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20


 バラバラというプロペラの回転音に混じって、サブマシンガンの銃声が聞こえてくる。プレート支柱の非常階段は、至る所で発火炎が迸り、怒声が飛び交っていた。敵の姿を確認し、機関銃を撃ち込む。その繰り返し。常人では発狂しそうになるその行動を、一体どれだけの間繰り返したのか。どうやらアバランチの奴らは、支柱と心中を望んでいるらしい。何のための時間稼ぎだ。とっとと尻尾巻いて逃げればいいものを。何度目かわからない舌打ちを溢して、またガトリングガンの引き金を引く。男が一人、空中に投げ出され、そして消えていった。キリがない。新たに階段を登ってきた影に、ため息まで出そうだ。「レノ」低いルードの声。わぁってるよ。あくまでこれは“作戦”だ。“アバランチから神羅がプレートを守るため”の。外部出力をオンにして、試しにアー、と声を出す。大丈夫そうだ。時には芝居も必要とは、雑用にも程がある。

「そこのアバランチ。あんたらが支柱をブッ壊そうとしよーが、ター……じゃなかった、神羅か。は、ビビったりしねぇ。とっとと支柱から出て行けよ、と」

 なんか間違えたけど、まあいいだろ。

「こんな感じでいっかぁ?」
「まぁ、上出来だ」

 ルードの言葉にニヤリと笑い返す。ヘリに取り付けられたライトが、非常階段に立ち尽くすアバランチの一人を照らし出した。「ん? あいつ……」どこかで見たような。特徴的な金髪に、背中に背負ったバスターソード。そして、こちらを睨みつける、魔晄の目。あー、ハイハイ。忘れるわけがねえよ。眩しそうに手をかざす男を、きつく睨みつける。ぐ、と操縦桿を握る拳に、痛いほど力を込めた。会いたかったぜぇ? 元ソルジャー。

「クラスファースト――!!」

 銃身が回転し、無数の弾丸が飛び出す。非常階段を駆け上がる男目掛けて、引き金を引き続けた。物陰に隠れた男の退路を立つように、攻撃の手は緩めない。ちらり、とルードに視線を送って合図をすると、了承したのか手元のスピーカーのスイッチを入れた。

「諦めて投降しろ。極悪非道のアバランチ」

 ルードの棒読みに、嘲笑が漏れる。馬鹿馬鹿しい。とんだ3ギル芝居だぜ。こんな任務でなければ、今すぐヘリから飛び降りて、あのスカした顔面を思い切り殴ってやれたのに。最高にくだらない、安っぽい裏工作に反吐が出そうだ。半ば八つ当たりのように、弾除けにされている積まれた資材に銃弾を撃ち込んでやる。そろそろ決着つけようぜ〜。そう口にしつつも、勝負をする気はハナからない。これは仕事、だからだ。最初から、対等な戦いなど存在しない。何の面白味もない、一方的な殺戮。と、視界の端で動く影を見つけた。女だ。見たことのない顔だが――あいつの仲間で、間違い無いだろう。そうとくれば。

「意地悪しちゃうぞ、と」

 身を乗り出して、操縦桿を強く握った時だった。突然機体が大きく揺れ、平衡感覚を失う。そのまま、思い切り側頭部をガラスに打ち付けた。イッテェ! 思わず大声が出た。乱れた機体は一瞬でバランスを取り戻したものの、彼らの合流を許してしまう。左手で機体を叩き、ルードを睨みつけた。

「なにやってんだよ相棒!」
「すまん」

 一応の謝罪に、鼻息荒く背もたれに寄り掛かる。興が削がれた。各階の神羅の兵士たちをなぎ倒していくアバランチたちに、サボっていない程度に銃弾を打ち込む。殺意のないそれは、ただの嫌がらせだ。それでもまあ、体裁は保てるだろう。このまま時間稼ぎか、と思われた頃、けたたましいけアラーム音が鳴り響いた。

