DEAD and LOVE | ナノ





なまえが消えてから、正しくは成仏してから、数日が経っていた。周りにあいつは見えていなかったこともあって、急に俺がどこか心ここに在らずというかなんとなくボーッとしていることに新八や神楽は心配していた。ガキに心配かけるなんて何してんだ、と情けなくも思った。このままではいけないのだろうと自分でも分かっていたので一区切り付けようと思い立った頃、ちょうどと言うかなんと言うか、タイミングを見計らったように万事屋に客人が来た。


「どーも旦那、元気ですかィ」


どう見たって元気ではない俺を見た第一声、先日の仕返しだとばかりに笑ってみせたのは沖田くんだった。


「この間はわざわざ来てもらっちまったんで今度はこっちから出向きやした」

「そりゃお気遣いどーも…」

「なんでィ、浮かねー顔してやがる」

「大人には色々あんだよ、色々」

「その色々について、旦那は知らねーこと教えに来てやったんでさァ」


ま、この間のことはこれでチャラにしてくだせェ、とまで言うこいつはわざわざ何を伝えに来たと言うのだろうか。俺が惚けている色々についてだと言ったということは、なまえのことか?


「旦那は幽霊だなんだ言ってやしたが、そりゃ生き霊って意味だったのかと思って」

「生き霊って生きてる奴の霊ってことだろ、ちげーよ」

「だとしたらおかしいや。あいつまだ生きてやすぜ」

「は?」

「何もピンピンしてるって訳じゃねェ、意識不明のままもう目が覚める可能性はゼロに等しいっつー状況だが、息はしてるんでさァ」


なんとか言われた言葉を噛み砕こうと奮闘してみるもののどうにも上手く理解ができない。どういうことだ、あいつ確かに自分で死んだって言ったよな?っつーことは本人もそのことを知らないまま化けて出たってことか?

だとしたら、だとしたら。
その未練がなくなった今、意識不明の状態というのも怪しくなってしまうのではないか。


「…どこだ、病院!!」

「そう言うと思ってやした。まぁ目ェ覚ますかどうかは分かんねーけど、声くらい掛けに行ってやってくれねェかと思って、これ」


差し出されたのは病院の名前と地図と部屋番号の書かれた紙。一秒でも早く生身のあいつを見てまだ生きてるってことを確認したい。成仏なんて馬鹿な依頼、化けてまでしてくんじゃねェって怒鳴ってやらァ。そう思うと今まで数日ボーッとしていたことも忘れて駆け出した。


「旦那、あいつのこと頼みます」

「…まだ起きるかもしんねェんだから物騒なこと言うなってんだ!おめーが直接目と目合わせて話してやれ!」


力無く笑う様子を見るからに、医者から直接言われた言葉は相当重くのしかかったのだろう。絶望的状態だと言われたのだろう。それでも幽霊なんて形じゃなくて生身のなまえに声を掛けて返事が返ってくることに期待せずにはいられなかった。




成仏
  
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