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「めっぐみー! お誕生日おめでとーっ!!」
「うるせ、つか酒くさ! あと窓から入ってくんな!」
「さっむーい! おこたおこた!」
「おい窓閉めろよ!」

 俺の言葉に何ひとつ返事をせずに、目の前の女は部屋のこたつへと潜り込んだ。仕方ない。大きなため息を吐き出して、開いたままだった窓をガラリと閉める。ていうか、俺、鍵かけてたよな。なんでもありかよ、この女。掴み所のない彼女に振り回されるのも、もう慣れたものだった。五条先生の従姉妹である彼女は、五条先生の影に霞んではいるものの、かなりの実力を持った呪術師であることに間違いはなかった。問題は、酒癖が悪いことと、酔っぱらうとこうやって俺に絡みにくるところだ。俺が五条先生に世話になり始めてからずっと、よく言えば面倒を見てもらっていたし、悪く言えば付き纏われていた。

「あったかーい!」
「よかったな……」
「ていうか、恵、今日誕生日でしょ? 誰にも祝ってもらえなかったの? 友達は? いないの?」
「アンタ今何時だと思ってんだよ……とっくに皆寝てる」

 虎杖が企画してくれた誕生日会は、先輩や五条先生も参加してくれて結構な時間まで盛り上がっていたのだが、それも数時間前に解散になっていた。いつもだったらこの時間はとっくに寝ているけれど、今日はなんとなく眠る気分になれなくてずるずると夜更かしをしてしまっていたのだ。「恵は? なんで寝てないの?」俺の顔を覗き込んだ彼女が、にんまりと笑う。気づかなくていいところに限って、この女は目敏く切り込んでくる。なんでだよ。五条の血か?

「……気分じゃなかった」
「誕生日だからテンションあがっちゃった? かわいいなあ〜」

 ふふ、と笑うその横顔にカチンときた。この女はことあるごとに、俺のことを子供扱いする節がある。それがこうも頭にくるようになったのは、いつからだっただろうか。いつだってこの女は、体温を感じるくらい近くに寄ってくるくせに、俺が手を伸ばす直前にふっと離れてしまうのだ。それがもどかしくて、切なくて、気づいたら狂おしいくらいに求めてしまっていた。今日だって、来るかもわからない彼女を待っていたなんて、他人が聞いたらバカみたいだと思うだろう。俺だって思う。それでも、彼女から離れられないのはなぜだろうか。こんなもの、まるで呪いだ。

「可愛くねえって」
「えー、かわいいよ。恵はいつだってかわいい」
「っ、」

 気づいたら、フローリングに彼女を押し倒していた。彼女の綺麗な白い髪が床に広がって、その澄んだ瞳が驚きに見開かれる。心臓がどくどくと走って、耳元で唸っているようだった。喉が乾く。呼吸が浅くなる。俺を見つめる彼女の、震える唇は赤い。吸い付いたら彼女はどうするだろうか。瞳に浮かぶのは驚愕か、恐怖か。どちらも安易に想像できた。どちらでもよかった。彼女が、俺のことを一人の男として意識してくれれば、それで。

「めぐ、み……?」
「アンタ何もわかってないんだな」

 アルコールで上気した頬に手を這わす。何にもわかってないんだな。俺がどれだけアンタのことが好きで、好きで、好きで好きで好きで、いてもたってもいられないなんてこと、全然わかってないんだろ。アンタが五条先生と親しげに話すだけで、俺の胸の内をどす黒い嫉妬が渦巻くことも、何にも知らないんだろ。俺が、どれだけ、アンタのことを。

「めぐみ」
「っ、」

 甘い声で名前を呼ばれて、息を飲んだ。俺を真っ直ぐ見上げた彼女の瞳が、ぐらぐらと熱を孕んで揺れている。知らない、そんな表情。伸ばされた手、俺の頬に触れた指先は氷のように冷たかった。知らない。彼女が凍てつく冬の夜の中、俺の元まで駆けてきた理由など。知らない。だって、彼女は何ひとつ俺に教えてくれなかったから。今までは。今日、こうやって、腕の中に閉じ込めるまでは。

「……本当にわかってないか、確かめて、みる?」

 俺の頬を包んだ彼女の指先に誘われるまま、ゆっくりと鼻先を近づけた。つん、と触れ合ったそこはやっぱり冷たくて、それがどうしてか俺の身体を熱くする。唇に吐息がかかる。あと少し――というところで、彼女は「あ、」と気の抜けた声を漏らした。

「ねぇ、恵、聞きたいことがあったんだけど」
「……それ、今聞くことかよ」
「うん、すごく大事なこと」
「…………何」

 誕生日プレゼント、何がいい? 吐息まじりにそう問われる。込み上げるため息を、息を止めることでやり過ごした。アンタ、やっぱり全然わかってないな。こんな状況で、欲しいものなんて、そんなの、一つしかないだろ。

「アンタ」

 ぶっきらぼうに呟いて、返事の前に唇を塞いだ。


201223
あずさんとリクエスト交換しました!あずさんありがとう!