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 隣を歩く傑の手が私に触れるたび、どきどきと脈打つ心臓の音が聞こえてしまわないか不安になる。呪霊を祓った帰り道、笛の音につられて訪れた神社の境内は煌々と提灯がともされ、いくつか出店が出ていた。田舎というには都心から近いし、都会というにはどうもパッとしないその場所は、どうやら穴場らしく人がぱらぱらと行き交うだけだった。子どもの姿はない。当たり前か。結構遅い時間だもんなあ。完売してしまったのか、すでに灯りの消された屋台もあった。骨組みだけ残されたそれは、まるで取り残された私たちみたいだ。誰にも認識されていない、私たちみたい。

「何か食べよう」
「あっ、傑、私、」
「りんご飴、だろ」

 相変わらず、好きだよなあ、と傑は笑った。傑は優しい。傑はよく笑う。傑の笑顔が好きだった。困ったように笑う顔も、馬鹿にしたように笑う顔も、全部、全部が好きだった。幼馴染の私たちは、お互いのことを、お互い以上に知っていた。家のことも術式のことも、何もかも。傑の初恋の相手が従姉妹のお姉さんということも私は知っているし、傑は私が何歳までおねしょをしていたのかを知っている。家が隣同士の私たちは、いつも一緒だった。一緒に遊んで、一緒に学校に通い、一緒に除霊をする。傑が隣にいなくなる日々を、私は想像すらできないな。屋台のおじさんが渡してくるりんご飴を受け取る。いつの間にか傑がお金を払ってくれたらしい。優しい。それが、辛い。りんご飴は甘かった。その甘さが、とても悲しかった。歩み出すと同時、唇を開く。風が吹いた。

「……結婚、決まったの」
「っ、」
「卒業と同時、だって。許嫁なんて、ほんと、考えが古いよね」
「そうか。…………おめでとう」

 傑の顔は見えない。私はまた飴を舐める。顔なんて見なくても、こんな声を出すときの傑の表情なんて、すぐにわかっちゃうんだから。おめでとう、なんて、言わないでよ。思ってもいないくせに。ありがとう、と返す。思ってもいないくせに。私たち、似たもの同士だね。一緒にいると、そんなところまで似てしまうのかな。
 隣を歩く傑の手が私に触れる。指先を、傑が掴むことはない。私から、絡めることもない。どうしてだろう、子どもの時にできていたことが、大人になるとできなくなるのは。左手に持ったりんご飴を、一口かじる。あたたかくて、湿った風が、私たちを包み込んだ。夏の夜風。どうせなら、なにもかもを攫ってくれればよかったのに。


201029