DEAD and LOVE | ナノ





屯所からの帰り、しばらく泣き止まなかったなまえが落ち着いてから万事屋に戻ると泣き疲れたのかすぐに俺の布団で寝入ってしまった。目を離す気にもなれず小一時間ほど寝顔を眺めながら頭を撫でてやっていたのだが、どうやらそのうちに俺も眠ってしまっていたらしい。次に目を覚ました時にはすっかり外から眩しいくらいの陽射しが差し込んでいた。


「…あー、二度寝すっか」


うん、まだ早いなといつも通り二度寝をする為に布団に潜り込むと昨晩はあった筈の温もりが感じられないことに気づく。あれ、そういやなまえは。


「…っ!」


途端に言いようもない不安が押し寄せてきてガバッと起き上がる。寝起きで上手く回らない頭を叩き起こし、なまえはどこだと寝室を出た。


「なまえ!!」


まさか昨日の未練で成仏しちまったんじゃねーだろうな…と焦りを隠せぬまま名前を呼ぶ。と、洗面所の方から足音が近づいてきてけろりとした顔で返事が返ってきた。


「はーい?」

「…は?」

「え、は?って何よ。呼んだでしょ?」

「いや、お前、え?成仏したんじゃ…」

「ご覧の通りしてませんけど。もしかしてそれで慌ててたの?」

「は、はァァ!?だだ誰がどこがどの辺が慌ててたんだよ自惚れてんじゃねーよバカヤロー!」

「そんなムキになんなくてもからかっただけなのにー」


俺の焦った声と顔に状況を把握したらしいなまえは途端にニヤニヤとした表情に変わりやたら嬉しそうに横腹を突いてきた。なんだこいつ舐めてんのか早く成仏しちまえバーカバーカ!


「ま、心配してくれてありがとう」

「…心配なんかしてねーよ!」

「私成仏する時はちゃんと銀さんには挨拶してくからさ、安心して」


ふわりと微笑んだこいつに言い返そうと思っていた言葉も引っ込んでしまい、むず痒くなった背中を気にしないように思い切り髪をぐしゃぐしゃにしてやると「今セットしてきたのに!」とご立腹の様子のなまえを尻目に居間へ向かった。

ソファへ座ると当然のように並んで横に座られ、ぼーっと二人でテレビを見る。


「あれ、今日もどっか行くんだっけか」

「七つ目も駄目だったしね、ちなみに八つ目もついさっき叶っちゃった」

「は?俺の知らねー間に?」

「あ、これこれ、ちょうど今やってる」


そう言って指差したのはテレビ画面に映るニュース番組で、テロップに「連続通り魔事件の犯人、ついに逮捕される!」と書かれていた。連続通り魔事件の犯人、と言うと…


「犯人、捕まったのか」

「うん、そうみたい」

「なるほどな、八つ目の未練ってこいつか…」

「おかしいね、まだ成仏できてないや」


こちらを見ることはなくテレビを見つめたまま呟くなまえの横顔から心境は掴めず、何と声をかけてやればいいか分からなかった。ただ自分を殺した犯人がやっと捕まったと言うのに浮かない顔をしているのを見ると、この未練でこそ成仏できると思っていたのだろう。


「ごめんなさい」


やっとこっちを向いたかと思えばなまえの口から零れたのは謝罪の言葉だった。困ったように眉を下げている。


「私迷惑でしょう。未練未練言ってずっと銀さんの側にいて、もうこれ地縛霊だよね」

「…まァ、いいんじゃねーの」

「え?」

「こんなにのんびりやり残したこと出来るなんてよ、むしろラッキーだろ。まだ時間あんならちゃんと付き合ってやっから」


嘘ではない、なんならもっとゆっくり、ずっとここに居てもいいんじゃないかという俺の言葉に数回瞬きをした後、おかしそうにくすりと笑ったなまえは何故かもう一度謝罪の言葉を繰り返した。


「ごめんなさい、銀さん。私本当は気づいてたんだ」


何がだと問う前に嫌な予感がした。


「最後のお願い聞いてくれる?」


細い肩を掴むとまた困ったように眉を下げられ、内容こそ分からないがこいつは今日ここでこのまま成仏する気なのだと目を見て悟った。




犯人
  
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