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「あれ、あたし、今日は休もうってベッドに入ったのに、どういうこと? なんでモンスターと戦ってるの? なんで悪魔が目の前にいるの? これなんて悪夢?」
「知るか。勝手にうなされてろ」

 ぶつぶつ呟きながら、特大のサンダーを落とすあたしに、クラウドは冷ややかな目を向ける。いや、なんでよ! さっきサヨナラしたじゃん! もう当分顔は見なくてもいいかと思ってたのに、なんで一緒にいるの? 謎なんですけど。アンタ、あたしのこと好きなの? もう一体どうなってるんだよ……。

「だってカレン、リーフハウスのパシリでしょ?」
「パシリでしょー?」
「ねえ、君たちはあたしのことをなんだと思ってるのかな? 園長先生のパシリであって君たち子どものパシリじゃないのだよ」
「パシリは否定しないのか」
「ごめんね、カレン、疲れてたのに」
「ううん、エアリスの頼みなら、いつだって駆けつけるよ」
「お前、さっきと言ってることが真逆だぞ」
「うるさい悪魔」

 自室で眠っていたのを叩き起こしてくれやがったのはムギだった。なんでも、黒いマントを着た男が秘密基地に現れて、怖がった子どもたちがスラムの外に出てしまったらしい。スラムの外はモンスターが多くいるから、助けに行かなければ危険だ。仕方ない、居候の身としては放って置けない状況に、慌ててムギと一緒に部屋から出て、そして、リーフハウスの前でエアリスとクラウドに遭遇。結果、またこのメンバーで行動を共にすることとなったのだ。秘密基地を抜けて、奥の壁に空いた穴を潜る。出てくるモンスターや神羅が廃棄したマシンなどを片っ端から倒し、路地の奥にいた子どもたちを救出。同じ道のりを、今度はスラムの方に向かって歩いているところだった。なんでこんなことに。ていうか、クラウドがいるなら、あたしは必要なかったんじゃ……? ポツリとつぶやいたら、エアリスがもの凄い笑顔をこちらに向けてきたので固く口を閉じた。以後、この話題は口にしないこととする。

「ついたー!」
「クラウド、エアリス、カレン、ありがとう!」
「ああ」
「もう向こう側、行っちゃダメだよ」
「はーい!」

 穴を潜って、秘密基地へと入る。エアリスの言葉に元気よく返事をしてから、友達のもとへ駆けていく子どもたち。その先で待っていたのはムギだった。どうやら、心配でいてもたってもいられなかったらしい。帰ってきた子どもたちをみてほっとする様子が手に取るようにわかる。うーん、普段は生意気だけど、こうしてると年相応の子どもに見えるな。

「ありがとう」
「今度何かあったら、すぐ、大人を呼ぶこと」
「うん、そうする。エアリスとクラウドは大人だけど、もう仲間だから、いつでも遊びにきてよ」
「あたしは?」
「カレンは、リーフハウスのパシリだから。出入りは自由だよ」
「ちびっ子たちにパシリって教えたのアンタ!?」
「ははは!」

 ひらりと身をかわすムギを捕まえようと、手を伸ばした時だった。背後から聞こえた、男の唸り声と、子どもたちの悲鳴。はっと振り返ると、スラムの外に続く穴の前に、黒いローブの男が立っていた。散り散りに逃げる子どもたち。怯えて駆け寄ってきた子を、エアリスが背中に隠す。あたしもムギを引っ張り込んで後ろに隠し、バングルに力を込めた。クラウドがバスターソードに手をかけた時、男がどさりとその場に倒れる。一瞬の静寂ののち、男に駆け寄ったのはエアリスだった。思わず声が出る。

「エアリス!」
「待て!」

 あたしたちの制止の言葉は聞かず、エアリスが男の脇に跪いた。男は動く様子を見せず、低く唸っている。クラウドとあたしも、男の側まで近寄って様子を観察する。完全に正気を失っていた。七番街スラム、クラウドの隣の部屋に居た、あの人みたいだ。

「う……あ……ああ」
「似たような症状の男が隣に住んでいる」
「あれ? なんだろう、腕に……数字の、2?」
「刺青か。そういえば――」

 突然、男があたしとクラウドの腕を掴んだ。ズキン、と脳に直接響くような頭痛に、頭を押さえる。「う、ああっ」驚いたような声をあげたクラウドが、突然体を起こしたローブの男の腕を振り払う。いや、もう男はローブを着ては居なかった。聡明な顔つき、さらりと舞う銀糸。凍てつく魔晄色の瞳。また、だ。あの夜と同じ。ゆらりと立ち上がった男の、薄い唇が開かれる。何を言っているのか、聞き取ることはできなかった。自分の鼓動が、嫌に耳につく。ズキリとした痛みに目を閉じ、その瞬きの間に、男は、またローブの男に戻っていた。……幻覚、だった? 去りゆく黒いローブの男を、無言で見送る。茫然とするクラウド。その震える手のひらを、エアリスが両手で力強く握った。

