DEAD and LOVE | ナノ





「あれー、いつもこの辺にいるんだけどなぁ」

「これ、見つかるまで帰れねーんだよな」

「もちろん。これが未練だったら帰ったら成仏できないよ」


真昼間の公園でしゃがんで草むらをガサガサと探る姿はやっぱり全然幽霊には見えない。なんならこいつ嘘ついてんじゃねーか、なんてたまに思ってしまうが、そんな期待(というか疑い)も先ほどの団子屋で打ち砕かれたので信じる他なくなったのだ。そしてとっとと成仏してもらうしか解放される方法はないことも確定した。


「ちょっとー、銀さんも探して」

「これでも探してっから、血眼も血眼よ」

「全然死んだ魚みたいな目してる」

「死んでんのはお前な」

「死んでる私より死んだ目してる」

「悪かったな!」


要所要所で生意気なこの幽霊は本当に簡単に成仏してくれるのだろうか。一抹の不安が過るがぶんぶんと頭を振り、いや成仏してくれないと困ると今度こそ本気で一緒になって猫を探しだした。


「どんな猫だよ」

「真っ白でふわふわなやつ!たまに洗ってやらないとちょっとくすんだ白になるけど」

「お前そんなに世話してんのか」

「まあねー。飼いたいけど、バイト先に下宿してるから無理なんだ」

「ふーん」


なんでもない会話を挟みつつ、あっちでもないこっちでもないと公園を探し回っているといきなり目の前に真っ白な塊が飛び出してくる。


「あ!ギン!」


見たところどうやらこの猫らしい。それにしたってまたついつい反応してしまいそうになるような名前を付けてくれたもんだ。


「ギンー、久しぶりだね元気してた?」

「にゃーにゃー」

「なんだ、猫には見えてんだな」

「動物ってそういうの見えてるって聞いたことある!ほら、ホラー映画とかでもよく見るやつ」


ホラー映画は全く見ないのでこいつの言っていることはよく分からないが、実際この猫は嬉しそうになまえに擦り寄っているのでどうやら本当に動物には幽霊が見えるようだ。あとついでに触れる。ずいぶん懐いている様子の猫に餌をあげている姿はごく普通のガキ(と言うには育ちすぎか)にしか見えない。


「この子なんか銀さんに似てない?」

「…そうかァ?」


ほら、と猫を差し出して見せてくるが、当の猫自身は俺の目の前に出された途端不機嫌そうにじと目で睨んでくる。オイなんだこいつ可愛くねーな!


「俺の方が二枚目だなこりゃ」

「銀さんの方がふわふわだね」

「頭のこと言ってんなら一発殴らせろ」

「こわいねーギン。大人気ない人はやーね」


ねー、と猫に顔をすり寄せ抱きしめているのを見て先ほど似ていると言われたせいか柄にもなく少し背中がむず痒くなった。


「ずいぶん懐いてるけど、お前いつもここ来てんのか」

「うん、飼えないかわりに餌は毎日あげに来てる」


毎日、と聞いて言葉に詰まる。なまえがずっと餌をあげに来ていたのならこの猫はこれからどうするのだろう。元より野生だったのだから野垂れ死ぬということはないだろうが、それでもこいつが来なくなってもずっとこの公園で待っているのではないか。


「今、可哀想って思ったでしょ。私のこと」


猫のことを言っているのかと思ったがどうやら違うらしい。そうだ、今俺がつい思ってしまったのは寿命でもなんでもなく人の手で人のエゴで突然死ぬことになってしまったこいつのこと。俺が今単純に可哀想そうだと思ったところでそれを口に出しても困るだろうと黙り込んだのに気づいたようだ。


「いいよ全然、自分でも運がなかったなって思ってるし」

「…いや、なんか悪ィ」

「謝らなくていいのに。んー、よしそろそろ行こうかな!じゃあね、ギン」


最後にもう一度猫をぎゅっと抱きしめてから、じゃあ行こうかと歩き出す小さな背中に後ろから着いていく。


「なぁ」

「ん?どうかした?」

「たまにだったらよ、俺が見に来てやるよ」

「えー、ちゃんと仲良くできる?」


同情してしまったわけではないのだが、なんだかこの小さな身体でなんでもないように強がるなまえを見て、少しくらい肩の荷を軽くしてやろうと思ったのだ。さぁな、と適当に返事をするとニコニコとやけに嬉しそうな顔をされ、照れ臭かったのでちょっと強めにでこを叩いてやった。しばらく俯いて痛がっていたがハッ!と弾かれたように顔を上げて言われたことは、


「触れるんだね」

「は?」

「私のこと、銀さんも触れるんだねって!」


だった。どうにもこいつといると調子が狂っちまう。昨日の今日で何を振り回されいるんだと気を取り直し、さぁ次はなんだと聞いてから気づいた。


「…オイこれも成仏できてねぇじゃねーか!」

「つ、次いこう!次!」





  
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