DEAD and LOVE | ナノ





「あったま痛ぇ…」

「大丈夫ですか?」


朝目覚めると知らない女に水を差し出された。え、何俺やっちまった?酔った勢いでワンナイトラブしちまった?と顔から血の気が引いていくのが分かったが、痛む頭で必死に思い出してみるとそういえば昨日酔っている俺を家まで送ってくれた女がいたなとギリギリのところで思い出す。


「あー、昨日の女だよな…?」

「忘れちゃいました?」

「おいやめろよそのちょっとドキッとする言い方!なんもしてねぇよな?俺なんもしてねぇよな!?」


女が眉尻を下げて斜め下を見ながら返事をするもので、俺の記憶が間違っていたのかと慌てたがその様子を見て冗談ですよと笑った顔になんとも言えない違和感を覚える。


「俺、あんたと会ったことあるか…?」

「うーん、何度かお会いしてますけど、坂田さんは私のこと知らないんじゃないかなと」

「いや、でもどっかで見た顔、」


途中まで言いふと昨日見たテレビの映像が頭の中で思い出される。女ばかりを狙う連想通り魔のニュース、一昨日の被害者には近所の河原で女が一人襲われたらしい。そしてその被害者の女の顔写真と目の前にいるこの女の顔がリンクした。


「…いやいやいやいやいや、え?」

「え?」

「あーあれだよなあの襲われたけど助かってました的なあれだよなそうだよな」

「…もしかして、一昨日の話をしてますか?」

「通り魔事件、の」

「やっぱりですか。私一昨日の事件の被害者で、死んじゃったみたいです」

「いや助かったんだろ?助かったからここにいるんだろ?そうだよな?そうだよな!?」

「死んじゃったみたいです」


聞こえませんでした?ともう一度繰り返した女の言葉に気を失いそうになる。


「待て待て待て、俺は騙されねーよ!ちょっと可愛いからってそんな冗談で大人をからかうんじゃありませんていうかやめてください!」

「ありがとうございます」

「何可愛いだけ拾って礼なんか言ってんだよ話聞けよオイ!」

「まぁ信じてもらえないですよね、何か証明できればいいんですけど…あ!そういえば昨日の眼鏡をかけた男の子、私のこと見えてなかったんですけど覚えてませんか?」


さらに記憶をたどってたどって、玄関での新八とのやり取りを思い出す。確かこの女に茶を出してくれと言うと新八はおかしな奴でも見るように「何言ってんですか、銀さん一人なのに」と返してきた、はず。


「ギャーーーーー!」

「えええ、ちょっと坂田さん!」


ということは目の前のこいつは本当に幽霊なのか、幽霊ってことになるよな!?気付いた瞬間にはもう叫んでいた。目の前の女はいきなり叫ばれたことに驚いたのか目を丸くしてこちらを見ている。


「朝からご近所迷惑ですよ、叫んだら」

「朝から俺の心臓に迷惑なんだよ!叫ばせてんのお前なんだよ!」

「ええ、ごめんなさい。もしかして坂田さん、オバケ怖い感じですか」

「おま、んなもん怖いわけねーだろ銀さん舐めんなよ幽霊ごときが!」

「そうですか、じゃあ話しにくいのでこっちに来てもらっていいですか」


ジリジリと後ろに下がり部屋の隅から話していた俺に苦笑した女(ていうか幽霊)は戻ってきてくださいと先ほどまでいた布団の上をポンポンと叩いた。ぶっちゃけできることなら近づきたくないが昨日言っていた依頼とやらの話を聞かねばこの場から消えてはくれなさそうだ。仕方ないので恐る恐る元の位置に正座する。


「本題に入りますと、依頼のことなんですが」

「さすがに生き返らせるとかそういう無理なんであの、本当勘弁してもらっていいですか」

「生き返らせるとかじゃないですし断っても呪い殺したりしないので安心してください」

「やっぱり呪い殺したりできんの!?あーもう俺無理パスパスパス」

「ちょっと落ち着いてくださいってば。生き返りたいわけじゃなくて、成仏したいんです」

「…成仏?」

「死んじゃって幽霊になったってことはきっと私未練があるんですよね、たぶん。だからその未練を無くせば成仏できるんじゃないなって」


そんな漫画みたいに簡単な話なのかと聞くと私も分からないと返される。


「つーか、あんたのことは俺にしか見えてねーの?」

「…みたいですね。だから坂田さんにしかお願いできないんです」

「オイオイなんつー奇跡起こしてくれてんだよ、大人しくソウルソサエティ行ってくれよ」

「私だって大人しくソウルソサエティに行きたかったけど無理だったんですってば。ホロウですよホロウ」


いや悪さはしませんけどねと笑う幽霊に、改めてこの面倒な事態を理解して目眩がした。とっととこの依頼を終わらせて解放されようと何故俺にしか見えていないのか、未練とは何なのかいくつか聞いてみたが何を聞いても私も分からない、の一点張りだ。


「埒あかねーよ!」

「だって、分からないんですもん」

「もん、じゃねぇ!幽霊にそんなぶりっこされてもなんとも思わねーぞ!」


この状況にもこの女にも慣れてきたので本当はちょっと可愛く見えたけど幽霊に可愛いもクソもあるかと思い直す。話が全然進まないのでどうすんだこれと困っていると女がそういえば、と話し始めた。


「そういえばずっと私のこと幽霊とか言ってますけど、名前ありますからね。なまえって呼んでください」

「あーそっちの方が怖さ軽減されるわ。なまえ、な」

「私は坂田さんのこと知ってますし、これでおあいこです」

「そういえばどこで俺のこと」

「有名ですから。万事屋銀ちゃん、友達がお世話になったんです。それだけなので気にしなくて大丈夫です」


俺の言葉に被せるように言ってきた幽霊もといなまえに、何かそれ以上言いたくない理由でもあるのかと不思議に思ったがまぁ後々にでも聞けばいいかとその時は気にしないでおいた。


「まぁ元々知ってんならもっと気楽に呼んでくれていいぜ、銀さんとか」

「じゃあお言葉に甘えて銀さん、気楽にって言うならそっちこそずっと冷や汗止まってないけど、」

「うるせー放っとけ!塩まくぞ馬鹿野郎!」

「塩で成仏できれば苦労しないけどね」


減らず口の多い生意気な幽霊だ。早いとこ成仏させてこんな依頼とっとと終わらせてやる。




幽霊
  
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