「土方くんおはよう」

「今日は早ェんだな」

「土方くんが早く登校するから頑張ったよ」

「お、おう…?」


あれからと言うもの、彼女は毎朝欠かさず土方さんの席の前まで行き挨拶を交わすようになった。いきなりどんだけ積極的になってんだ、とか突っ込むことはできなくて俺も早めに登校して毎日様子を伺っている。よって、最近かなり寝不足だ。


12


「あーあー土方さんも満更でもねぇ顔してやがる。なァ山崎」

「…そうですね」

「あーあーなまえも嬉しそうな顔しちゃって(してないけど)。なァ山崎」

「…そうで、すか?」

「あーあー山崎がボーッとしてる間に、こりゃ取られちまうかもなぁ。なァ山崎」

「沖田さん嫌がらせですかそれ」

「それ以外の何に見えんでィ」


アホかお前、とせせら嗤う悪魔を内心ではタコ殴りにしてとりあえず苦笑いを返しておく。この人は本当に人をコケにするのが心底楽しいのだろう。と、こんな沖田さんもちゃっかり毎日珍しくも早めに登校してなまえの土方さんへのアピールとやらを観察している。

というか、ここ数日一緒に観察を続けているのだから少しくらい暖かい友情が芽生えてもいいものだと思うのだが相変わらずの調子で、ひたすらに俺の精神だけが削られていく。俺、そろそろ胃に穴が開きそうです。


「沖田くんおはよー」

「おー、今日も熱心にアピール(笑)してやがんなァ」

「私頑張り屋さんだからね。そしてついでにザキくんもおはよー」

「ついでってわざわざ口に出さなくていいからね?」


とことん俺の胃にダメージを与えたいらしいなまえにおはよう、と返してからため息をつくと、それに反応してか教科書やらを仕舞う手を止めてこちらを見てくる。


「ザキくん元気ないね」

「誰のせいだ」

「沖田くん」

「なんだ山崎俺に文句か」

「あああ違うんです沖田さんじゃなくて」

「土方くん」

「あ?なんだ山崎俺に文句か」

「あああ違います土方さんでもなくて、っていうかあんたら仲良しか!」


言うが早いか誰と誰が仲良しだと沖田さんと土方さん同時に詰め寄られている俺を見てしてやったり顔のなまえに手を合わせられた。ナームー、じゃないよ馬鹿野郎!


「最近早起きだからもう眠いや」

「今来たばっかだろ、授業中寝んなよ」

「土方くんが言うなら頑張って起きてるね」

「いや俺が言わなくても起きてろよ」

「なまえ、俺ァぐっすり寝る予定なんで昼に起こせ」

「おいそこの薄情者!ザキくんは起きててくれるよね!?」

「なまえが起きてるなら俺も寝ようかな」


いつもはなまえに後でノートを見せてあげるためにだいたいの授業は起きているけど、土方さんが言うなら、なんて明らさまな発言が気に障ったので寝不足だし今日は寝てしまおうかと思ったのだ。ザキくんも薄情者だ!一生寝てろ!とか物騒なことを言われたって知らないふり。


「土方くん、私起きてられる自信ない」

「俺は席近くねぇし、起こせねーぞ」

「そこをどうにか」

「俺が起こしてやろーか」

「いい、沖田くんはろくな起こし方しなさそうだから寝ててどうぞ」




と、こんな会話をしていたというのにいざ授業が始まれば沖田さんもなまえも一瞬で眠りに落ちていた。おい、沖田さんは良しとしてなまえお前は「土方くんが言うなら(ハート)」なんて約束してただろ!

全くもう、と本日二度目のため息をつき眠い目を擦りながら授業を受ける。俺が寝たら誰が後でなまえにノートを見せるんだ、というくだらない使命感で無事乗り切ったけどそれにしたって眠すぎる。こんなに頑張ってたのだからなまえに何かお礼でもしてもらおう。


「おはようザキくん…ふああ、ねむい」

「俺のが眠いわ!」

「今日のお昼は何?」

「朝から臭かったから餃子でしょ」

「ああ、そういえば買ったかも」

「王将買ってから学校来るのやめよ?主に隣の俺に大ダメージきてるから」

「美味しいからやだ」


土方さんにアピール中だと言うわりには相変わらずこうやって俺と一番話してくれるのでどうにも彼女を諦めきれずにいるんだ。これ、計算だったら相当悪女だね。


彼女は悪女かもしれない
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