洗濯物は全部やり直しなので早速家事に取り掛かる。まだ何か忘れている気がするけどもうこれ以上考えても仕方ないだろうから、考えることをやめた。難しいことは悩んでも意味がない、これが最近の私のモットーなのである。



>>>



「銀さん、僕と神楽ちゃん、今日は姉上の手伝いで呼ばれてるので起きたら机の上のご飯食べておいて下さいねー!」


とかなんとか新八が言ってたような言ってなかったような。
朝方声を掛けられたが昨晩のことを察してわざわざ起こしはしなかったらしい。ズキズキと痛む頭を押さえながら体を起こすと、そこはいつも通りの万事屋で、いつも通り(よりちょっと遅め)の朝。のように思えたのだが、


「なんか忘れてる気がする」


昨晩の酒のせいで掠れた声で呟いて、リビングに向かう。と新八が作ったらしい朝飯と見覚えのない包みが置いてある。開けてみると中からは美味そうな団子が1本。
ぐぅー、と長めに腹が鳴って、朝飯の前に少し摘むくらい良いよなと思いながら団子に手をかけ、思い出す。


「あれ、これ昨日のやつの忘れもんか…?」


手にして過ぎった考えにぶんぶんと頭を振り、空腹には代えられんと改めて向き直った。


「いやいいよな、うん、取りに来ることはないだろうし腐らせるくらいならいいよな食っちまおう美味そうだしもったいないし、もったいないしな!」


誰に言い訳しているのか、わざとらしく大声で言ってからぱくりと一口。


「なんだこれ美味ェ!」


俺の好みドンピシャな味、なんとなく懐かしい気もする感じにはさして気にも止めず、あっという間に団子1本なんて無くなってしまった。物足りなく思いつつあとは朝飯で腹を満たすことにし、欠伸をしながら悶々と考え込み、今日の予定を決め切ったところで、いつも以上にさっさと準備をして家を後にする。


「今日は新八も神楽もいねぇみたいだし、ちょっくら散歩がてら行ってみっか」


そう思い向かったのは昨日、ぼやぼやとする頭で横目に見た団子屋。
今朝食べたものが昨日の女が忘れていった土産だとして、あの美味い団子は家の近くにあったここのものなのではないのか、という銀さんの名推理の元、わざわざ遠いここまでやって来たわけだ。


「あらいらっしゃい。見かけない顔だねぇ」

「あー、昨日土産でここの団子を貰ったんだけどよ、美味かったからここまで来たんだわ」

「昨日土産でかい?あぁ、もしかしてあんた、なまえちゃんの知り合いかい!」

「土産ってだけでそんなことも分かるのかよ。もしかしてあんまり繁盛してねぇの?」

「ははは、よく分かったねぇ。ま、こんな辺ぴな場所でずっとやってるもんで、中々取っつきにくいみたいでね」

「なんかもったいねぇなぁ」

「そうかいね。そんなこと言ってくれんのはなまえちゃんか、あんたくらいなもんだよ」


団子をいくつか頼み、茶を啜りながらこのずっとニコニコと笑っている人が良さそうなばあさんとしばらく話していたのだが、どうにもなまえという女の話しばかりをするのだ。

ほぼ毎日この団子屋に来ているらしく、数年前引っ越してきてからずっとばあさんの話し相手になっているようで、今日もいつも通りならそろそろ来るはずだと言う。


「あの子も色々あったらしくてね、昨日は少しからかい過ぎちゃったのよ。あら、そういえばあんた、なまえちゃんが言ってたお侍さんによく似てる気がするわねぇ」

「ほー。俺に似てるってどんなイケメンだそりゃ」

「あんた、本当に面白いねぇ!」

「いやなんで話し逸らしたんだよ面白いこと一つも言ってねぇぞ俺!」


このババア!と悪態をつきながらも話していると、結構な時間が経っていたらしい。そろそろ帰るかと立ち上がると、何故か呼び止められ、頼んでいない土産用の団子を渡された。

「おいこれ頼んでねーぞ。ボケたのか?」

「失礼な子だねぇ。サービスだよ。持って帰んな!」

「そんなことばっかしてっとそのうち潰れちまうぞ、この店」


愉快そうに笑ってからばあさんがふと時計を気にしだしたのでどうしたのかと聞くと、少し心配そうな顔をしている。


「いやぁそろそろあの子が来る頃だと思ったんだけどね、せっかくだから会わせてやりたかったんだけど、また来てくれるかい?」

「別に来るのはいいけどよ、なんでそんな引き合わせてぇんだ?言っとくけどばあさんが思ってるほど女には困ってねぇぞ!」

「ふふ、そうかいそうかい。絶対にあんたらは合うと思うんだよ。長年の勘ってやつさね」

「…ま、年寄りの言うことは聞いとけって言うしな。また来るわ、じゃあな」

「あいよ、気をつけて帰んな」


昨日からあいつ、なまえのことを思い出させるようなことばかり起きてるけど、誰からの嫌がらせなんだこれはと思いつつ、気を紛らわそうとパチンコにでも寄って帰ることにした。


紛らわす


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