DEAD and LOVE | ナノ





もうそろそろいい時間かな、となまえが歩みを進めたのはかぶき町で一段と煌びやかな夜の街だった。


「おいおいおい何、お前次の未練なんなの」

「未練その四、キャバクラに行ってみたい」

「なんで!?」


今まではなんとなく納得もいくようなものしかなかったが今回ばかりは全く理解できない。何故キャバクラに行けないことが未練で成仏できないのか。しかし俺の制止も聞かず、一回行ってみたかったのと腕を引き適当な店に連れられた。黒服に一名様ですねと言われ中へ通される。あれ、もしかして依頼と称して(後々もらうとして)タダ酒飲めんの?と少しテンションが上がってきた。


「うわー、キラッキラだね。銀さんもいつもこういうとこ来てるんでしょ?」

「き、来てねーよ金もねぇのに」

「またまたぁ」


正直たまに飲んだあと黒服に捕まってフラフラと入っていくことはあったがつい否定してしまう。なんか不健全な感じがする、とブレーキを踏んだこと自体俺にしちゃ珍しいことだ。


「ていうか全然私の話無視していいからね。お姉さんたちに気味悪がられるよ」

「お、おう」


じゃあ一体何をしにわざわざ俺を連れて入ったのだと思ったがここは有難くタダ酒をいただいておこう。一人で飲むのは構わないがなまえはどうするのだろう、本当に自分は眺めておくつもりか…?


「楽しそうー!私もどさくさに紛れて飲んじゃおっかな!」

「グラス浮くだろバカ」

「こんな賑やかならバレないって、平気平気」


無視していいとは言われたもののつい小声で返事をしてしまう。さすがに放ったらかしにするのも変だろう。一応、依頼中ではあるしな。


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なんて思っていたのも初めの数十分ほどだった。一時間、二時間と経つとそもそもなまえを連れてきていたことなんて忘れて両隣の姉ちゃんと楽しく飲み潰れていた。俺には見えているなまえが周りには見えていないのだからそのうち話しかけてくる声も気にならなくなったんだ。


「…銀さーん、私そろそろ満足でーす」


飲み過ぎて近くなってきた尿意にトイレへ入ると小便中に後ろから肩を叩かれた。


「ギャーーー!」

「ギャーじゃないよ、ばか」


男子トイレで女の声が聞こえた時点でビビってしまったがなまえの顔を見て「あ」と思わず声が漏れる。やっちまった、と思った頃にはもう遅かったらしく口を尖らせたなまえに「呪い殺す」と呟かれ一気に顔から血の気が引く。


「ま、待て待て待て俺が悪かった俺が悪かったから!」

「…いいけどさ、なんか私もちょっと酔っちゃった」


またも幽霊でも酒飲めば酔うみたい、とお得意の幽霊ジョークを飛ばされる。思いの外ご機嫌は損ねていなかったらしい、というか酒のおかげだろう。さすがにもう行くか、と少し冷めた頭で会計を済ませ大人しく店を出た。


「おえ、ちょっと飲み過ぎた」

「銀さんバカだよね」

「あ?酒を飲むなら酒に飲まれてナンボって言うだろ」

「酒を飲んでも酒に飲まれるな」

「知らん知らん、銀さんそんな言葉知りませーん」

「もう、ダメな大人だなぁ。まだ依頼中なんだからしっかりして。綺麗なお姉さんにデレデレしてないでさ」


後半、眉間に皺を寄せて言われた言葉はいやに刺々しかった。いや、お前が連れてったんだろとは思ったが途中なまえの存在を忘れて普通にキャバクラを満喫していた俺が悪いことは明白だ。そして聞き違いでなければまだ今日の依頼は続いているらしい。


「また成仏できなかったし、今日のうちにできそうなことは今日やっちゃおうよ!私も酔ってて気分いいし、今のうち今のうち」

「しゃあねぇな…次は?」


確かにご機嫌そうに頬を少し赤らめとろんとした目でスキップする様に、これなら簡単に色々クリアできそうだとついて行く。俺も結構飲んでるし早いとこ終わらせたいのには変わりないが。あと一つくらいなら今日中に何か出来るだろう。


「次はね、私のお家に行きまーす!」




夜の街
  
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