坂田さんに再会してからと言うもの、何か理由をつけて会えないものかと色々考えてみたけれど、どうにも良い案が思い浮かばず数日経ってしまった。相変わらずバイト先とおばちゃんのところを行き来するだけの毎日だ。


「お疲れ様でしたー」

「あ、みょうじさん今上がり?」

「そうです。あれ、西村さんもですか?」

「今日はたまたま早上がり。良かったら送って行くよ」

「ええ!いいですよ、家遠いですし!」

「遠いなら尚更。俺自転車だから、帰りは乗ればすぐだしね」


バイトが終わりさて帰ろうと裏口から店を出ると、ここの社員の西村さんから声をかけられる。いつも上がり時間が少しずれているので帰りこそ一緒になることは珍しいが、どうやら今日はたまたま早上がりの日らしい。夜道と言うほど暗くはないけどせっかくなので送ってもらうことに。しばらく談笑しながら歩いていると、コンビニに寄りたいと西村さんが止まったので私は外で待つことにした。


「なまえ?」

「あれ、坂田さん。お買い物ですか?」

「まぁな。お前は?」

「私はバイト終わりです。いつもこれくらいに終わってお団子屋さんに寄ってから帰るんですよ」

「へぇ、つーことは今から団子屋行くのか」

「お家に荷物を置いたら行く予定です」


まさかずっと考えていた坂田さんにこんなところで偶然会えるなんて思ってもみなかったので慌てて身なりを整える。どもったり変な返事をしていないだろうか、会話しながらもそわそわと相手を見上げてみると坂田さんもどうにも落ち着かない様子で頭を掻いていた。どうしたのかな、と心配になっているとしばらくして坂田さんが口を開いた。


「なんなら散歩ついでに俺も、」

「みょうじさん、お待たせ。ん?知り合い?」

「あ、西村さん。えっとこの人は昔からの知り合いで」

「あー…邪魔して悪かったな。じゃ、気をつけて帰れよ」

「…坂田さん?」


坂田さんが私の目を見て何か言おうとした時、ちょうどコンビニから西村さんが出てきた。知り合いかと聞かれたので昔馴染みだと説明したかったのだけど、足早に帰って行ってしまった。坂田さんに気を使わせてしまったのかもしれない。申し訳なく思っていると西村さんにせっかくなのに、お友達は忙しいみたいだねと言われ歩みを進める。本当、せっかくこんなところで会えたのに。


「もしかしてさっきの人、恋人?」

「ぶ、!」


隣を歩く人にそんな突拍子もない事を聞かれて先ほど手渡された缶ジュースを吹き出しそうになる。さっきの人って坂田さんのことですよねなんて確認する必要もないだろう。


「ち、違いますよ!昔お世話になった大事な方なんです」

「じゃあみょうじさんの片思いだ?」

「だからお世話になった方ですって!」


いくら否定しても西村さんは引き下がることはせずふーんだとかへーだとか曖昧な返事を繰り返している。何故そんなに自信満々なのかと聞くと分かりやすいねと微笑まれ頭を撫でられた。


「…西村さん、楽しんでませんか」

「うーん、まあね?みょうじさんっていつも心ここに在らず、って感じでテキパキ仕事だけこなしてるからそんな反応するの意外でびっくりしちゃったよ俺」

「そんなことないのに」

「意外と可愛いところあるんだね」

「褒めてます…?」

「どう聞いても褒めてるでしょ」


赤色の目を細めて笑う仕草に、よく見ると綺麗な顔をしているなとぼーっと思う。私がバイト初日の時から最初は指導係として、今は先輩として一緒に仕事をしているけどその態度も物腰柔らかで優しい人なので、きっとこういう人が世の女性にはモテるのだろう。などと考えながら話しているうちにだんだんと馴染みのある景色が見えてきた。そろそろ家に着きそうだ。


「あ、この辺で大丈夫です!もうすぐそこなので」

「そう?近いからって気をつけて帰ってね。じゃあまた」

「はい、ありがとうございました!」


軽く手を振ってから自転車に乗った西村さんを見送って、自分は家に荷物を置き財布だけ持って足早に団子屋へ向かう。少しゆっくりしてからでもいいかと思ったけどなんだか今日は早くおばちゃんに会いたくなった。思わぬところで坂田さんに会えたので心のどこか、はしゃいでしまっているのかもしれない。


「次はいつ会えるんだろう」


ぼそっと呟いた言葉に近くにいると分かった瞬間随分と強欲になってしまったものだと自嘲する。あれは昔のことだとおばちゃんにも言っていたくせに、坂田さんには既にお相手がいるかもしれないというのに、またこんなに会いたくて仕方ないなんて本当にバカな話だと思う。江戸に来て10年ほど経つというのに何故今更坂田さんに出会えたんだろうか。もしかして何か意味があるのか、なんて考えたところで私には到底分かり得ないことだ。考えすぎてしまう時こそ甘いものでも食べてリラックスしようと団子屋の暖簾を潜ると私が今正に焦がれていたふわふわの頭がそこにあった。


「え、え、坂田さん!?」


焦がれる意味は


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