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「あれ、硝子いないじゃん」
 悟からの呼び出しに傑の部屋へ向かったけれど、炬燵を囲んでいたのは悟と傑の二人だけだった。『麻雀しようぜ』という簡潔なメールですぐさま集まる程度には、何度も同じ卓を囲んでいたあたしたちだけど、三人なのは初めてだ。まだ来てないだけなのかな。

「あー、あいつ急患入ったって」
「え、まじ? こんな時間に?」
「今日はパスだって言ってたから、三人だな」
「サンマかぁ。まあ、揃えやすくていいけどさ」

 学校指定のジャージを、炬燵の中へと潜り込ませる。あったかい。最近急に冷えてきたから、あたしも部屋に炬燵が欲しいなと思っていたのだ。でも、買ったら絶対引きこもる。間違いない。あたしの右隣に座った傑が、床に直置きしたポットに入っていたお湯を急須へと注ぐ。はい、と手渡されたのは熱い緑茶の入ったマグだった。ありがたい。これがないとこの麻雀会は始まらない。

「なあ、せっかく三人なんだし、いつもと違うモン賭けようぜ」
「でた。やだよ、悟絶対変なこと言うじゃん」
「言わねーよ。なあ傑」
「そうだね、いつもと違うことをするのも悪くはないな」

 じゃらじゃらと牌を掻き混ぜながら、爽やかな笑顔で傑が応える。はあ? なにその顔。うっそくさ。さてはこいつら、あたしが来る前になんか打ち合わせしてるな? 怪しいことこの上ない。こう言うのは乗らないのが吉だ。ちなみに、いつもは最下位が一位にジュース一本という可愛らしい賭け麻雀である。

「やだ。却下」
「じゃ、多数決な」
「いいね」
「ちょ、よくない!」
「一位の奴が好きな奴とキスできる」
「っはあ?!」

 キス?! なに言ってんのこいつ?? 雀牌を二段に積み重ねながら、のうのうと悟が述べたから、思わず口を開けたまま彼を凝視してしまった。左隣に座ったまま、悟はすいすいとあたしの対面の牌も並べ終わる。ぬっと右側から傑の手が伸びてきて、中途半端なあたしの前の牌を綺麗に並べた。流れるような連携プレー。やっぱり怪しすぎる、裏で手を組んでるな、こいつら!

「むり、却下、なし、パス、やらない」
「あ? 逃げんのかよ」
「どう考えてもあたしが損!」
「なんでだよ。俺とキスできんじゃん」
「なんで自分が勝つ前提なの?!」
「私とキスができるだろ」
「だからなんで自分が勝つ前提!?」

 こわい。この二人やばい。逃げ出そうと机についた両腕は、両脇から伸びてきた手に捕まった。笑顔の悟と傑が、あたしの顔を覗き込む。うっわ、やばい。こんな笑顔の悟と傑を見て、ろくなことになった試しがない。滝のように背中を汗が流れていったけど、助けを呼んだところで誰もきてくれないだろう。どうしよう、どこかに綻びはないだろうか。抜け穴を探さないと、あたしが十六年間守ってきた純潔の唇を奪われてしまう。こんなところで、こんなやつらに! 絶対いや! 必死で頭を回転させていると、脳内で電球がぴかりと光った。そうだ、こいつらのどちらかが降りたくなるような提案をすればいいわけだ。多数決なわけだし。その手があった!

「あ、あたしが勝ったら、」
「「ん?」」
「悟と傑がキス、ね!」
「はあ?」
「うっげ……んだよそれ」

 二人の顔が同時に歪む。おーおーそうだろ、嫌がれ嫌がれ! そしてそのままこの賭けの話も流れてしまえ! ふん、と得意げに鼻を鳴らしたけれど、同時に手を離した二人がにやりと笑ったので背筋が寒くなる。ま、まさかこいつら……!

「ま、俺が勝てばいい話か」
「私が勝つから問題ないね」
「え、嘘でしょ、ちょ、まっ、」
「オマエ、提案したからにはもう降りられねーから」
「親は譲ってあげるよ。はいどーぞ」

 傑が小さな賽子を二つ渡してくる。それを受け取って、じっと見つめる。ちらり、上目遣いで二人を見上げると、鋭い眼光があたしをとらえていた。ひっ、と小さな悲鳴が唇から漏れる。やらかした、かも。

「えっと、やっぱりナシっていうのは……」
「「却下」」
「ですよね……」

 心の中で涙を流しながら、意を決して賽子を振る。まさに今、賽は投げられた。


201129

サイトにてアンケを取りました。買ったのは夢主でした〜!