「山崎殺す」 「病み上がり早々物騒!」 「病み上がり早々物騒って語呂いいね」 「なまえは黙ってて。とりあえず沖田さん落ち着いて竹刀しまって!」 ゆめみひるがお 17 熱が下がり色んな意味で悶々と過ごした数日を乗り越えて登校すると朝から竹刀を手にした沖田さんに殺害宣言をされた。俺が一体何をしたって言うんだろう。 「ザキくんもうすっかり元気だね」 「うん、病院も行ったしね」 「手厚い看病もあったもんなァ」 「…なまえ」 沖田さんにニヤニヤしながら投げかけられた言葉にまずなまえを睨みつける。お前どこまで言っちゃったの、の意を込めて。 「ま、これでやっとお前らのうだうだ焦れったい関係を見なくて済むと思うと清々しまさァ」 「え!?ど、どういう意味です?」 多分この言われようだとキスしてしまったことまで言ったんだろうな…いや別に隠したいわけじゃない、でも俺となまえは付き合ってもいなければどうしてあんなことになったのかも未だに理解できていないのだから、人に話す前に俺たちの関係を問いたいくらいだ。 しかしすぐに沖田さんにチクったところを見るとやっぱりからかわれていたのかもしれない。もしくは風邪で寝込んでる俺を哀れに思って文字通りの手厚い看病だったのかも。 「あ?てっきりもう付き合ってんのかと思ったけど、そうじゃねェのか」 「付き合って…ない、よね?」 チクったのが俺にバレて焦っているのか真っ青な顔で目を泳がせているなまえに敢えて疑問系で聞いてみるけど、頭の整理がついていないのか言葉が出てこないよう。その様子に沖田さんが痺れを切らす。 「なまえ、お前山崎に惚れてんじゃねーの?」 「…ざ、」 「ざ?」 「ザキくんのことなんか好きじゃない!!」 机をバンッと叩いて教室を飛び出したなまえを唖然と見送る俺と質問した張本人。悪びれる様子もなく「あ、やっべ」とだけ溢して机に突っ伏す栗色の頭を鷲掴んで何してくれてんだァァァ!と叫べば周囲の目は更に俺に集中する。 え、ええええ!?この流れは予想していなかった。ていうか公開処刑じゃねーか! 「山崎、ドンマイ」 「いやドンマイじゃなくてアンタが蒔いた種が育ちすぎて爆発したんですけど!?」 「いやー惜しかったなァ、もうひと押しでカップル誕生だったのになァ」 「何がもうひと押しだよ!完全に押しすぎて逃がしてんじゃん!」 ああもう周りの視線が痛い、完全に憐れまれている。なんで近藤さんが泣いてんの、泣きたいの俺なんですけど! 「まぁまぁ、座れや山崎」 「え、このまま教室にいるの気まずすぎるのでサボりたいですもう。ていうかいっそ消えたい」 「お望みなら仕方ねェ、じゃあな山崎永遠に」 「ままま待って!沖田さん待って!竹刀下ろして下さいすいませんでした!」 「なんでィ、死にたいんじゃねーの」 「例え!例えだから!消えたいくらい傷ついてんの俺!」 いいから座れと顎で促されたので大人しく席に着くと珍しく真剣な顔をした沖田さんがなまえの席に座った。 「お前アレ、どう思う」 「え?なまえですか?」 「っつーかあいつが逃げたことについて」 「…単純にフラれたのかと。きっとまたからかっただけなんですよ、俺のこと」 「ハァ…」 「何故そこでため息!」 「いや、やっぱりお前らバカで気持ち悪ィなと思ったんでィ」 「全然貶されてる意味が分からないんですが」 「マジでフラれたとか思ってんなら今から俺がなまえんとこ行くぜ」 ギロリとどこか怒りも含んだような真っ直ぐな瞳に射殺されそうになる。息を飲んだ俺の返事を待つことなく沖田さんは続けた。 「そうじゃねぇならお前が行け。どうせサボりてーんだろ」 暗に、なまえを追いかけろと言われている。俺だってそうしたいけどでも…でもじゃないか、行ってまた拒絶されたらってビビってるだけかもしれない。ダメだよな、こんなんじゃ。地味でヘタレで意気地なしって、そんなんでいいのか、山崎退。 「沖田さん、ありがとうございます」 「あ、帰り焼きそばパン買って来い」 この状況でパシんなよとは言えず、まぁ沖田さんなりに背中を押してくれたんだからパンくらい安いもんだと席を立つ。教室のドアを開けてさてまずどこから探そうかと一歩踏み出した ら、いた。 「オイオイなまえちゃん今から大好きな銀八先生の授業だってのにどこ行く気?ん?」 「ぐえっ、首絞まってる、絞まってる!ギブです先生ギブ!」 そういえばさっき始業のチャイムが鳴っていた気がする。廊下の向こうから銀八に首根っこを掴まれて連行されているなまえがジタバタと逃げようとしているのが見えた。 「いや、こういうのって普通屋上とかで一人黄昏てるもんじゃないの!?」 「あ?何がだジミーお前もサボりか。許しませんよー、先生が減給されちゃうでしょーが!!」 「知るか!空気読めよモジャモジャ!なまえも何捕まっちゃってんの!」 「ざ、ザキくんゴメン」 ここまで余裕なく申し訳なさそうな顔をしたなまえを見たのはこれが最初で最後だったかな。 彼女は素直じゃない ←→ |