DEAD and LOVE | ナノ





「はい、ようこそ我が家へー」


ポストにスペアの鍵をしまっておいたらしく、何の心配もなくすんなりなまえの家に入れた。不用心だなと呟きながら部屋へ入ると足の踏み場はあるが少し散らかっている。


「わー、やっぱそのままだから汚いよね。じゃ、未練その五!」

「掃除だろ?」

「の前にー、制服!」

「…制服?」

「学生の時の制服!いつか使うかなって取っておいたけどもったいないから最後に着とこうかなって」

「酔ったままお前のコスプレ大会に付き合えと?」

「いいじゃん!お互い酔ってなきゃこんなバカみたいなことできないよー」


昨日言っていた掃除を済ませるのかと思えば、なまえがにんまり笑ってタンスの奥から取り出してきたのは昔着ていたというセーラー服だった。


「ちょっと着替えるからあっち向いててー」

「銀さん幽霊の裸には興奮しない主義だから安心して着替えろー」

「生きてた頃はナイスバディだったんだからね!」

「何しれっと嘘ついてんだ」


死んだだけで色々萎むわけねぇだろ、と頭を叩くとエッチ!と叫ばれた。残念だが幽霊の裸を見て興奮する趣味は本当にないのでとっとと着替えろ、と言い後ろを向く。数分してどう?とセーラー服姿のなまえがくるんと俺の前で一回転した時には、ふーんとだけ返した。


「ふーんってなに」

「ふーん」

「ジロジロ見ないでよエッチ」

「いや見て欲しかったんじゃねーのかよ」

「もう満足です脱ぎますバーカバーカ」


こいつの癖なのだろうか、口を尖らせ拗ねたように言われたがせっかく着たのにすぐ脱ぐのはなんとなくもったいないなと思い、そのままもう一杯飲もうぜと勝手に冷蔵庫を開けた。案の定ビールが数本入っていたので取り出して一本を手渡す。


「我が物顔で死人の家漁ってる」

「死んでんだからいーだろ、もったいねぇし」


ぷしゅ、と缶を開け一気に飲み干すとなまえも諦めたようにセーラー服のまま床に座り飲み始めた。


「制服でビールって、なんか悪いことしてる気分になる」

「むしろ俺が悪いことさせてる気分だわ」


制服を着た女を隣に座らせ酒を飲ませるなんてどう考えたって俺の方が悪いことをしているように見えるだろう。まぁ今誰がここ来ようともその姿は見えていないので何も困らないが。


「銀さんさ」

「あ?」

「ありがとね、ずっと付き合ってくれて」


酒も入っているせいか先ほどまでとは違いしんみりしたトーンで礼を言われ、ふと思う。死んですぐこいつは幽霊になったとして、きっと他に助けを求めたことだろう。しかし人に話しかけたところで全く見向きもされず、挙げ句の果てには見えていないような態度を取られ(というか見えていない)、どんなに心細かったか、俺がこいつを見えると分かった時どんなに安心したことか。もちろん死んだことはないので俺には想像もつかない話だが、精神的にきつかったのではないだろうか。


「…んなもん、依頼なんだからあたりめーだろ」


考えた瞬間、こんなに小さな身体でずっと一人何を強がっているのだと馬鹿馬鹿しくなった。いつ泣き出したっておかしくない状況だろう、未練だなんだと街を練り歩く元気なんて本当はないくせに。


「そっか、依頼だとしても私銀さんとこうやって最後に楽しく過ごせて嬉しいよ」


出た。ちょくちょくする俺と一緒にいられることに重きを置いているようなこの発言は何なんだ。まるでずっと前から俺と一緒にいたかったというような言い方だ。もう私今消えても本望かも、なんてへらりと笑われればこちらも照れ臭くなる。


「馬鹿野郎、んな簡単に消えるとか言うなってんだ。まだ未練残ってんだろうが」


笑った顔をあまり見ないように頭をくしゃりと撫でてやるといっそう幸せそうな顔をするものだから、ああこいつ可愛いとこあんじゃねーか、なんて思った時には胸のあたりからぞわぞわと何かが湧き上がってきているのが分かった。


「もうちっとよ、弱音くらい吐いていいんじゃねーの。せっかく俺には見えてんだし、お前のちっせぇ身体くらい余裕で受け止められんだからよ」

「…銀さんには荷が重いよばーか」


とまた強がった割にはこてん、と隣に座る俺の肩に頭を預け手持ち無沙汰なようにビール缶のふちをくるくると指でなぞっていた。下を向かれているので顔は見えないが照れているんだろう。素直じゃねぇなとグイッと身体を引き寄せて腕の中にすっぽりしまってやるとセクハラだと暴れられた。


「満更でもなさそうな顔してっけど」

「してない!セクハラだ!セクハラ!」

「あ、バカ暴れんなって酒溢れ、」


少しからかうとバタバタと手足を振られ手に持っていた缶を落としそうになる。危ない、と思った時には体勢を崩し一緒に倒れこんだなまえの上にいた。




制服
  
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