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 苦しい、気持ち悪い、吐き気がする。ぐるぐると胃のあたりを襲う不快感に、いっそ泣き出してしまいたかった。
 完全にわたしの不注意だった。蝿頭だと思っていたそいつはまさかの二級相当の呪霊だったらしい。身体の大きさを自由に変えられるそいつは、わたしの呪具による攻撃をするりと避けて、そして、無防備な口の中へと飛び込んできたのである。すぐさま吐き出そうとしたけれど、もう遅かった。ぬるりと異物が食道を通って、すとんと胃に落ちていく感覚。全身から冷や汗が噴き出た。気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い――っ!!
 廃ビルの外、壁に手をついてしゃがみ込む。吐こうとしても何も出てこないし、指先が嫌な感じに麻痺してくるし、視界は霞むし。唇の端からどろりと透明の唾液が出て、ぼたりと地面に落ちた。あ、これ、本当にやばいやつだ。目の前がくらくらして、今にも倒れ込みそうになるわたしの耳に、救いの神の声が聞こえてきたのはその時だった。

「どーした? だいじょーぶ?」
「ご、じょ、さん……」

 なんとか顔を上げると、目隠しをした五条さんがわたしを見つめていた。にっこりと釣り上がっていたその口が、わたしと目があった瞬間にきゅ、と引き結ばれる。隠された空色の瞳が、全てを悟ったに違いない。再びにっこりと笑った五条さんが、わたしの頬へと指先を伸ばした。

「呪霊自体は大したことないよ。飲み込んだの? 出せる?」
「う、無理そう、です、」
「そっか。……じゃあ、僕が手伝ってあげるね?」

 は? 目を見開いたわたしの頬を、五条さんは優しく撫でた。気遣うような手つきなのに、唇がにやにやと釣り上がっているのはどうしてだろうか。楽しんでいる。人が、こんなに苦しんでるのに。いや、全部わたしの不注意なんだけど。

「大丈夫です、自分でなんとか……っぐ、」
「でも、早くしないとマズいでしょ?」
「そ、れは……」
「ほら、遠慮しないの」

 ぐい、とわたしを抱き寄せた五条さんが、背中をゆっくりさすってくれる。うう、嫌だけど、嫌だけど、これ以上粘ったところで自分ではどうしようもできないし、時間が経てば経つほど事態は悪化していく一方だ。迷惑をかけてしまうのなら、すぐに済ませた方がいい。嫌だけど。しぶしぶ頷くと、五条さんは満足そうにぎゅっとわたしを抱きしめた。

「はい、あ〜〜〜〜ん……って、全身ガチガチだね」
「絶対苦しいし吐く姿なんて見せたくないからですよ!!」
「相手僕だし、気にしなくていいのに」

 そんなの無理に決まってるでしょう?! 悲鳴のようなそれは、五条さんの指先が唇に触れたせいで口からは飛び出さなかった。「優しくするよ」低く囁いた五条さんの指が、ぷにぷにとわたしの口を確かめるようにつつく。ぎゅっと目を瞑って、それを迎え入れるように唇を開いた。
 ぐ、と五条さんの指先が口内に侵入してくる。わたしとはちがう、男の人の指だった。爪が硬くて、大きくて、ついざらりと舌で舐めてしまう。その舌をずるりと擦るようにして、五条さんの人差し指と中指がさらに中に入ってきた。ぐちゅ、という卑猥な音。目の前がくらくらする。

「あー……口、ちっさ」

 ぼそりと何か言った五条さんは、次の瞬間ぐちゅんと勢いよくその長い指を全部わたしの口の中へと押し込んだ。

「う゛っ、ふぁっあっ」

 口内が五条さんの指でいっぱいになって、変な声が出てしまう。ふらりと倒れそうになる私を、五条さんの左手がしっかりと抱きとめてくれた。気持ち悪くて、逃げてしまいそうになっても、五条さんはそれを許してくれない。ぐにぐにと舌の奥を刺激されて、自然とえづいてしまう。込み上げる吐き気を抑えたくても、そんなのうまくいくはずがなかった。

