×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

01


 どこからか、声が聞こえる。
 懐かしい声だった。けれど、同時に、知らない声だった。でも、求めていた、声だった。そうだ、あたしはずっとずっと、この声を求めていたのかもしれない。優しくて暖かいその声を。呼び掛けに応えようとして身動ぎした瞬間、鋭い痛みが身体中を駆け巡った。ううう、という呻きが自分の唇から漏れるのを感じる。なんだこれ、痛い。ぴくりとも動くことができない。いや、できるかもしれないけど、動きたくない。だって痛いもん。混乱した頭は酸素を必要としたらしく、はっはっと呼吸が短く早くなるのがわかった。息を吸うたび肺が軋む。あ、やばい。なんか、さっきより苦しくなってきた、かも、あ、これ、しぬ、

「大丈夫? ゆっくり、息、吐いて」

 声に誘われるまま、肺の空気を吐き出す。ふー、ふー、だよ。優しい声は女性特有の柔らかさで、それが耳に心地よい。心なしか呼吸も楽になってきた。ゆっくりと瞼をあげると、目の前は一面、白と、黄色。花だと気づくのに時間は掛からなかった。ふわりと香る優しい甘さと、右頬にざらざらとした土の感覚。どうやら、花畑の上に倒れ込んでいるらしい。天国か、ここは?

「あ、気がついた?」

 では、目の前の女性は天使だろうか。それにしては、随分と可愛らしい格好をしている。ピンクのワンピースが揺れる髪に似合っていて、可愛さ倍増だ。こちらを覗き込んでいた翡翠の瞳が、嬉しそうに細められた。

「よかった。倒れてるから、心配、した」
「声、聞こえた、から」
「うん。もしもーしって、呼んだけど、返事、なくて」
「ありがと……っうう、」

 身体を起こそうと力を入れるけど、まだだめだ。けっこう、痛い。無理。

「身体、まだ動かさないほうがいいかも。ケアルかけたけど、効かないの」
「ここ、天国?」
「……ううん、ミッドガルの、伍番街スラム」
「みっど、がる……?」

 ずきん、と頭が悲鳴を上げた。ミッドガル? 聞いたことがあるような、ないような。というか、あれ、ここはどこ、あたしは、

「ねえ、あなた、」
「あ、あたしは、誰でしょう……?」


200420



[ 1/59 ]
←