あああ帰ってくるな帰ってくるないや帰って来て欲しいんだけど帰ってくるな!


03


「ザキくんただいまー」


俺の願いもむなしく、何も知らない彼女は始業ギリギリに教室に戻ってきた。いつもならこのただいまー、にも場所が違えば夫婦みたいだとちょっとした妄想をしているところだけど、今はちっとも嬉しくないただいまだ。


「おかえり…あのさ」

「よォなまえ」

「沖田くん」


沖田さんの魔の手を先に伝えておこうと隣を見ると何故かなまえの前の席に沖田さんが座っていた。


「沖田くん、席替えしたの?」

「あァ、常々俺もこの席がいいなと思ってたんで、心優しいグラサンに代わってもらったんでィ」

「あ、そうなの」


まあ気にすんなと言いながら微笑む沖田さんの手にはバキバキに割れたグラサンが握られていた。今から地獄を見る予定の俺がいうのもなんだけど長谷川さん、ご愁傷様。

そしてそんな惨事を気にもせず長谷川くん面白かったのに、とすこし残念そうな顔でつぶやくなまえにニヤニヤした沖田さんが本題をぶつけていた。


「今日はいいもん見せてやろーと思って」

「いいもん?」

「ほらよ」

「ああああ待って待ってください流石に!女の子にそんなの見せちゃダメですよ!ね!ね!」

「ザキくん裸だ」

「なまえ!?」


沖田さんが写真を取り出した瞬間、やっぱりやめて!とストップを出したのにあろうことかなまえが自分から受け取りに手を伸ばしたせいで既にブツはなまえの手の中にあった。そしてまじまじと見ないで、あの、全裸だから。


「お前が乳繰り合ってるやつ、いつも俺らの前じゃこんなだぜ」

「乳繰り合ってはないけど、ザキくん」

「あのこれは俺も覚えてないっていうかそんな、毎回こんなことしてるわけじゃないから!」

「おもしろいね」

「あああ分かってるから引かな…え?」

「これ私も見てみたい」


あれ?思ったよりも引いてはいない?むしろちょっと好印象?
見てみたいなんて素っ頓狂なことを言うなまえに俺も沖田さんも心の中で(いや、普通引くだろ)と思っていたに違いない。ていうか俺は思った。それが気に食わなかったのか沖田さんが追い打ちをかけるように俺の写真のリトル俺、を指差し言った。


「ほらよく見ろバカ女、こんなち○こちっせー男幻滅したって言えよ」

「わあ、ほんと」

「だろ?」

「だろ?じゃないでしょアンタ何やってんだ!ていうかなまえも見ちゃダメ!」


いい加減にしろ!と沖田さんの手から写真をふんだくる。そして写真の中のリトル俺を言われたままに凝視したなまえの頭を軽く叩いた。それよりなにより「わあ、ほんと」の一言に傷ついて心が折れそうだ。


「でもザキくんなら別にいいとおもう」

「あ?ンだよ粗チンマニアか」

「マニアじゃないけどザキくんなら私はいいとおもうよ」


はい?まだ沖田さんと向き合って話を続けているなまえから耳を疑う発言をキャッチした。すると沖田さんはまたもや面白くなさそうな顔をして「意外と手強いのな」と諦めたように前を向いた(元の席には戻らないらしい)。


「ふあ、ねむたい」

「え、え?」

「ザキくん、目覚ましよろしくね」

「あ、うん、いや、その前に」

「おやすみなさい」


お昼食べたら眠くなっちゃった、と午後一番早速机に突っ伏したなまえにさっきの言葉の意味を聞きたかったけど、なんて聞けばいいのこれ、とか諸々悩んでいるうちに隣から微かに寝息が聞こえてきたのでまぁいいか、と黒板に向き直った。
それにしたって自分の心臓がうるさくて、こんなの授業に集中できるわけないだろ!


彼女は手強い
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