*物凄く変なパラレル



刀を喉元に突き付けられ、悪戯に薄皮を一枚、裂かれた。つう、伝う赫は痛みよりも恐怖と絶望を齎し、体躯を強張らせる。
耳障りな笑い声が聞こえて、死を抱きながら目を閉じた。嗚於、御免なさい、姉上。

「…、……?」

来る筈の衝撃が無い事に疑問を感じ、そっと瞼を開くと、先程迄俺の目前に居た人間離れした可笑しな生き物が地に伏して居るのが見えた。傷口からは血液とは思い難い色の液体を垂れ流し、見開かれた目は生気を失っていた。其れ等の事柄は、其奴の死を暗に示していた。
何が、起こったのだろう。
俺は此奴に殺される直前で、嗚於、如何して、何が、一体、

「おい」

訳も解らぬ儘呆けて居ると、突然頭上から声が降って来た。驚いて其方を向くと、












意志の強い濃緑の隻眼に、血化粧を施した端正な顔。
酷く美しいひとが、其処に居た。






















嗚於、何て懐かしい。
目が覚めて初めてした事は、先ず笑う事だった。あの人に出会ってもう何年だろうか。あの頃は未だ何も解らない無力で無知な只の子供だった。まあ、あの人からすれば俺なんて未だ未だ子供なのだろうけれど。欠伸を噛み締めながらそんな事を思って居ると、壁に取り付けた時計が視界に入った。かちかちと一定のリズムを刻んで居る其の短い針は、間も無く6を指そうとして居る所だった。
嗚於、いけない。こんな下らない思考に割いている時間等無いのだった。急いで着替えを済まして――今日は何れにしようか――仕事に取り掛からなければ。早く済まさなければ彼女に叱られてしまう。普段は俺には比較的甘い彼女も、あの人が絡むと途端に厳しくなるから困り物だ。と云っても、他者に比べれば俺への其れなんて限りなく優しいものなのだけれど。

あの人が贈って呉れた着流しに、彼女が選んで呉れた帯を合わせる。うん、中々。彼が呉れた刀を脇に挿して――嗚於、貰ってばかりで何だか申し訳無くなる。だからこそ、其の分仕事で御返ししなくてはいけない。確認した針は、6を指した。さあ、行かなければ。





















仕事内容は至極単純明快なものだった。と或る過激派攘夷集団を殲滅させる事。壊滅でもまあ良いのだけれど、一人残らず始末して仕舞えば其の分、此方に――否、あの人に無駄な影響を与えずに済む。其れから、此れは俺の性質だが、掃除は隅々迄完璧に熟したいタイプだから、だ。

とっとと済まして早くあの人達の元へ帰って朝御飯を食べたい。何だかお腹が空いてしまった。彼の作る御飯は美味しいんだ。あ、やべ、涎れ。
香しい朝食を思い浮かべながら、俺は愛刀を鞘から引き抜いた。























「只今戻りやした」
「御帰りっス、総ちゃん!」

出迎えてくれた彼女――また子さんに笑顔を向けると、また子さんは可愛いっス!と言いながら頭を撫でた。乱れてしまった髪を直しながら仕事の報告をすると、今度は優秀っスね!とまたもや頭を撫でられた。

「今日の御飯、何ですかィ?」

前を歩く背中を見詰めながら尋ねると、未だ食べてないから解らないと言う。何と俺を待って居てくれたらしい。こんな事なら死体で遊んでないでとっとと帰って来るんだった。内心舌打ちをして謝ると、姐さん――俺はまた子さんをこう呼んでいる――はこっちが勝手に待って居ただけだからと笑って許してくれた。良いひとだ。

「其れに、晋助様もそう言ってたっスから」
「旦那が?」
「総悟が戻る迄要らねぇって」
「…すいやせん」

此の分だと彼等もそうだろう。何て事だ。がっくりと肩を落としてうなだれる俺に、だから気にしなくて良いっスよ!と姐さんは言ってくれたけれど、嗚於、罪悪感。

「其れに総ちゃん朝早く行ったから、待ってて丁度良い位だったっス。――はい、此の話は終わりっス! 取り敢えず晋助様に報告して、お風呂入って来るっスよ!そしたら御飯っス! 良いっスね?」