「い゛あ゛っ」
「もう少し奥まで」
「ん゛ーーっ!」

 ぐちゅぐちゅ、ぴちゃ、ぐりぐり。五条さんの指先が、わたしの舌を好き勝手に弄ぶ。胃の奥から冷たいものが込み上げてきて、我慢できずに大きくえづく。「捕まえた」五条さんが呟いた次の瞬間、ずりゅん、という感覚とともに、五条さんの指先が引き抜かれた。何か言おうと思ったのに、唾液が気管に入ったせいか激しく咳き込んでしまう。

「ゲホッ、ゲホッ、ん、ん゛っ」
「お疲れ様。頑張ったね」

 一件落着っと。五条さんの指先で、呪霊はぐしゃりと祓われてしまった。口の端から垂れた唾液を手の甲で拭いながら、呆然とそれを見つめる。たす、かった。先程の吐き気が嘘のように、胸の奥がすっきりとしている。口内はありえないほど不味かったけど。でも、五条さんの前で地面に唾を吐き出すわけにもいかない。吐かされそうになったとしても、それとこれとは別問題だ。

「歩ける? 車まで運ぶよ、捕まってて」
「お願いします……車へ行く前に、水道かお手洗いへ行きましょう」
「なんで?」
「汚れた口まわりと五条さんの指を清めたいので……」

 本当にすみません、と頭を下げると、五条さんはわたしの唾液で濡れた右手を凝視しした。え、まって、そんなに見られたくないんですけど。恥ずかしいし。わたしの心境に全く気付いてない五条さんは、不思議そうにわたしを見つめたのだった。

「……続きスるのに無駄じゃない?」
「続きって何をするつもりですか!?」

 そうして、不審に思った補助監督の人が迎えにくるまで、人には言えない“続き”をしてしまう羽目になった。「助けてもらったらお礼するのなんて、当たり前でしょ?」当然のように言われてしまっては、言い返すことなんてできなくて。わたしはいつだって、五条さんには敵わないのだ。



***



 あ、やばい。そう思ったのは彼女の口に指先を捻じ込んだ時だった。彼女の口内はあたたかくて、湿っていて、ぞわりと背筋が粟立った。まだ指先を入れただけなのに、彼女は苦しそうに、んぐ、と声を漏らす。かわいい。やばい。

「あー……口、ちっさ」

 心の声はかろうじて堰き止めた。ぎゅっと強く目を瞑っている姿は怯えてるようなのに、熱くて柔らかい舌が指先を確かめるようにちろりと這わされる。は? なにそれ、無意識? タチが悪いんだけど。必死に男の指を受け入れるその表情が、夜のそれと重なってしまって。うわ、無理、えろすぎ。欲望のまま、ぐちゅりと指を奥まで挿れてしまった。う゛、とえづいた彼女にぞわぞわと身体中の血が逆流したみたいに騒いだ。そのまま、口内を堪能するように指先を暴れさせる。爪を立てないように気をつけながら、舌の奥と、上顎と、奥歯の方も。喉の奥に触れると、そこがひくりと反応した。かわいい、かわいいよ、オマエ。

「……もう少し、奥まで」

 もっともっと、オマエの奥まで。ぐいぐい奥を刺激するその指先が、冷たくてどろどろしたものを捉えた。熱いこいつの身体の中で、異質なもの。俺のコイツを犯す、わるいもの。オマエ、誰の許可とってコイツの中に入ってんの? そんな奥までさあ、俺だって入ったことないんだけど。絶対許さない。ま、呪霊の末路なんて決まってるんだけど。

「捕まえた」

 ずりゅん、とそいつを取り出して、無限でぐしゃりと潰してやる。一件落着。呪霊の方は。でも、俺の方は全然落ち着いてないよ。いつも言ってるよね。隙を見せるな、って。俺以外の男に犯されたらどうしよう、って思ってたけど、まさか呪霊に犯されるなんて、さすがに予想してなかったな。べっとりと彼女の唾液で濡れた右手を見てから、彼女の顔を覗き込む。続き、シようか。呪霊に犯されたオマエを、俺が消毒してやんないと、ね。


210109
フォロワーばこちゃんが描いた素敵な漫画を文章にさせて頂きました!
ばこちゃんどうもありがとう〜! らびゅ!