×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

出られない部屋


「……い……おい……いい加減起きろよ、と!」
「ん、やぁ……もうちょ、っと……」
「……起きねえとキスしちまうぞ」
「っ?! す、すとーっぷ!!」

 聞こえてきた不穏な言葉に反射的に飛び起きると、目の前の男は不満そうに舌打ちを溢した。視界の端で、見慣れつつある赤毛がふわりと揺れる。え、び、びっくりした。レノじゃん! なんでレノが目の前にいるの? 脳内がクエッションマークでいっぱいになって、現状が全く理解できない。え?? なに?? なにこれ? 一体どうなってんの? 必死で眠る前のことを思い出そうとしたけれど、残念ながら全くなにも思い出せない。あたし、クラウドたちと旅してたんじゃなかったっけ? なんでレノと一緒にいるの? はっ、もしかして……!!!

「ま、まさかアンタ、またあたしのこと拉致って、」
「ちげーよ! ていうかオレも拉致られたんだっつの」
「え?」

 ぐるりと周囲を見回す。ただっ広いリビングのようなそこは、壁や天井など全てが真っ白だった。あたしが横たわっていたソファも、不自然なくらい汚れのない、白い革のような素材でできていた。不気味な此処は、なんだか現実世界とは到底思えなくて、まだ夢の中を漂っているような気分になる。

「こ、ここ、どこ……?」
「知らね」
「出口は?!」
「あっちの小さい扉は鍵が掛かってる。ありゃ出口っていうより同じような部屋だろうな。んで、でけえ扉には鍵どころかドアノブすらねぇ」
「じゃ、じゃああたしたち」
「そ。閉じ込められたな、何者かに」

 うそでしょ。だれか嘘だと言って欲しい。もしかしたら全てはレノの計画なのかと思ったけれど、苛立つ様子を見るにそういうわけでもなさそうだ。じゃあ、一体なにが目的なんだろう。困惑したあたしをチラッと見たレノが、はあ、と重い息を吐いて、くい、と親指で背後の壁を指差した。

「どうやら、すぐには出られないみたいだぞ、と」

 真っ白な壁に、不気味に光る文字が現れていた。微かに揺れているそれは、歪なアルファベットを浮き出させている。『命令に従わないと出られない部屋』揺らめくそれがチカチカ光って、頭が痛くなった。
 そういえば以前、エアリスが楽しそうに話してきたことがある。ミッドガル都市伝説の一つに、真っ白い密室の話があるらしい。そこに閉じ込められた人たちは、何者かの指令をクリアしないと部屋の外には出られないという。ちっとも怖くない都市伝説に「ずいぶん中途半端な噂だなぁ」なんて、聞いたときは思ったのだけど。前言撤回。実際に閉じ込められるとめちゃくちゃ怖いしすごく不気味だ。理解が追いつかなくて。指令って、なにを言われるんだろう。怖すぎる。しかもなんでレノと一緒?! クラウドだったらまだマシだった。ばちり、レノと目が合って、反射的に目を逸らしてしまう。なんだろう。クラウドのことは言わない方がいい気がする。なんとなく。
 刺さるような視線を完全に無視して、ソファから立ち上がって光る壁へと近づいた。どうやって文字が光っているのかも、壁の材質がなんなのかも、全くもってわからない。魔法で壊せるかな。コンコン、と壁を叩くと、レノがあたしの名前を呼んだ。

「言っとくけど、物理攻撃も魔法攻撃も意味ねーからな、その壁」

 既に一通りのことは調べ終わっているのだろう。あたしが寝ていたソファにどかりと腰を下ろしたレノが、不機嫌そうに壁を睨みつけた。出られない。その事実に焦りが生まれる。あたしがここにレノと閉じ込められていること、クラウドたちは知っているんだろうか。助けに来てくれるだろうか。待って、それとも、クラウドたちも閉じ込められているんじゃ。じわりと苦い唾液が口内に溜まる。どうしよう、あたし、どうしたら、

「カレン。落ち着けよ、と」

 あたたかみのある、低い声だった。はっとレノを見つめると、そのアクアマリンの瞳があたしを見つめている。その色に、不思議と心が落ち着く。あたしの顔色を伺ったレノが、はァ、とため息を吐いた。それだけで、重苦しかった空気が軽くなるのを感じる。立ち上がったレノがあたしに近づきながら、首の裏に手をあててぽきりと骨を鳴らした。

「『命令に従わないと出られない部屋』なんだろ。つまり、従えば出れる」
「で、でも、従えない命令だったら、」
「出られねーだろうなぁ」
「そんな、」
「んなの、やってみねえとわかんねえだろ」
「でも、」
「カレン、」

 く、と腰を折ったレノが、あたしの顔を覗き込む。香水だろうか、懐かしいような、不思議な香りが鼻をついた。レノがにやりと唇を釣り上げる。余裕の笑み。それに、心臓が高鳴ったのは、どうして。

「オレを信じろ」
「っ、」
「……っと、早速指令が来たみてえだな」
「え?」

 レノがあたしの背後を見つめる。慌てて振り向くと、白い壁には新しい文字が浮かび上がっていた。『五つの指令を全てクリアすれば、扉は開く』。ゆらゆらと揺れる文字。なるほど、つまり、その五つのミッションをレノとクリアしろということらしい。はっ、と笑ったレノがとん、とあたしの肩を叩いた。

「ま、ここは一時休戦。協力して脱出するぞ、と」
「……オーケー」

 仕方ない。一刻も早くこの部屋から脱出するためには、レノとだって手を組もう。


Next>>きらきら星を連弾しないと出られない部屋





210107



[ 52/59 ]