「しっかり。クラウド、しっかり」
「エアリス……セフィロスを知っているか」
「英雄、セフィロス。5年前、不慮の事故で死亡。ニュースで、やってた」
「実は、生きているのかもしれない」
「そう……なんだ」

 セフィロス。あの男の名前は、セフィロスというのか。どこかで聞いたことがあるような気がするのは、英雄だからか、それとも。無言のまま、男の去って行った方を見つめる。お互いの様子が、いつもと違うことに、誰も、気づかなかった。



* * *



「ほんっとに、無理、今度こそ、無理。もー無理。ミニサンダーしか撃てないよ。電気治療に使うようなやつ。本当無理だもん」
「うるさいな、ついでに口も閉じて省エネしてろ」

 黒ローブの男を見送ったあと、帰ろうと踵を返したあたしたちに声をかけたのはムギだった。なんでも屋クラウドさんへ仕事の斡旋らしい。それ、あたしに関係ないよね! じゃあみんなお疲れ! おやすみ! と、笑顔で手を振ったあたしを、さらに笑顔のエアリスが捕まえたのだ。さすがに、今回は、さすがに、粘ったけれど、まあ、あたしがエアリスに勝てるわけがなかった。ずるい、エルミナさんの夕飯付きじゃ、折れないわけにいかない。結局、すべての依頼をクラウドたちと一緒にこなすことになったのだ。疲労困憊のあたしはもう気力だけで生きている。エルミナさんの夕飯をご馳走になるというご褒美だけで息をしているようなものだ。

「カレン、頑張ったね、えらいえらい」
「え、エアリス〜!!」
「甘やかすとつけ上がるぞ」
「アンタはなんなの! 悪魔! 悪魔め!」

 でも、そのお仕事もおしまいだ。夕暮れの中、三人でエアリスの家へと向かう。どうやら、クラウドは一泊させてもらい、明日七番街スラムへと帰るらしい。エアリスと一つ屋根の下だね。シャンプー、お花の匂いだよ。ニヤニヤしながら耳元で告げると思い切りチョップされた。くそ!!! 痛いな!!!!!

「自業自得だ」
「はぁ?! 大体クラウドは手加減ってモンを――!!」
「……カレン?」
「おい、」

 突然立ち止まったあたしを、不思議そうにエアリスが振り返る。クラウドの呼びかけは無視して、意識を前方に集中した。強い力、感じる。このマテリアの感覚は、知ってる。間違いない。ぐ、と二人の服を掴むと、クラウドもエアリスも不思議そうにあたしを見つめた。強い気配は、動く様子がない。脳裏にチラつくスキンヘッド。ああもう、だからあたし、疲れてるんだってば!

「どうした」
「この先、アイツがいる、かも」
「アイツ……?」
「この感じ……間違いない。あの時のハゲだ」
「ルード?」
「誰だ?」
「タークス。さっき、伍番街駅で見たひと」

 ビシビシと感じるそれに、自然と後退してしまう。うっわあ、えげつない育て方したマテリア持ってる。売ったらすごく高そうだけど、闘うのだけは絶対にごめんだ。なんせ、前回は魔法の「ま」の字すらないくらいにただの戦闘でボコボコにされたのだ。最後やり返したけど。でも、こんな状態で闘いたくない。

「ね、遠回りして帰ろ? アイツ強いから嫌だよ」
「断る」
「え、でも、」
「俺が護る」
「えっ、」

 思いがけない言葉に、クラウドを凝視する。魔晄の瞳。見開かれたそれは、すぐさま逸らされた。エアリスを見つめながら、コホンとわざとらしい咳払い。にこにこと楽しそうにこちらをみているエアリス。

「っ、エアリスのボディガード、だからな」
「うん?」
「カレン、お前はついでだ」
「一言余計なんですけど!!!」

 本当、頭くるなこいつ! ちょっとかっこいいと思ってしまった自分が腹立たしい! そのままツカツカと歩き出すクラウドの、後ろをこそこそとついていく。と、見覚えのある黒スーツが蹲み込んでいた。ほらもう、やっぱりいるじゃん。やだなあ。立ち上がった男は、こちらを振り向いてサングラスを上げる。前回サンダガで壊したはずなんだけど。替え、持ってたのかな。

