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 腕の中で寝ている彼女の前髪をそっと掻き分け、激しい行為の後で薄っすら汗ばむ額に口づける。この温もりを抱きしめてそのまま寝てしまいたい気持ちを抑えて、慎重に頭の下から腕を引き抜いた。ベッドから降りて振り返ると、彼女は変わらず穏やかな寝息をたてている。お前ほんとにタークスかよ。まったく目を覚ます気配のない寝顔に思わず苦笑が漏れる。散らばった服の中から自分の下着を拾って身につけて、月明かりできらきらと輝く艷やかなアッシュブロンドを撫でてから静かに寝室を出た。

 暗闇の中を壁伝いに進んで、目指すはリビングのテレビボード。引き出しを開けて、手の感覚を頼りに目当ての物を探す。パンツ一丁で引き出しを漁る様はさぞかし滑稽なんだろうなと思っていたら、ベルベットの肌触りのいい感覚が指先をくすぐった。お、あったあった。小箱を拾い上げて、暗闇に慣れた目で手の中の箱をみつめる。こんなこと柄じゃねぇよな。これからしようとしていることが、今までの自分からは想像がつかなくて自嘲めいた笑みが浮かんだ。それでも、彼女の笑顔が見たい。喜ぶ顔が見たい。いろんな表情を、誰も見たことのない顔を見せてほしい。そんなことを思ってしまうくらいには彼女に惚れている。

「あーもー、参ったぞ、と」

 とうの昔に忘れたと思っていたこそばゆい気持ちに、天井を見上げてひとりごちた。

 寝室に戻ると、寝返りをうったのか、彼女は俺が出たときとは反対側を向いていた。軋ませないようにベッドに上がって顔を覗き込んだが、起きているわけではなさそう。そっと小箱を開けて小さなシルバーリングを取り出す。目の前に翳すと、ざらざらとした暗闇の中でも僅かな光を反射して、その輪郭を浮かび上がらせる。

「ほんと、ちっせぇな」

 彼女の指は細くて不安になる。握ったら簡単に折れてしまいそうで。でも、どんなにしっかりと、強く強く握りしめていても、俺の手をするりと抜けてどこか遠くへ行ってしまいそうで。だから、これは少しでも俺に縛り付けておくためのもんだ。傷つけないように。でも離さないように。こんな俺の気持ちなんてこいつはわかってないだろうけど。顔の横に投げ出された右手の薬指に小さなリングをそっと通すと、引っかかることなくキメの細かい肌を滑っていった。進むにつれて肌と擦れて、僅かな抵抗感を感じながら最奥へ。よし、ピッタリだぞ、と。起こさずに作戦を遂行できたことにほっとして、いつの間にか消えていた眠気が戻ってきた。俺もそろそろ寝るか。薄い布団を捲って彼女の隣に身体を滑り込ませる。彼女を抱え込むように腕を回して、指の腹でリングを撫でる。存在を確かめるように何度も、何度も。それがくすぐったかったのか、手をぎゅっと握って俺の手から逃げるように身体の方へ引き寄せた。離すかよ。彼女の手を追って柔らかく包み込む。旋毛にひとつキスを落として、彼女の熱を感じながら瞼を閉じた。

***

 仄暗い水の底からゆっくりと浮き上がるように目が覚める。遅れて少しずつ感覚も起きてくる。全身の気怠さと、腕の中の柔らかな熱。素肌と素肌がぴったりと吸い付いていて心地いい。

「名前」

 お互いの体温が混ざり合って境界まで曖昧になっていく感覚に、思わず彼女の名前が漏れた。返事は、ない。肘をついた手に頭を乗せて、ぴくりとも動かない長い睫毛を眺める。ほんとよく寝てんな。ちょっと無理させすぎたか。安心しきったあどけない寝顔に無性に愛しさが込み上げてきて、こめかみに唇を寄せる。そのまま目尻へ、耳へ、項へと滑らせていく。顔を埋めたまま大きく息を吸えば、彼女の香りで肺が満たされていく。同じシャンプー、同じボディーソープを使っているのに、俺のとは違う、甘くて、俺を惹きつけて止まない香り。それは、肺胞から吸収されて血液に溶け込んで全身をめぐる。そのせいでふつふつと湧き上がってくる欲に負けて目の前の真っ白な項に噛み付いた。

「んっ……いったぁ」
「はよ。やっと起きたかよ、と」
「おはよう。ねぇ、今噛んだよね?」
「好きだろ?お前、噛むとよく締ま」
「好きじゃない!跡になるからやめてっていつも言って……」

 言ってるでしょ。そう続くはずだっただろう言葉は尻窄んで最後まで発せられなかった。彼女の目線は俺の右手の真新しいシルバーに注がれている。肝心な自分の指の変化には気づいてない。

「え、これ……」
「俺のもだけど、こっちがメインだぞ、と」

 俺の手を掴んでいた彼女の手を掬って目の前に導く。

「これ……レノが?」
「他のやつからのなんて付けさせねぇよ」
「わたしに?」
「じゃなきゃそこにはまってねぇだろ」

 明らかに動揺している彼女の肩を引いて、身体ごとこちらを向かせる。まだ言ってなかった。これは、ちゃんと顔を見て。

「誕生日おめでと、名前」

 来年もその先も、一番近くでこの言葉を伝えられるように願って、小さな指輪にキスを落とした。




寧々ちゃんからお誕生日プレゼントでもらいました!
誕生日一緒なんて思わなかった奇跡だね!
あと!!指輪!!!ああああ大好きです!ありがとうございます!