DEAD and LOVE | ナノ





「おはよう銀さん」

「おー…」


目が覚めてまず目に入ったのは昨日の朝同様俺の布団の横で正座している幽霊だった。しかし起きてすぐ目の前に幽霊、は少し焦るのでやめて欲しいものだ。


「お前、寝てねぇのか」

「寝たよ。幽霊も寝れるんだね、不思議」

「飯食えんなら寝れもするだろうよ。必要性は感じねーけどな」

「でも眠くなるしお腹も減るからなんか変な感じする。死んでるのにね」

「あーあー朝から暗ぇこと言うのやめろよ馬鹿野郎」

「幽霊ジョークだよ幽霊ジョーク」


昨日から思っていたがどうにもこいつは死んだこと自体を気にしていないように振る舞いたいらしい。最初は本当にただ単純にとっとと成仏してこの世からおさらばしたいのかとも思ったが、「はいあなたは死にました」なんていきなり現実を突きつけられてすぐに整理がつくわけがない。証拠にこうして依頼だなんだと言いつつも日常をもう一度、とあっちこっち行っているところを見るとそもそもこの世自体に未練がたらたらなのだろう。


「銀さんあのね、今日の未練はね」

「もう今日の未練って言っちゃったよ!明日にも未練たらたらじゃねーか!」

「だってメモに書いてある未練、あと七つあるんだもん」

「七つ!?」

「合計して十個。キリよくない?」

「今更キリとか気にしてんじゃねーよとっとと成仏しろ!」

「つれないなぁ」

「…まあ途中で満足する可能性もあるだろ、とりあえず今日やること教えろ」

「うーんとね、四つ目は夜にならないと達成できないんだよね」


おいじゃあなんでこんな朝っぱらに起こしたんだなんて思ったがもうこの際なまえにとことん付き合ってやろう。夜までどうしたものかと考えたが、せっかくならと江戸の街を散策したいとなまえが言い出したのでそれに同行することになった。


「最後に色々思い出の場所まわっといた方がいいと思って」

「別にいいけどよ、それ一人の方がいいんじゃねーのか」

「ううん、銀さんとまわりたい」


これでも私昨日からずっと銀さんといれて嬉しいんだから、と言われ少しドキッとする。なんだどういう意味だ、と一瞬悩んだが自分が見えて話せる人間が俺しかいないのだからそういう意味だろうと捉えておいた。深い意味はないだろう、多分。


「じゃ、行きますか!まず私が死んだ河原!」

「早速重いんだけどそれも幽霊ジョーク!?」

「幽霊ジョークでもあるけど本当によく行ってたの!その河原で一緒に仕事をサボるお友達がいてね」

「お前生きてた時もいい加減だったんだな」

「真面目も真面目だったから!ちょっと人より休憩が多かっただけで」

「それが不真面目ってんだけど辞書引く?」

「辞書で銀さんの頭ぶん殴って死んじゃえば寂しくないね」

「全然ジョークに聞こえないからやめてもらえますかすいませんでした」

「幽霊怒らせると怖いんだからね」


にこやかに言うなまえの目の奥が笑ってないように見えて割と本気で怖かった。幽霊に殺されて俺も幽霊になるなんてそんなめんどくせぇ展開勘弁してくれ。話をそらすことも兼ねてさっさと準備を終わらせ万事屋を後にする。それにしたってマジで自分が死んだ場所にこれから行く気なのか。


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「わー、一昨日ぶり。この辺でよく寝てたなぁ」

「その友達とやらに会うっつーのは未練じゃねーの?」

「会ってもどうせ見えないし。まぁでもそれも未練メモに書いてあるよ!メインディッシュはもう少しあとに取ってある!」

「メインディッシュとか取って食い殺すみたいな言い方すんなよ」

「取って食い殺すのもアリ、銀さんを」

「ほんとやめない!?それ笑えねーから!」


私は笑えるけどなぁと首を傾げるなまえに身震いしながら河原の散歩に付き合う。箇所箇所で、ここで一緒にお団子を食べただとかここで喧嘩しただとかここでプロレスごっこをしただとかいう話を聞かされながら。


「ずいぶんアグレッシブな友達だなプロレスごっこって」

「まあねー。喧嘩した時なんてバズーカ撃たれて本当に死にかけた。あ、もう死んでるけどね」

「お前殺したのそのバイオレンスな友達じゃねーの!?」

「仲は良かったよ!弟みたいな感じ。向こうから言わせたら妹みたいな感じらしいけど、っていうか喧嘩の内容それだったなぁ」

「ふーん。なんか俺の知り合いのバイオレンス少年に似てるな」

「…あー、そうなんだ。きっと良い子なんだろうね」

「いや、話聞いてた?お前の友達に似てバイオレンスな奴だからね?」


その友達とやらの話をするなまえはとても優しい顔をしていた。本当に家族のように大事にしていたのだろうと思う。だからって同じく俺の知り合いのバイオレンス少年、沖田総悟が良い子というわけにはならないが。


「もうちょっとブラブラしたら次の未練いっちゃおうかな!」


あと少し街の方を散歩したら満足だと言い軽い足取りで俺より数歩前を歩くなまえについて行く。河原まで来て何か思うことがあったのだろうか、何を考えているのかいまいち掴み辛い表情をする為なんと声をかけていいのかも分からなかった。




散歩
  
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