さて、今日は彼女と沖田さんの下校風景を覗き見、いや観察しようと尾行している。一体この二人がどんな会話をしているのか気になってしまったのだ。


「何もありませんように…」


彼女を取られたくない俺は気が気ではない。


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「沖田くんごめん、待った?」

「待ちくたびれてケツが地面にくっついた」

「いや全然くっついてないよ、立って立って」

「お前じゃ勃たねーよ」

「変換違うよね、いいから帰ろう」

「詫びになんか奢れィ」

「はいはい、分かったから」


どうやらどこか寄り道してから帰るようだ。今のところ普段通りの沖田さんとなまえのように見える。しかしお前じゃ勃たねーよとは盛大なセクハラ発言だ。ちなみに俺はなまえで十分勃…おっと話が逸れてしまった。


「奢れって何がいいの。手持ちそんなにないよ」

「良いフレンチの店があるんでさァ。フルコースが絶品らしい」

「手持ちないって言ったよね。あっても無理だけど」

「ちっ、しけてんなァ」

「もう、ちゃんとした案出さないなら私が決めるよ」

「へーへー」


寄り道は商店街に決定した様子。それにしたって会話を盗み聞きながら後をつけるというのは端から見れば怪しい動作をしているに違いない。どうか知り合いには見られませんようにと思いながらも沖田さんとなまえには目を離さないでいると、後ろから肩を叩かれた。


「…何してんだ、山崎」

「ちょっと今忙しいので後、で…」


って、土方さんんん!?という声でさえも抜かりなく小声だ。バレたら尾行している意味がないからね。


「お前、かなり怪しいぞ」

「ななな何がですか!?」

「いや、あんぱん片手にコソコソ隠れて何してんだって言ってんだよ」

「これはちょっと小腹が空いて」

「重要なのはそっちじゃねぇよ!」

「あああちょっと大きい声出さんでください!バレちゃうでしょうが!」

「だから誰に!?」


中々状況を理解してくれない土方さんにチッ、と小さく舌を打つと「なんだコラてめぇ今舌打ちしたか?あ?コラ山崎?あ?」みたいな声が聞こえた気がするが今の俺には関係ない。頭をギリギリ圧迫されているがそれでも俺には関係ない…やっぱりちょっと痛いかも。


「ここのクレープ食べてみたかったんだ。いい?」

「しけてんなァ」

「まだ言いますか」


ぶつくさ言いながらも何気に一番高いクレープをなまえに奢らせた沖田さんは自分の分が手渡されてすぐぺろりと全部食べきっていた。相変わらずだなぁなんて思いながら眺めていると俺の後ろでブヂュルルルルみたいな汚い音が聞こえてなまえが一瞬こっちを振り返る。見ると土方さんがほかほかのたこ焼き、であっただろうマヨネーズの山を口に運んでいるところだった。

いやいや、慌てて隠れたから良かったものの危うくバレるかと思ったわ!アホかこの人は!


「土方さん静かにって言ってるじゃないですか!」

「あ?俺がどこで何食おうと勝手だろうが。そもそもなんでこんなストーキングに付き合わされてんだ…」

「なまえと沖田さんの下校デートが気にならないんですか!?」

「ならねーよ!俺ァんな暇じゃねーんだ、一人でやってろ!」


なまえは(恐らく)土方さんに好意を抱いているというのになんて呑気な人だ。まあ土方さんにその気がないのは彼女には悪いけど俺からしたら万々歳だから別にいいのだけども。


「あ、おい山崎あいつら」


興味ないなんて言いつつもぐもぐ口を動かしながらちゃっかりあちらの様子を伺っていた(本人曰く後で総悟を茶化す)らしい土方さんに言われ目をこらすとなまえが沖田さんに自分のクレープを差し出しているところだった。


「ああああああああ!!!」

「ば…っ!お前がバレたらまずいっつったんだろーが大声出すな!!」

「あらザキくんに土方さん。どーもこんにちは、デートですか」

「俺らのことずっと尾けてたんですかィ。気持ち悪ィな死ねよ土方」

「気色悪ィこというなみょうじ、俺はたまたま山崎とそこで会っただけだ。あと総悟テメェ一発殴らせろ」

「あばばばばこれには訳がありましてですねあばばば」

「ザキくんおかしくなってるから、落ち着いて落ち着いて」


耐えきれず大声を出した俺の口を慌てて土方さんが押さえたが間に合わず、後を尾けていたことが普通にバレた。

だってあんな、自分の食べかけを相手に差し出す所謂あーんなんて!この間のデートで俺にもしようとしてたけどもしかして彼女からしたらあれはどうってことないことだったのか?沖田さんにくれ、って言われたら何の戸惑いもなくやってしまうような軽い女の子だったのか?いやなまえに限ってそんな軽いなんてそんなまさか、そんなまさか!

今にも殴り合いになりそうな沖田さんと土方さんを尻目に、真っ青な顔で葛藤する俺、そして何を考えているのかそんな俺を見つめるなまえ。まさにカオスだ。更に何を思ったのかじぃっと丸い目を瞬かせた後彼女は俺の耳元に口を寄せた。


「ザキくん、ストーカーはだめだよ」

「っ!?」


今日一の驚きだ。まさか尾行がバレてたなんて。

くすくすと笑うなまえに呆気に取られているとまだ手に持っていたクレープをさっきの沖田さんと同じように俺にも差し出してきて「次のデートはここに来ようね」と言われればもうどうしようもない感情が湧き上がってきてぱくりとそれを一口もらった後「ご馳走様また明日!」と逃げ帰るしかなかった。俺の意気地なし。


彼女はなんでもお見通し
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