有無を言わさぬ口調で言われ、俺は已無く頷いた。此の姐さんには何を言ったって無駄だから、大人しく従う他無いのだ。
――すいやせん、万斎さん、武市さん、岡田さん。心中でそっと謝罪をしてから、俺は旦那の部屋へと向かった。






















「――総悟か」
「はい」

入れ、と云う言葉に障子を遠慮がちに空けると、旦那は煙管から紫煙を吐き出しながら、窓淵に腰掛けて居た。失礼します、と室内へ足を踏み入れると、窓の外へと投げ出していた視線を此方へと向けた。鋭い隻眼が俺を捉えて、どくん、大きく心臓が脈打った。

「如何だった、彼奴等は」
「矢張り旦那が御手を煩わせる迄も有りやせんでした」
「そうか。御苦労。嗚於、矢張り似合うな、其の色」
「有難う、御座居ます」

旦那は其の綺麗な濃緑を細めて満足げに小さく笑んだ。何だか気恥ずかしくて、視線に耐え切れずに俯くと、旦那の陶器みたいな白くて細長い綺麗な指が俺の顎をなぞった。

「――なァ総悟」
「…、はい」

其の儘顎を掬われて、上方を向かされる。否応無しに絡まる目線に、加速する鼓動。――嗚於、綺麗。何て、綺麗なひと。
目線を絡ませた儘、旦那は俺に顔を近付けると、唇と唇が触れるか触れないかと云うぎりぎりの所で距離詰めを止めた。俺は、旦那の濃緑に吸い込まれる錯覚を起こしながら、何処か恍惚とした心持ちで只其れを見詰めて居た。

「今度よォ、江戸で祭が在るらしいんだ」
「存じてまさ、何でも天下の将軍様がいらっしゃるとか」
「あァ。で、だ」

其処で一旦トーンを落とすと、声を潜めて――まるで内緒話をするかの様な其の様相に、俺は酷く心踊らせた――耳元で囁いた。

「――俺とデートしねェか?」

旦那は大層楽しげに口許を歪めると、唇を重ねてきた。其れはほんの一瞬の事で、直ぐ離れてしまったが、俺の心拍数と体温を上げるには十分過ぎるものだった。

「デート、ですかィ」
「あァ」

鼓動を落ち着かせる為、其の言葉を反芻させて意味を模索する。祭。将軍。――ああ、"そういう"事か。旦那の言う"デート"の意味を理解し、俺は旦那に負けない位顔を歪ませて、嗤った。

「――勿論、悦んで」






















あの後、何時迄経っても来ない俺達に痺れを切らした万斎さんが部屋を訪れて、常よりも少し遅めの朝食を摂った。姐さんが厭に良い笑顔をして居るのが気になるが、今は其れ所ではない。旦那との"デート"の予定を立てなければ。
嗚於、何だか愉しくなってきた。綻んでしまいそうになる顔を必死に隠そうと奮闘して居ると、向かいの旦那と目が合った。嗚於、旦那も愉しそう。そうだ、此の着流しの御礼に何か差し上げるのも良いかも識れない。折角のデートなんだから。何にしようか。旦那が喜んでくれるもの。喜んで――嗚於、そうだ、良い物が在った。うん、きっとあれなら。

我ながら良い案だ。俺は満足して、其の情景を思い浮かべながら、茶碗に残っていた白米をかき込んだ。



















――将軍の首を旦那に差し出す情景を、浮かべながら。








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な ん だ こ れ
此処迄一気に書いて、我に返った
只ちびそうごが出会ったのが近藤さんじゃなくて高杉だったらって云う話が書きたかっただけなんだけど…何処で狂ったんだ?
当初と全然違う話になった上に色々可笑しいけどいいや、直さない←
久々に書いたから文章が酷い…リハビリしなくては

久々更新がこんなので実にすみません







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