「なんだァ?」
「最上階が制圧された」
「あ? ザコ相手になにやってんだよ」
「とにかく、このまま起動に向かう」
「りょーかい、と。後始末、頼む」

 最後の台詞は、元ソルジャーを相手にしていた神羅兵に向けてのものだった。魔晄の瞳が、こちらを睨んでいたような気がするけれど。残念ながら、お前の相手はオレじゃない。オレと闘いたければ、最上階まで登ってくるんだな。ヘリがぐらりと揺れて、一気に上昇する。糞みたいな仕事に、終止符を打たねえと、な。



***



 最後の階段を駆け上ると、一気に視界が開けた。すぐそばまで迫ったプレートの裏側が、煌々と光っている。バレットの叫び声。背後から走ってきたティファが、小さな悲鳴と共にバランスを崩す。それを抱き留めた後ろで、鉄骨の階段が崩れ落ちていった。これでもう、後戻りはできない。

「バレット!」
「ティファか? 気を付けろ! ヘリから撃ってきやがる」

 降り注ぐ弾丸の雨を走って避けながら、バレットの居る物陰へと滑り込んだ。相手の攻撃を凌いでから、バレットが右腕のガトリングで応戦する。遅れて滑り込んできたティファの無事を確認してから、バレットは俺に問いかけた。

「カレンはどうした。いねーのか」
「攫われた」
「はぁ?!」
「タークスだ」
「ったく、こういう時にあいつの力が必要なんだがよ!」

 遠距離攻撃は彼女の強みだ。それに、回復魔法やバフがあるだけで闘いが相当楽になる。七番街スラムで共闘したときのことを思い出したのか、バレットが大きく舌打ちをした。このままでは支柱が破壊される。ヘリを撃墜しなければ、プレートの落下を防ぐことはできない。バレットの腕のガトリングと、俺とティファの魔法でできるだろうか。いや、やるしかない。

「いつまでもここにゃ居られねぇ。準備はいいか?」
「ああ」

 頷いた瞬間、隠れていた場所に大量の弾が打ち込まれた。咄嗟に物陰から走り出て、距離を取る。酸素ボンベだったのか、赤い炎を撒き散らしながらそれは爆発した。もう、隠れる場所は、ない。上空を旋回するヘリが近付いたのを感じる。背後のそれを見上げると、思わぬ瞳がこちらを見つめていた。鋭いアクアマリン。強い風を受けて、ヘリから身を乗り出す男の黒いスーツがはためいている。先ほどからずっと、俺たちに銃口を向けていた男。

「タークス……!」

 左手で電磁ロッドを担いだレノが、ヘリから飛び降りた。一回転して振り下ろされたそれを、大剣で受け止める。刹那、交差する視線。払い退けると、その反動を利用するように距離をとってレノは着地した。ニヤリと笑うその顔に向けて、剣を握る。コルネオの言葉が脳裏に焼き付いて離れない。タークスの、赤毛の男。カレンを攫った、男。

「カレンをどこへやった」
「答える義理はねぇぞ、と」

 見下したようなその態度に、カッと頭に血が上る。走り寄りながら大剣を振りかぶり、横薙ぎ一閃した、が。

「おせぇ!」

 躱された。脇をすり抜けたその背中をすぐ追うが、ヘリからの銃撃で足止めを喰らってしまう。くそ、近づけない。手間取っているうちに、レノは操作板に手を置いて、コードの入力を始める。画面全体に真っ赤なWARNINGと、鳴り響くアラート。緊急コードの入力を確認? 本気で落とすつもりだ、ここを。バレッドがヘリを攻撃している間に、レノに向かって駆け出す。そんなこと、させるものか。護ってみせる。プレートも、カレンも、俺が。起動ボタンを押そうとしたその腕目掛けて、バスターソードを振り下ろした。

「させるか、っ!」
「邪魔――するなよ、と!」

 俺の攻撃を防いだ電磁ロッドに、そのまま弾き飛ばされる。すぐさま迎撃体制に移った俺に、レノが右手で電磁ロッドを振りかぶる。バスターソードでそれを受け流そうとして、はたと気づく――右手? こいつの利き手は、確か、