「ごきげんよう……エアリス、これが新しい友達か?」
「新しいって、人聞きが悪い」
「なるほど、魔晄の目だ。レノをやったのはこいつか」
「俺だったらどうする」
「事実確認、上長に報告」

 喧嘩を売るように近づいたクラウドにも、男は怯むことはない。と、その視線がこちらを向いた。びくりとエアリスの後ろに隠れる。呆れたような声。

「カレン、見えてるぞ」
「う、うるさい!」
「コイツに話しかけたいなら、俺を通してもらおうか」
「お前、カレンのなんだ?」
「アンタには関係ないね」

 ク、クラウド!! かっこいい!! いいぞ、もっとやれ!!!!! 男が広場に足を踏み入れ、クラウドもそれに続く。さすがに置いては帰れないので、あたしもエアリスと共に二人の後を追う。構えをとる男とバスターソードに手をかけるクラウド。エアリスもロッドを構えたので、仕方なくあたしもバングルに力を込めた。ミニサンダーしか使えないことは、黙っておこう。



* * *



 クラウドの大剣が、大きく「凶」の字を描く。その衝撃に、ルードは膝をついた。顎に滴る汗を拭いながら、あたしも次の魔法の準備をする。三人がかりでもなかなか隙が作れず、苦戦していた。エアリスには催眠をかけてくるし、どうやらあたし対策で雷耐性のマテリアを装備してきたらしい。クラウドが、なんとか男の体力を削ってくれた。このままいけば、ジリ貧なのは向こうだ。

「お願い、今日は帰って」
「そうもいかない」

 諦めない男の構えを解いたのは、この場にそぐわない明るいファンファーレだった。ポケットから端末を取り出した男は、それを耳に当てる。どうやら予定外の電話だったらしく、狼狽しながら「あ」「え」と意味のない言葉を漏らしていた。さっきから思ってたけど、こいつ、あんま喋るの得意じゃないな? 一方的に相手から話しかけられているらしい男は「ああ」とか「いる」とか、口にしたあと、「……わかった」と言ってため息を一つついた。エアリスが、男に話しかける。

「事情が変わった?」
「そんなところだ。……カレン」
「え、なに、わっ」

 突然、端末を投げられたので、思わず受け取ってしまう。え、なに?

「レノからだ。出てやれ」

 れの? レノ、って、だれ、だろう。どきん、と心臓が嫌な音を立てる。手の中のそれが、ひどく重くなった気がした。通話中、という文字の上の「RENO」に、なぜだか心が逸る。思わず、なにを言えばいいのかもわからないまま、それを耳に当ててしまった。少しの無音のあと「……カレン?」やさしく、あたしを呼ぶ声。

「あ、の、」
「おーい。聞こえてんのか?」
「そ、の声、は」

 大魔王様じゃん!!!!!!!!!

「思い出したかな、と」
「思い出したくなかった!!!」
「へえ、随分強気だなァ?」
「ひっ」
「ぜってぇ連れ帰るから、覚悟しとけよ、と」

 死刑宣告!!!!!!!!!!!
 あまりのことに硬直するあたしの手から、するりと端末が抜き取られる。え、と見上げると、眩しいくらいの金髪。これでもかというくらい眉間にシワを寄せたクラウドが、あたしの持っていた端末を奪ったのだった。そのまま、不機嫌そうに、それを耳に当てる。

「そんなこと、俺がさせない」
「あ? お前は……」
「アンタ達に、コイツはやらない」

 ぶつり、とあたしにも聞こえるくらい乱暴に電話を切って、クラウドはそれをハゲ男に投げつける。無言でそれを受け取った男は、いつ来たのだろう、上空のヘリから垂らされた梯子に捕まった。振り返り、叫ぶ。

「しばらく家にいてくれ」
「それ、苦手なの」

 可愛く言うエアリス。やっぱり言葉が出てこないらしい男は、そのままヘリに揺られながら去っていった。上空を見つめる、クラウドとエアリス。その二人に気づかれないよう、右手で胸を押さえた。心臓が、どきどきと脈打って、唇が震えた。「……レ、ノ」その響きを噛みしめるように、小さく呟く。知ってる、あたし、知ってる。記憶がなくても。ギュ、と握り締めた右手。薬指が、ほんのり、熱を持った気がした。


200513



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