DEAD and LOVE | ナノ





銀さんは優しすぎるよ、と目を細めて笑う顔はスッキリとしていて覚悟を決めた人間の目だと思った。


「本当はね、銀さんにだけ私が見えてた時から気づいてたんだ」

「待てよ、お前…」


俺の制止の声にふるふると弱く首を横に振ると言葉を続けた。最後のお願いって、なんだよなんで今そんな言い方するんだ。


「優しいから、正直ずっとこのまま甘えちゃおうかなって思った」

「だったら最後なんて言わずにいりゃいいだろ、このまま。そりゃ誰にも見えねーかもしんねェけどよ…俺には見えてんだし、ましてや触れんだ、何か他の奴らにも見えるようになる方法が、」

「ないよ。駄目だよそんなの、もう私死んでるんだから」


何だ、これじゃ俺が駄々をこねてるガキみてーじゃねェか、なんで当の本人がそんな顔して笑えんだ。


「私ある人にちゃんと伝えなきゃいけないことがあって、それが心残りだったんだと思う。銀さん、聞いてくれる?」


疑問系ではあるが、声には有無を言わせない力強さがあった。こくり、一度頷くと深呼吸をした後ゆっくり伝えられた言葉は全部思いもしなかったことばかりで、なんでもっと早く言わねェんだとかそんなことばかりが頭の中に浮かんでは消えた。


「ずっと前から好きでした」


あぁ、そういえばこいつは前から俺を知ってるって言ってたっけ。真選組の女中だったんなら確かに何度か会っていたのかもしれない。でも、好きだなんて言われる程のことをしたことがあっただろうか。


「屯所で何回か顔を合わせてその度に厄介事を持ってくる奴らだって土方さんは毎回愚痴を言ってたけど、その分私も近くで真っ直ぐなその紅色の瞳を見てきました」


どの時のことを言っているのだろう。夏に幽霊もどきの天人をとっ捕まえた時か?公務執行妨害だなんだと誤認逮捕された時か?変な妖刀に憑かれたマヨ野郎をぶん殴った時か?それとも、全部か?


「覚えてないかもしれないけど、上京して、女中になりたてでスーパーの前で荷物をぶち撒けちゃった私を皆が皆迷惑そうに通り過ぎていく中でぶっきらぼうだけど、声を掛けてくれたのもあなただった」


言われてみればそんなこともあっただろうか。記憶の片隅に何か引っかかるものがあるような気もするが、はっきりとは覚えていない。俺もたまには良い事するもんだ。


「銀さんにとってはなんてことないことだったかもしれないけど、私にとっては忘れられないことで、もうずっと前のことだけど鮮明に思い出せます」


なんだよそれ、確かに覚えてはいねーけど、お前だけずっとそんな前から俺のこと見てたのかよ、そんなの不公平だろ。


「一方的にこんなこと言われても気持ち悪いかもしれないけど、ずっと伝えたかったの。こうやって死んでからだけど一緒にいれてとっても幸せだった。やっぱり好きだなってすごく思ったよ。ありがとう」


言いたいことはたくさんあった、返したい言葉もたくさんあったが全部聞き終えて掴んでいた肩をそのまま抱き寄せた時にはもう、今ここにあった温もりは消えていた。確かに掴んだはずの肩も抱き締めた筈の感触も柔らかい匂いも全部無くなっていた。


「…っ言い逃げかよ」


散々振り回しておいて、自分の言いたいことだけぶちまけて、勝手に消えやがった。何が未練だ、今までやったことは全部なんともなかったくせに、こんな時だけいなくなっちまうなんて。


「ずりィだろ、こんなの」


グッと握った拳からは血の気が引いて白くなっていた。




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