DEAD and LOVE | ナノ





やたらとうるさい鳥の鳴き声でもう朝なのだと気づく。結論から言うと一睡もできなかった。昨晩のことが気にかかりすぎたのだ。やっちまったなーとかもう死んでる相手に何思ってんだ、とか。こんなに自分が悩んだのだから少しくらいはなまえも気にしているだろうと奥の布団に目を向けると熟睡していた。


「オイ起きろアホ幽霊」

「…銀さんのアホー」

「お前今目ェ開けたのに何寝たふりしてんだしばくぞ!」

「これは寝言です」

「ばっちり起きてんじゃねーか!」

「ちっ。バレたかぁ」


へらへらといつも通り生意気な物言いをするなまえに昨晩からの俺の葛藤が無駄だったことを思い知らされる。ていうかそもそも俺、酔ってるとはいえ何幽霊に欲情してんの!何幽霊とやっちゃおうとしてんの!


「やべーなんか新しい扉開いちまったかも…」

「え、朝から何言ってるの…」


こわい、と訝しげにこちらを見られたが俺が悩んでいたのはお前のことだとも言い出しづらく、少し強めにデコピンをお見舞いしてやった。


「こわいのはお前だ幽霊」

「幽霊よりこわいよ銀さんの変態発言」

「うるせーよ!つーか早く起きろ!」

「はあい」


呑気な面で大きな欠伸をかましてから立ち上がって「ああ掃除だったっけ」と伸びをしたなまえを急かす。朝っぱらから人の家(しかも既に死んでいる)の大掃除に付き合うなんてぶっちゃけ面倒くさいことこの上ないのでとっとと終わらせてしまいたいのだ。


「で、掃除っつってもそこまで散らかってねーだろここ」


今しがた言った通り、綺麗とまでは言わないが部屋はある程度整理されていて片付けると言ってもあまりピンと来ない。


「バイト先に借りてた物を返したいのと、渡したいものがあって」

「昨日言ってた弟分ってやつにか」

「そうそう。死んだ後こんなことする余裕あるなんて思ってなかったから、何も言わず消えるよりかラッキーだよね」


ごそごそと部屋を漁ったなまえがしばらくして揃えたものは三角巾、それと小さな手鏡だった。大事そうに持っていたそれを「ん!」とさながらトトロのカンタのように俺に差し出す。


「え、何これ俺にどうしろと」

「私見えないじゃん、銀さんが返して」

「いやいやいやお前のバイト先も知らない俺がいきなりそんなもん持ってったらビビるだろ」

「大丈夫、銀さんも知ってるとこだし知ってる人たちだから」

「は…?」

「というわけで未練六はおしまい!七つ目行こっか!」


何を言っているのか分からないという顔をした俺の腕を引いていいからいいからと部屋を出るなまえについていくが、そのうち見慣れた道を辿っていることに気づきみるみるうちに青ざめた。


「おいおいマジかよそんなわけないよねいやまさかね」


この方向、というかもうこの道の突き当たりにあるのはチンピラ警察の屯所で、バイト先は俺の知っている場所だと言っていたなまえの言葉を思い出すとどうやらそのまさからしい。ていうか何、こいつこんなとこで働いてたの?


「はい到着。真選組でーす」

「でーす、じゃねェよでーすじゃ!」

「だから私は銀さんのこと知ってるって言ったのに」

「おま、知ってるってそういうこと!?」

「数回お茶も出してるし買い出しの時に見かけたりもしてたよ」

「そんなもんいちいち覚えてるわけねーよ!」

「でしょうね」


へらりと笑うなまえの様子を見るからにどうやら悪い冗談って訳でもないらしい。改めて頭を抱えて考え込んでも状況は一向に変わる気配もなく、諦めて真正面から真選組屯所へ足を踏み入れた。


「あのォ!すいまっせーん!」

「あり、旦那じゃねーですかィ」


意を決して大声を出してみると思いの外近く、というか真後ろから見知った奴の声が聞こえたもんで思わずビクリと体を縮ませる。オイオイ、いきなり大本命来ちゃったよ。


「よ、よォ…総一郎くん元気か」

「旦那、総悟です。つーか、そんなことわざわざ言いにここまで来たわけじゃねェでしょう。不自然すぎまさァ」


反射でいつものやり取りをしてしまったが俺の目があり得ないくらい泳いでいたせいか、若干鋭くなった目線をこちらに投げかけてくる隊長様と、早くブツを渡しちまえとばかりに手をパタパタ振る幽霊に頭痛がした。まずなんと説明すればいいのかも纏まっていなかったが、こうなりゃ仕方ねェと一度落ち着かせるように息を吸う。

よりも前に、流石と言うべきか沖田くんが先に俺の手元にある物に気づいたらしい。一瞬にして大きい瞳が更に見開かれるのがスローモーションのように見えた。




掃除
  
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