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- ナノ -

お互いの好きなところを10個言わないと出られない


「こ、こんな状況で、そんなこと、言えると思う……?!」

 必死の形相のあたしを見つめたレノは、それから何も言わずにふい、と目を逸らした。信じ、られないん、ですけど!! 先程の指令の通り、レノに抱かれたのは、まあ、同意だったし、仕方のないことだとは、思うけど。思うけど! なんか、すごい、すごくて、すご、う、あ……!! 思い出したらまた顔に熱が集まってきて、恥ずかしすぎて穴があったら入りたくなる。だって、恋人ですらないのに、あんな、あんなこと……!! キッとレノの横顔を睨みつけたけれど相変わらず目は合わない。合わないけど、ニヤついた口元を隠すつもりもないらしい。コイツ、ほんっといい根性してるな?!

「あんたのいいところ、10個もないんですけど?!」
「好きなところ、な」
「余計ないわ!!」

 ていうか、好きじゃ、ないし!! 叫んだら腰に響きそうだったので、心の中だけで呟いた。体力はポーションのおかげで回復しているけど、メンタル面でのショックは計り知れない。ていうか、あの、ソウイウコトが終わった後に、しれっとチェストの上に二人分のポーションがあるのもめちゃめちゃに腹立たしい。そして部屋の隅にいつのまにかシャワールームと着替えが出現していたことも相当むかついた。シャワー浴びたけど。着替えたけど。許すまじ、犯人。

「で、どうすんだよ、と」
「え?」
「だから、言わねーと出れねぇだろ。どうすんだよ」
「いや、言うしかないでしょ」
「どうやって? おまえ、覚えてねーんだろ?」
「……て、敵として、好きなところ……?」
「なんだそりゃ」

 レノは怪訝そうな顔をしたけれど、あたしは自分の発言に自分で感動してしまった。そうだよ! 好きなところを挙げたからといって、その人が恋愛対象とは限らない。友人だったとしても、好ましい部分はちゃんと“好きなところ”だ。

「えっとね、レノはね、……すばやい!」
「それ、好きなところか……?」
「あと、悔しいけど、強い。あたしのこと楽々抱き上げたし、力持ち……? ピアノが弾ける」
「さっき知ったことじゃねえかよ」
「あたしのこと思って、ずっとロッドを持っててくれた。手入れもしてあって、気配りができる」
「……」
「あと、ルードが言ってた。あいつは一途で仲間思いだって。あんたが本当にそうなのか知らないけど、本当だったら、そういうところは好き、かな……」
「そ、う、かよ」
「うう、あと2つ……? なんだろ……」
「……セックスが上手い、はい」
「セックスが、うまい……あ、え?! やだ、今のなし!」
「おまえあんだけヨガってて今更だろ」
「う、な、……うぐ……もういいよそれで……」

 ケタケタ笑うレノを睨みつけてから、再び考え込む。あと一つが出てこないんだよなあ。悩むあたしを、レノがじっと見つめた。そのアクアマリンみたいな瞳が、きらきら光って、吸い込まれてしまいそうで。唇から思わず零れた言葉。聞き取れなかったレノが、その柔らかい唇を開く。「なんだよ」優しい声だった。するりと言葉が紡がれる。

「ひとみ、」
「あ?」
「瞳が、綺麗で……」

 好き。最後は言葉にならなかったけど、レノにはどうやら伝わってしまったらしい。少し目を見開いたレノが、小さく「あっそ」と呟いて視線を逸らした。手のひらが口元を隠してしまったので、その表情は窺えないけれど。見間違いでなければ、その耳が、真っ赤に、え、あ、うそ、照れてる……?!

「れ、レノ、あの、」
「うるせぇ黙れ口を閉じろ」
「もしかして、照れ、」
「それ以上言ったら犯す」

 ぴたりと両手で口を押さえると、はあ、とレノがため息を吐いた。一瞬の沈黙。新しい指令が来る様子はない。そうか、お互いの、となっていたから、次はレノが答えなきゃいけないのか。名前を呼ぶために手を下ろそうとしたけれど、それよりも早くレノの腕があたしに伸ばされた。抵抗する暇もなく、強い力で抱きしめられる。れ、の……? 戸惑うような声はくぐもった。

「一回しか言わねえからな」
「あの、」
「頑固なとこ、負けず嫌いなとこ、何事にも一生懸命なとこ」
「えっ、あ、」
「逆境に負けねえとこ、相手の感情に敏感なとこ、乳はちっせぇけど感度がいいとこ」
「な、ちょ、んぶ、」
「柔らかい髪も、名前を呼ぶ声も、首筋に埋めると香る匂いも、オレを見つめる瞳も。全部好き」
「っ、」
「……これでいーだろ」

 ぎゅ、と一度強くあたしを抱きしめたレノが、ばっと勢いよくあたしを解放した。そのままくるりと背中を向けてしまったせいで、ちらとも表情は窺えなかったけれど。やっぱり耳は真っ赤で、でもそれを指摘する余裕はあたしにはないのだった。だってきっと、あたしの顔は真っ赤だから。


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201213



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