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 毎年この日を迎えると、誕生日というものについて考える。

 そもそも俺は誕生日という存在を覚えることが苦手だった。毎日どっかで誰かが生まれ、毎日どっかで誰かが死ぬ。その日々のなかで、この日は私が生まれた日です。 なんて言われたところで覚えてられるわけもねえし、特別に祝ったところでそいつの明日が変わるわけでもない。だから俺が認識するところの誕生日なんてものはいわゆる製造年月日で、個体ごとに付けられてるシリアルナンバーに過ぎなかった。…まあ、 それも。名前に出逢う前までは、の話だが。

 ふと、雑貨屋が目に留まる。ガラス越しに目が合ったのは猫の置物。赤毛のソイツは写真を挟み込むバネの周りをぐるりと囲むようにして身を横たえ、食えない笑みでこちらを見ている。プレゼントはさっき買ったばっかだけど、コレも悪くねえな。名前は包みから出てきたコレを見て、れの、みたい。なんてふにゃりと今にも溶けそうな笑みを浮かべるに違いない。…いや、俺のいない間、コイツは名前の家で大事にされるってことか。そりゃ妬けるな。ダメ。却下だ。

 続いて目に飛び込んで来るのは花屋のショーウィンドウ。あの頃この辺では希少だった生花も、魔晄炉なき今では贈り物としてポピュラーなアイテムになりつつあった。 それでも高価なことには変わりないが、日差しの下で露を弾く真白い花の姿に視線を 惹きつけられては足が止まる。ふるりと風に震える姿が名前の健気な立ち姿と重なって、気が付けば店主に声を掛けていた。店主は気持ちの良い返事をして、プレゼント用ですね、と俺の手元を見て言う。俺は頷いて、誕生日なんだよ、とその場に於いては不必要な情報まで口にしていた。けど店主が笑って、それはおめでとうございます!と言うのを聞いて、俺はこの気持ちを誰かに言いたいと思うほどに浮かれていたことに気が付く。そうなんだよ。俺の可愛い恋人が生まれた日なんだ、この日がなけりゃアイツは存在してないどころか俺に出逢うこともなかった。大事な、一日なんだよ。

 丁寧にラッピングされた花を受け取り、斜陽の街へと目を配れば、八百屋の前に今しがた買った花のような立ち姿を見つける。悩まし気に眉をひそめて、店頭のそれを吟味しては店主と二言三言交わしてまたも悩み始める。野菜買うだけなのに、なんで そんな悩めんだよ。ふ、と吹き出して、笑ったまんまで後ろから声を掛けてやろうと歩み寄る。細くて、頼りない肩の幅。ふわふわと波打つ髪は夕陽の橙色を内包して一 層の柔らかさを湛えている。

「名前」

 振り返ったお前は、驚くんだろうな。そんで、すぐに俺の名前を呼んで微笑むんだ。 お前が生まれたことに感謝したいのに、なぜか俺の方がその微笑みに嬉しい気持ちにされちまう。だから俺はおめでとうよりも先に、昨日も一昨日も言った、あいしてる、 を先に伝えよう。

 振り返ろうとするその動作を、俺は百合の花を背に隠したままで見守った。


きみが生まれた日

大好きソラオさんより誕生日プレゼントでいただきました!
ソラちゃんの文章は本当に素敵で大好きです。皆さんもぜひ読みに行ってください本当に凄いんです!ソラちゃんありがとう〜!!!