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- ナノ -

02


「状況を整理しよう。ここはミッドガル伍番街スラムの教会、あなたはエアリス」
「うん」
「で、あたしは、カレン。たぶん。」

 気がついたら朽ちた教会の花畑にいたあたしは、どうやら記憶を綺麗さっぱり失くしてしまったらしい。思い出そうとすると頭痛がするので、考えるのはやめてしまった。だって痛いの嫌だもん。倒れていたあたしに声をかけてくれたエアリスは、「記憶、ないの? 困ったね」とさらりと述べ、「とりあえず、なにか身元のわかるもの、持ってない?」と的確なアドバイスをくれたのだった。

「あたしの持ち物。ボロボロのローブ、汚れた服一式。使い古したバングルと、いかずちのマテリア」

 バングルは特注らしく、かなり使い込まれている様子だった。シルバー製のそれに、“カレン”と名前が刻まれていたので、まあ、まず間違いなくあたしの名前だろう。何度か口の中で呟いてみる。カレン、カレン、……うん、あたしの名前だ。

「身分証とか、手帳とか、なんにもない。そもそも鞄がないや」
「うーん、名前以外、わからないね」
「でもまあ、名前だけでもわかってよかった」

 名前すらわからなかったら自己紹介もできないところだった。ふう、と息を吐いてゆっくり立ち上がる。少し休んだだけだけれど、だいぶ体が軽くなった。同じく立ち上がったエアリスが、不思議そうにあたしを見つめる。

「カレン、回復、してる?」
「え?」
「ケアル、かけたみたい。顔色、良くなってるから」
「え、あたし、かいふくのマテリア持ってないよ」

 でも、言われてみれば、体力の回復スピードが尋常じゃない、かも。試しにケアルを唱えてみた。体の内側がじんわりと熱くなり、無数にあった切り傷があっという間に消えていく。おお、すごい効き目だな。

「傷治った」
「やっぱり! マテリア、どこかに隠し持ってる?」
「ううん、いかずち以外のマテリアの気配、ないよ」
「え?」
「え?」

 キョトンとした顔でエアリスに見つめられ、こちらも疑問符を返してしまった。え、だって、マテリアの気配、しないよね? 慌ててもう一度辺りを探ってみる。うん、あたしが装備してるのはいかずちだけだ。

「カレン、マテリアの気配、わかるの?」
「えっ? エアリス、わからないの?」
「うん、普通は、わからないと思うけど」
「そうなの?」
「じゃあ、問題! わたしはなんのマテリアを持ってるでしょうか」

 いたずらっ子のように笑ったエアリスが、ピンと指を立てる。かわいい。エアリスにつられて微笑んでから、感覚を研ぎ澄ますために目を瞑った。彼女の気配を探る。いのり、のマテリアの気配。それと……ん?

「なんだろ、不思議な感覚。マテリアがあるのはわかるけど……わかんないや」
「このマテリアね、特別なの。秘密だよ」
「うん」
「でもすごい! 本当にわかるんだね!」

 ぴょんぴょん跳ねるエアリスが可愛い。思わずこちらまで笑顔になってしまった。テンションの上がったエアリスに付き合って、色々試した結果、攻撃系魔法は、マテリアを持っていないと使えないことがわかった。でも、回復系魔法ならば、マテリアなしで自分や他人にケアルをかけることができることも判明した。便利な能力で有り難い。生まれた時からのものなのか、記憶を失くしてから得たものなのか、それすらわからないけれど。

「あらためまして、よろしくね、カレン」
「うん、よろしく、エアリス」

 差し出された手のひらをしっかりと掴む。と、エアリスが手元に視線を落とした。なんだろう。あたしも、自分の手を見つめる。鈍く光る銀色が、スラムでは珍しい夕日を反射していた。

「指輪、だね」
「気づかなかった」
「内側、なにか彫ってあるかも」
「ぬ、抜けるかなぁ」

 あまりにも馴染みすぎていて気づかなかった。宝石も何もない、シンプルな指輪。右手の薬指に絡まるそれを外そうと引っ張ってみるが、節に引っかかってなかなか抜けない。力を入れてみるが、指ごと抜けそうだ。うん、仕方ない、諦めよう。痛いし。

「水に濡らしてみよう。水道、こっち」

 有無を言わさずエアリスがあたしの腕を引っ張る。試行錯誤の末、やっと外れた指輪は内側も同じくシンプルだった。埋め込まれた宝石と、刻まれた「from R」の文字。アクアマリンだろうか、澄んだ湖のような色が、何故か胸をじんわりと熱くさせる。

「恋人、かな」
「どうだろ」
「……なにか、思い出さない?」
「うーん、さっぱり」
「そっか」
「でも、あたしが男だったら、ちょっと嫌だな」
「何が?」

 指輪をはめ直して、両腕を広げる。煤けたような服を見下ろしてから、エアリスを見ると、不思議そうな顔でこちらを見ていた。

「エアリス、正直、あたし、臭わない?」
「…………カレン、今日、家に泊まる?」

 シャワー貸すよ。エアリスが困ったように笑う。ありがとう、やっぱり、持つべきものは友達だね。


200421



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