ザキくんおはよ、目を擦りながら彼女に声をかけられたのはきっちりとお昼のチャイムが鳴った頃だった。


02


「熟睡だったね」

「うん。今日もばっちり寝れました」

「…いいんだけどさ、よくあんな怒号と物が飛び交う中寝れるね」

「むしろ好都合、みたいな」

「俺は巻き込まれないよう必死なのに」


午前中、堂々と全てを寝て過ごしたなまえに拍手を送りたい。バレそうになったら起こすとは言ったものの、前述した通り地味組な俺たちにわざわざ気づけるほどここの教室は大人しくないんだ。虚しいことにね。


「お腹減っちゃった」

「なまえー!昼飯むさぼるアル!」

「ふふ、神楽ちゃんたらさっき早弁してたじゃない」

「神楽ちゃん、お妙ちゃん。すこし待ってね」


いくら仲が良いからと言って二人で並んでお弁当を食べたりはしない。したいことにはしたけど、なまえはなまえでいつもの女子グループと昼食を共にするし、俺は俺で沖田さん土方さんにパシられるという仕事があるから。


「じゃあ、ザキくん。また後で」

「うん、じゃあ」


ばいばい、と教室のドアからもう一度手を振る彼女に帰るわけでもあるまいし、といつも思っているがこの日課は嫌いではないのでそれを伝えたことはない。ついでに言うといちいちドアの前で振り返って真っ直ぐ俺に向かって手を振る姿が可愛くてついニヤけてしまう。毎日毎日やられたって慣れもしない俺のバカ!ウブ!


「山崎ィ、気色わりぃ顔してないで焼きそばパン買ってこい。あと殺虫剤」

「あ、はい」


殺虫剤なんて何に使うんだよ、って聞かなくても分かってるけどね。土方さんごめんなさい俺沖田さんに凶器を提供します、こわいんで。


「3秒で帰って来ねーとなまえにこれ、見せっから」

「…はい!?なんでなまえ!?」

「山崎のくせに色気付きやがってムカつくから。早くしねーと3秒経つぜィ」

「鬼かあんた!」


いーち、とカウントする鬼の手にはいつ撮ったんだというような俺のみっともない姿(アフロで全裸でミントンラケット片手にカバディをしている)。いや、こんな状況あったか!?

記憶にはないけど急がないとなまえにこれを見せられるらしいのでひたすら走った。まあ3秒なんてどうせ無理なんだけど。


「ハアッ、ハアッ、おきた、さん…!」

「5分」

「いやっ、だって、ハアッ」


殺虫剤なんて購買に売ってねーよ!叫んでやりたいのだが全力で走ったので息が上がっていてうまく喋れない。下衆な笑みを浮かべながら焼きそばパンを食べている姿に目眩がした。


彼女は何も知らない
- ナノ -