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※同性同士のキスがあるので苦手な人は注意してください!




「あ、ツモ!!」
「「え」」

 手にした牌を勢いよく卓上へと叩きつけると、悟と傑の声が重なった。これはいける気がする! 満面の笑みのわたしに二人は渋い顔だ。うきうきと手札をオープンにすると、二人はわたしの方に身を乗り出した。

「混一、役牌、小三元……か」
「まて、悟。ドラも乗ってる」
「ま、どっちにしろ俺の勝ちだな」
「待ってってば! リーチ一発ツモだよ! あと裏ドラが残ってる!」

 腕を伸ばして2枚のドラと、その下の牌を引き寄せる。この瞬間がドキドキして好きだ。だから鳴きもせずじりじりと手札を揃えたのだ。わくわくしながら裏ドラをひっくり返す。現れた文字に、きゃあ、と甲高い声が漏れた。

「やった!! 裏ドラ!!」
「は、おま、マジかよ、ドラ幾つ乗った?!」
「えっと、1、2……あっ、北もあったんだ! ねえこれ何点?」
「嘘だろ……」
「数え役満……」
「ねえ、これ何点? ねえってば!」

 絶句した二人に詰め寄る。見つめ合った二人は、次の瞬間大きくため息を吐き出した。悟がガシガシと頭を掻きながら舌打ちをしたのを、傑は聞き逃さなかったらしい。鋭い視線が悟を貫いた。

「悟があんなところでカンなんかするから」
「傑こそテンパってたんだから適当な手で上がればよかっただろ!」
「適当な手じゃ悟に勝てないだろ。一位じゃなきゃ意味がない」
「ね、ね、わたしが勝ったでいいんだよね?!」

 唇をひん曲げた二人がわたしを見つめて、そうしてそそくさと卓を片付け始めるけど。そうはいかない。だって一度約束したのだ。悟が勝ったらわたしと悟がキス、傑が勝ったら傑とわたしがキス、わたしが勝ったら二人がキス、だ。両手でがしりと二人の腕を掴んで、にっこりと微笑む。逃がさねえよ。

「はい、約束通り、二人がキス、ね」
「……約束? 覚えてねぇな。なぁ傑」
「そうだね、私も全く身に覚えが、」
「嘘つきは嫌いです」
「「……」」
「大嫌いです」

 沈黙のあと、渋々二人が向き合う。どうせなら撮影しようと思って端末を掲げたけれど、悟どころか傑にすら殺さそうな視線を向けられてしまったので仕方なく手を下ろした。まあいいか。いつもはわたしを虐めてくる悟と傑へのちょっとした仕返し。これは当分二人を脅すネタになるだろう。目に焼き付けておこう。

「はいどーぞ」
「……私からするのか?」
「見たくねぇし」
「私も見たくない。悟は目を瞑っていてもできるだろ」
「……チッ」

 そうして、まぶたを下ろしたまま二人の顔が近づいていって、お互いの唇が、触れる。うわ。生ちゅーだ。初めて見ちゃった! なんて思う間も無く二人はものすごいスピードで離れた。口元を押さえたまま、傑が洗面所の方へと走って行く。え、嘘でしょ一瞬すぎない!? でも十分面白かった。特に手の甲で唇をゴシゴシ必死に擦っている悟の表情が最高。堪えられるわけもなく、床で笑い転げていると、ぬっと悟が視界に現れた。唇を釣り上げた顔は一見笑っているように見えるけど。わたしは知っている。その瞳は鋭くぎらぎらと光っている。や、やばい、これ、キレてる。

「え、えーと、悟、くん?」
「随分楽しそうだなァ? 俺も混ぜろよ」
「混ぜろっていうか二人が楽しそうだったっていうか、あの、」
「あ? じゃーオマエも混ぜてやるよ」
「え、」

 悟の大きな手のひらが、わたしの手首を掴んで床へと押しつける。上半身がのしかかって来て、たったそれだけなのに身動きができなくなってしまった。いつの間にサングラスを外したのか、悟のきらきらした空色の瞳が、わたしを見下ろしている。切れ長の瞳。宝石みたいなそれが、すっと細められて。顔が近づいてくると同時、悟の目蓋がゆっくりと閉じられた。うわ、悟の睫毛、ながぁい。きれぇい。じゃ、ない、え、まって、あれ、これって、まずい、キス、され、

