「ザキくん明日のお休みなにしてる」

「特になにもないけど」

「デートしよう」

「デート!?」


07


金曜日、彼女にそう声をかけられた。デート、だって。

思わずニヤけてしまう顔に力を入れて、10分前からいる待ち合わせ場所に立つ。予想はしていたけどなまえはやっぱり時間ギリギリに来た。


「おはよーザキくん」

「もう昼だけどね」

「じゃあこんにちはザキくん。行こっか」

「うえっ!?」


変な声が出るのも許してほしい。行こっか、と笑ったなまえは俺の手を掴んで歩き出したのだ。要するに今、俺たちは手を繋いで歩いている。


「手汗すごいよ」

「ごめん!ごめんマジでごめん!」

「私が潔癖性じゃなくてよかったね」

「本当にね…」


手汗に関してはもう許して。好きな女の子と手を繋いでデートなんて青春送れると思ってなかったんだから仕方ないでしょ!

ザキくんは面白いねーと俺の大好きな笑顔で言われてしまえばあとはもうどうにでもなれ状態。カフェに入ろうと手を引かれなまえについて行くしか出来なかった。


「それ、美味しい?」

「え、うん。結構甘いかも」

「私もパンケーキにすればよかった」

「ちょっと食べる?」

「いいの?」


パフェを食べながら俺の皿を見つめるなまえに言うと、いつもあくびで見ている大きな口を差し出してきた。


「え」

「あーん。はやく」


言われるがままに口の中に小さく切ったパンケーキを入れてやると美味しい、と嬉しそうにしている。
なんだ、これは。デートじゃん。本物のデートじゃん。カップルじゃん!


「ザキくんもいる?」

「お、俺、もうお腹いっぱい…」


色んな意味でね!
そっか、とまた黙々とイチゴやらアイスやらを胃の中へ納めていく彼女を眺めているだけでもうお腹いっぱいだ。


「ザキくんは好きな子とかいるの」

「好きな子?」

「好きな女の子」

「好きな、女の子ですか…」


ここではっきりお前だよと言えればどんなにカッコよかったことだろう。今の俺には到底出来そうもない。どう答えるべきなのか困ってしまったのではぐらかすようになまえにも聞き返した。なまえはそういうのいないの?と。


「いるよ」

「同じクラス?」

「うん」

「どんな人?」

「黒髪で」

「黒髪…」

「目が小さめ」

「目が、小さめ…」

「いつも困らされてる」

「苦労人…」

「かっこいい」

「イケメン…」


聞いたら後悔するかも、そんなことよりもなまえの好きな人っていうのが気になってどんどん掘り下げる。しかし聞けば聞くほどその好きな人像というのは自分から遠ざかっていっている気がする。ていうか、

もしかして土方さん!?なまえそれ土方さんのこと言ってる!?


「へ、へえ…全然知らなかった」

「で。ザキくんは?」

「俺は…いるよ」

「可愛い?」

「そりゃあ、可愛いよ」

「そんなに、好き?」

「まあ、ね」

「そっか。ありがとう」

「いえいえ…」


うん?いえいえ、ってなんだ。そもそもありがとう、ってなんだ。
会話の意図が掴めずはてなを浮かべていると食べ終わったらしいなまえがスプーンを置きもう一度言った。


「ザキくんありがとう」

「へ?」


彼女はつかみどころがない
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