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 温風が当てられるたび、視界が遮られては晴れる。私の髪をすくルードの手が優しくて、あまりの心地よさに眠ってしまいそうだ。お風呂上がりのリビング。いつも通り髪を乾かそうとした私の手から、ルードがドライヤーをするりと取り上げて。どうしたの? 言葉には出さずに視線で問いかければ、私を見下ろす瞳がきらりと輝いた。「俺がやろう」低い声のそれは、優しくも有無を言わさぬ口調で。断る理由もないし、なんだか嬉しいし。ひとつ返事でお願いしたのだった。自分で乾かすときは、結構適当なのだけれど、ルードは私の髪を一房ずつ手に取り、根本から毛先まで、流れるようにドライヤーを当ててくれる。嬉しいのは、間違いないし、気持ちいいのだけれど。ちょっと恥ずかしいかな。風の音で会話もできないし。でも、この沈黙が心地よいのも確かだった。

「終わったぞ」
「ありがとう」

 カチリ、と電源をオフにする音。ちょっと残念だけれども、仕方ない。お礼を言って、振り返ろうとした私の髪を、ルードが優しく撫でた。突然の行動に硬直する。

「綺麗だ」
「え、あ、そうかな、そんなこと、ないと、思うけど」

 ふと昼間のことを思い出す。髪を結んだ時に、ずいぶん毛先が痛んでいるな、と思ったのだ。そういえば、久しく美容院に行っていない。そろそろ予約をしなければ、なんて考えていたのだった。そうだ、やだ、私、毛先、パサパサ、だった。

「まって、毛先、痛んでるから、あんまり、見ないで」
「そんなことはない」
「でも、」
「お前は、綺麗だ」

 視界の端、私の髪を一房手にとったルードが、それに音もなく口付ける。突然のことに硬直した私を、上目で見たルードが、ふ、と笑みをこぼす。光を反射する黒い瞳に、吸い込まれるかと思った。顔がかあっと熱くなって、体温が一瞬で上がった。言葉を失った私を見て、くく、と笑ったルードが、はらりと髪を離す。そして、

「俺も、風呂に入ってくる」
「い、行ってらっしゃい」
「……起きて待っていろ」

 そ、れって、あの、そういう、意味? にやりと笑ったルードが、脱衣所へ消えて行ったけれど。腰の抜けてしまった私は、立ち上がることすらできないのだった。……とりあえず、美容院、予約しようかな。


200713