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「ぐっ!!」

 バスターソード越しに、鈍い感触が伝わってきた。脇腹に一発、重い一撃がやっと入る。吹っ飛ばされたレノは勢いよく鉄板の上を転がった。すぐに起き上がらないのを確認してから、ティファたちの方へと視線を走らせる。どうやらあちらも決着がついたらしく、バレッドが膝をついたルードの眉間に照準を合わせていた。ティファが操作板に走り寄るが、アラートは消えない。「起動ボタンを押してください」無機質なその声が、いっそう焦燥感を煽る。這い蹲りながら電磁ロッドに手を伸ばすレノに近づいて、その喉元にバスターソードを突きつけた。勝負はついた。鋭いアクアマリンの瞳が、それでもなお、キツく俺を睨みつけてくる。

「解除方法は」
「さぁな」
「……カレンはどこにいる」
「言うかよ」

 仰向けに転がったレノは、そのまま意識を失った。胸元のシルバーが、炎を受けて輝いている。シンプルな指輪。どこかで見たようなそれに、手を伸ばそうとした時だった。

「っく!」
「行かせるかァ!」

 ルードが操作板へと走り出す。すぐさまバレットがガトリングを乱射したが、突然現れた謎のローブが邪魔をする。俺の前にも出現したそれは、まるでルードを守るかのように立ち塞がった。なぜだ、どうしていつも邪魔が入る。閉ざされた視界、ルードが走って行った方向から、ティファの呻き声が聞こえた。「ティファ?!」一瞬の間、霧が晴れるようにローブが消えると、見えたのは倒れるティファと操作板に手をつくルード。その拳が、起動ボタンを、勢いよく押し込んだ。

「――プレート解放システム起動完了。速やかに退避してください」

 嘘だろ、プレートが、落ちる? 本当に? 止めなければ。ルードに向かって走りながら斬りかかるが、潜るように回避されてしまった。後を追う俺を引き止めたのは、ティファの声。倒れ込んだティファに駆け寄り、抱き起こす。ルードに手刀を食らったらしく、痛む頭を押さえながらティファは立ち上がった。その隙に、どうやらレノを連れてルードは逃走したらしい。遠ざかるヘリの音。バレットと三人で、操作板に向き合う。画面はアラートで真っ赤に染まっていた。

「どうしよう?」

 ティファが泣きそうな声で手をつくと、画面が一瞬で移り変わる。黒スーツの男。ネクタイをぴしりと締めた黒髪の男が、こちらを見つめていた。……タークスか。

「システムの解除は、もはや不可能だ」
「おねがい、止めて!」
「ティファ! マリンは大丈夫だから」
「エアリス?」

 画面に割って入ってきたのは、間違い無くエアリスだった。煤で汚れた顔で、画面に詰め寄るが、脇に控えていた神羅兵に腕を掴まれてしまう。捕まったのか、タークスに。画面にカレンの姿は見えない。カレンだけでなく、エアリスまで、どうする気だ。

「カレンはどうした?! 二人をどうするつもりだ!」
「カレンは我々タークスの一員だ。知らなかったのか?」
「えっ?」

 ティファとバレットが、隣で息を飲むのがわかった。俺の心臓も、どくりと嫌な音を立てる。カレンが、タークスの、一員?

「記憶をなくしたと偽って、お前たちの身辺を探らせていた。彼女は優秀でね。素晴らしい演技だっただろう?」
「演技、だと…?」
「彼女はよく働いてくれた。君たちを監視し、必要な時にはサポートまでした。その君たちの活動が巡り巡って、我々に古代種をもたらしたというわけだ。その点に関しては礼を言おう。だが、申し訳ないがこの先は」

 男が、歪んだ唇に人差し指を当てる。余裕の態度に、頭に血が上るのがわかった。怒鳴り散らしそうになったそれを、遮ったのは画面越しのエアリスの声で。

「逃げて! はやく逃げて!」
「アバランチに、逃げ場などあるかな?」

 ぶつり、と映像が切れて、画面はまた真っ赤なアラートに戻ってしまった。あまりの衝撃に、言葉を失う。ティファが、力なく呟いた。

「うそ、カレンが、裏切ったなんて、嘘、だよね?」
「……とにかく、ここから脱出するぞ」

 上空で爆発が起き、瓦礫が大量に降ってくる。それを避けながら、脱出経路を確保するため足場の端まで駆け抜ける。七番街を見下ろしたティファが、力なく座り込んだ。遠くでバレットがワイヤーを掴んだまま叫んでいる。ティファを抱き起こし、その手を引いて、走る。足が揺れる地面を蹴った。ワイヤーがキュルキュルと耳障りな音を立てたが、それも背後の爆音ですぐに聞こえなくなった。連続する爆発音。燃え盛る炎と、爆風、落下していく瓦礫、人々の悲鳴。まるで、地獄の、ようだ。胸の痛みを堪えるように、拳に力を込めた。こうして、七番街プレートは、落とされた。



***



 他人に対して、ここまで、恐ろしいと感じたことは、ない。“恐怖”がどういうものなのか、あたしは、全然わかってなかった。脚はぶるぶる震えて、気を抜いたら今にも座り込んでしまいそうだった。声を発することすらできない。強く噛んでいるのにもかかわらず、唇がわななく。あたしの前に立つ男が、目を細める。ひとつに纏められた、脂ぎった黒髪。手垢だらけのくすんだ眼鏡。縒れた白衣と、細められた眼。乾いた唇が歪に歪んで、ゾッとするような嗄れ声が鼓膜を揺らした。

「久しぶりだな。最も、お前は覚えていないようだが。単なる記憶喪失か、実験による記憶障害か……見たところ劣化は進んでいないが脳内にのみ『G式』が作用したのか? 意識混濁ならば『S式』の影響も少なからず考えられるが。DNAの構造に変化は見られるのかな。古代種の特殊染色体が配列に新たに影響を及ぼした可能性も考えられる。お前の体にはさほど興味がないが、まあ、うるさいハエどもがプレートを落とすのに躍起になっているうちに、いくつか検証しておこう。ところで、神羅から逃れてから子を孕んだことはあるかな。流したことは。お前の身体にはほとんど価値がないが、その子宮には大変興味があってね。お前の母親のように、マテリアの実験には使わせてもらいたいところだよ。今度はどうだ、召喚マテリアでも埋めてみるか? その場合、生まれてきた子供は人の姿を成しているだろうか。フッフッ、今から楽しみだ」

 胸の前で、手をきつく握りしめる。助けて、誰か、おねがい、クラウド。助けて、――レノ。


200523



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