「っう、ぐ」

 衝撃に唸り声が漏れた。弾き飛ばされた身体は勢い良く地面を転がる。すぐさま立ち上がると、目の前で拳を振るレノを睨みつけた。頬が燃えるように熱い。口内に鉄臭さが充満して、不快だ。どうやら、殴られた衝撃で口内が切れたらしい。唾と一緒に血を吐き出して口元を拭うと、電磁ロッドを左手に持ち直したレノが不敵に笑った。

「今のは、個人的なモンだぞ、と」
「なん、だと?」
「あいつはオレのだ。誰にもやんねーよ」
「……何も知らない、くせに」
「あ?」

 煮えたぎるような激情が、瞳を燃やしている。教会で見た、あの瞳。それを真正面から受け止めて、バスターソードを構え直した。駆け寄ってきたティファとバレットが、同じようにレノに向かって拳を握る。息を吸って、吐いた。何も知らない、くせに。あいつの不安に揺れた深いエメラルドが頭を過ぎる。初めて触れた、グローブ越しの柔らかい髪も。あいつがどれだけ不安で、どれだけ寂しくて、どれだけの想いで笑っていたのかを、知らないくせに。

「カレンはモノじゃない。俺が――俺たちが、取り戻す」
「はっ、させると思うか? ――タークスなめんなよ」

 負けるわけには――いかない。



***



 あれから、どれくらいの時間が経過したのだろう。時計も何もないこの部屋は一秒が長くて、息の詰まる思いだった。レノが出て行ったあと、扉はロックされてしまったらしく、内側のボタンを押してもうんともすんとも言わない。騒ぎまくっていたら扉を殴られたので、どうやら見張りもいるらしい。八方塞がりとはまさにこのことだ。武器もマテリアも持っていないあたしは、役立たずだ。ベッドの上に蹲って膝を抱える。クラウドとエアリスは無事だろうか。ティファは救出できたのかな。七番街のプレートが落とされるのは本当だろうか。ここからじゃ何もわからない。肝心な時に、あたし、本当に、役立たず。

「おい、出ろ」
「!」

 突然、なんの前触れもなく扉がスライドする。レノだと思ったのに、そこに立っていたのは武装した神羅の兵士だった。サブマシンガンの冷たい銃口が、あたしを狙っている。ごくり、と唾を飲み込んで、ゆっくりと立ち上がった。兵士が顎で廊下を指すので、素直に従う。無機質な廊下。似たような扉がいくつも並んでおり、照明が廊下の先の方まで照らしている。武装した兵士が二人と、白衣の男が一人。だめだ、一人くらいならなんとかなったかもしれないけど、三対一じゃ分が悪すぎる。しかもあたし、ドレスだし。

「ついてこい」
「どこ行くの」
「無駄口を叩くな!」

 背中に銃口を突きつけられて、仕方なく口を閉じる。白衣の男はその様子を見て嘲笑してから、あたしに背を向けて歩き出した。進め、とでも言うように銃でせっつかれて歩き出す。あたしの後ろから、二人の兵士がついてきた。今の笑い、まるで兵士を馬鹿にしているみたいだった。白衣の男をこっそりと観察する。ブロンドの髪の毛は油でべったりとしているし、白衣の袖口は茶色く汚れている。手は、骨張っていて筋肉など少しもついていないようだ。どうやらこの男、兵士ではないようだ。では、一体。

「ねえ、どこ行くの」
「黙れと言っているだろう!」
「研究室だよ」

 兵士の声を遮るように、白衣の男が述べる。立ち止まって振り返ったその瞳には、なんの感情も浮かんでいなくて。ぞくり、と背筋を冷たい汗が流れた。この目、怖い、嫌な感じの、この視線、昔、どこかで、見たような。

「宝条研究室――お前のHOMEだよ、“f”」


200521



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