「…………君達なにしてんの」
「!」
「し、硝子!!」

 ばっと身体を起こした悟が、入り口に立っていた硝子を凝視する。手首の拘束が緩んだ隙に、悟の下から抜け出した。すぐさま硝子の後ろに避難する。チッという特大の舌打ちが聞こえて来た。こ、こわい。ピンと張り詰めた空気は、この部屋の主の登場で弛緩した。やっと洗顔に満足したのだろうか、洗面所から傑が現れる。「硝子? 来たのか」口元にタオルを当てているせいで、それはひどくくぐもっていた。

「嫌な予感がしてね。ところで、今の状況説明してもらえる?」
「「「…………」」」

 誰も答えない。悟は傑が知らないから、今の自分の行動についてなにもいうはずがないし、傑はたぶん自分と悟がキスしたことだと勘違いしてる。わたしは、硝子が怖くてなにも言えない。沈黙が続く中、硝子が悟と傑を睨みつけながら低い声を出した。

「だから、なんでこの子と悟がキスしてたのか、答えなって」
「悟とキス!?」
「まだしてねーよ!」
「未遂です!」
「未遂ねぇ……」

 くるりと振り返った硝子が、がしりとわたしの頬を掴む。ふわりと煙草の香りが鼻をついて思わず言葉に詰まってしまった。にゅ、と唇を突き出したわたしを硝子が目を細めて見つめた。ひい、怒ってる……! 「ほ、ほんとに未遂で、んむ」言い訳は硝子の唇に吸われた。

「っは?」
「な、っ」

 あたたかくて湿った唇が、わたしのをちゅうちゅうと吸っている。にゅるん、と舌が口内に滑り込んできて、びくんと身体が跳ねた。長い硝子の舌が、歯列をなぞってから上顎を擽る。くすぐったくて、鼻から甘ったるい息が漏れた。そのまま、奥で縮こまっていたわたしの舌が、ずるりと絡め取られて引き摺り出される。ぬりゅぬりゅと擦り付けられる舌から煙草の香りがして、思わず眉間に皺が寄った。苦い。それに気づいているくせに、硝子はキスをやめてくれない。いつの間にか頬を掴んでいた手のひらは、わたしの両頬を包み込んでいた。苦しいのに気持ち良くて、思わず硝子の服を掴んでしまう。ふ、っと笑った翔子が、舌先を甘噛みしてから唇を離した。とろりと銀の糸がお互いを繋いで、ふつりと切れる。残ったのは煙草の苦味だった。

「硝子、キス、苦い」
「ん? あー、そうえばさっき吸った」
「吸ったらちゅうしないって言ったのに」
「仕方ないでしょ、ああいうバカには見せたほうが早い」
「っ、」

 そうだ、悟と傑。ばっと振り向くと、ぽかんとこちらを見つめる二人にかぁっと顔が熱くなる。う、わ、見られた。めちゃくちゃ、思い切り、見られた。恥ずかしくていても立ってもいられなくて、再び硝子の後ろに隠れる。ふわり、とまた煙草の香りがして、胸がキュンと疼いた。

「は? まって、なに、オマエら付き合ってんの?」
「まーね」
「いつからだよ!? 言えよ!!」
「全然気がつかなかったな……」
「一ヶ月くらい前。この子恥ずかしがって言いたがらないから」
「うう、だって普通に恥ずかしいじゃん……」
「ってわけで、今後一切この子に手出し禁止。わかった?」

 戸惑いながらも頷く悟と傑にほっと息をつく間も無く、思い切りほっぺを抓られる。眉間に皺を寄せた硝子が、わたしを引きずりながら扉へと歩きだした。い、いたい、ほっぺちぎれる!!

「ちょ、硝子、まっ、痛、あう、」
「あんたは私とじーっくりお話、ね」
「ひあ、あ、ハイ……」
「じゃーね」

 ひらり、手を振る硝子に、立ち尽くしたまま悟と傑が手をあげる。わたしもなにか言おうかと思ったけれど、その前に扉は閉められてしまった。硝子が無言の笑みをわたしに向ける。ひい、こわい。この後のことを考えて、ぞくりと背筋が凍る。ずるずる引き摺られながら、弁解の言葉を必死に考えた。やっぱり、賭け麻雀なんてろくなもんじゃない!


201202