「そういやァなまえは部活、入ってないよな」

「沖田くんは剣道部だよね」

「よく見てらァ。え、何もしかして俺に惚れてんの?困るぅ」

「そっくりそのまま返すね」

「俺ら既にカップルだろ」

「ザキくん、沖田くんのカップルって実は主人と奴隷とかの隠語だと思わない?」

「それ奴隷宣言されてるってことになるけどいいの?」

「無理無理、どのみちお断りです」


お決まりのようにぐいぐいと髪を引っ張られているなまえに可哀想にと哀れみの視線を送っておいた。


14


「ザキくん好きな女の子がガキ大将にいじめられてるよ、助けないと!ああハゲちゃう痛い痛い」

「あ?誰がジャイオンでィ。空き地でリサイタルしてやろーか?」

「たすけてードラいもーん」

「てれれれってれー自分で何とかしろー」

「ドライだな!」


私の優しいザキえもんを返せ!と訳のわからんことを言っているおバカさんは軽くあしらい放っておいて、今は一応授業中である。確かに銀八のやる気のない話し方や声はつまらないことこの上ないけど、ここまで堂々とした茶番に参加する気は毛頭ないのだ。


「おーいお前らちゃんと聞いてる?先生泣いちゃうよー」

「沖田くんがうるさくしてすいません、私はもう静かに寝るのでお構いなく」

「うちのメス豚がうるさくしてすいやせん、俺もそろそろ惰眠を貪るのでお構いなく」

「君たち舐めてる?俺のこと舐めてるよね?」


とうとう先生に注意されてやっと大人しくなるかと思えば二人して腕を枕にして寝息を立て始めた。確かに大人しくはなったけど少し意味が違う。ていうか寝るの早いなオイ。


「ジミーそいつら起こせよ」

「先生俺には無理です」


顎でクイっとそいつら、を指されたけど無理なもんは無理である。沖田さんは起こしたらどんな報復をされるか分かったもんじゃないし、なまえに至っては揺すって起きるかどうかも怪しい。首を横に振って嫌だという意思を伝えると先生も諦めたのか、ったくよーと頭を掻いたあと授業を再開させた。


「ザキえもん、沖田くんは寝た?」


左の二人が寝静まったところで静かにはならないどころか頭上を物が飛び交う騒がしい教室で真面目に黒板をノートに写していると、隣からヌッと手が伸びてきて学ランの裾を軽く引っ張られた。これ以上注意されないようにかやけに小声で話しかけてきたなまえに俺も最小限のボリュームで返す。


「もうそのくだりいいよ。沖田さんはぐっすりだね」

「お話ししようよ」

「また先生にバレたら怒られるぞ」

「じゃあ筆談で」


ポイッとなまえ丸められた紙くずが投げられ机の上に着地する。


(ザキえもん、きょうのおひるは)

(知るか。ひらがな読みにくいわ)

(だとおもった)

(嫌がらせかよ)

(まあね)

(ていうか寝ないの?)

(ザキくんとおしゃべりしたかったの)

(沖田さん起こせばいいだろ)

(ザキくんと、おしゃべりしたかったの)

(あ、そ)

(てれんなって)

(やかましいわ!)


平凡な彼女の机と地味な俺の机を飛び交う小さな紙に周りの人や先生が気づくはずもなくて、この授業の間はずっとなまえ発案の筆談が続いた。

少し丸くて形の崩れた文字に女子だな、なんて思ってしまいドキドキする。これ、捨てないでちゃんと取っておこう。


彼女は女の子
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