「あー……ひま、ひま、暇でさァ。あんた、なんか面白い事やって下せェよ」

「あ? 勝手に押し掛けてきやがった癖に、随分とデケェ態度だなァ、テメェは」


俺が今居るのは高杉の自宅だ。
店は今月最後の休み。
本来ならば、今頃は旦那と部屋でしっぽりまったり……もしくは、仲良く買い物にでも出ていたかもしれないのに。


「……だって旦那いねェんだもん」

「グチグチ言うなら、テメェも付いて行きゃ良かったじゃねぇか」


旦那は急な呼び出しで、散々文句を言いながらも慌てて出掛けてしまった。
いつかの料理教室。
一度きりの約束だったはずなのに、お登勢とかいうそこの理事長に何やら弱みを握られているらしく、どうにも断りきれないみたいだ。

高杉の言う通り、一緒に付いて行っても良かった。前回は付いて行ったんだ。
でも。


「若い姉ちゃんやらおばちゃん連中が、菓子作りにかこつけて、やたらと旦那にくっつきたがるんでィ。見てて腹立つから行きたくねェ」

「ククッ……単なる嫉妬じゃねーか」

「うるせェ!」


だって実際、物凄いのだ。
教室中にハートが飛び交っている、と言っても過言じゃないくらいに。
旦那は、始終顔を引きつらせながらも仕事と割り切っているようだけど、俺は色々耐えきれずに離脱してしまったほど。
ある意味修羅場だ、あれは。

今日もまた、あの惨劇が繰り広げられているのかと思うと、溜め息と愚痴しか出てこない。


「ったく……こっち来い」

「はぁ……」


おもむろに立ち上がりキッチンに向かった高杉。
何度も溜め息を吐きつつ、少し間をおいてふらふらと後を追う。

嗅ぎ慣れた芳ばしいコーヒーの香りが漂う小綺麗なキッチンは、モノトーンで統一されていてなんとも高杉らしい。


「オラ、よく見てろ。言っとくが特別サービスだぜ?」

「へ? あ、うわぁ……」


カップに注がれたエスプレッソの上、ミルクの入った水差しを静かに操り絵柄を描いていく。
そして水差しとカップを置くと、今度は竹串で引っ掻くように小さな模様をひとつ。


「……クリスマスツリーだ! すげェや!」

「だろ?」


得意気に答えて煙草を咥えた高杉は、それに火を点けて吸い込むと、横を向いて煙を吐き出しながらラテアートの説明をしてくれた。

モミの木を描いたのはフリープアと呼ばれる手法で、一般的にラテアートといえばこれの事を指すらしい。
それから、小さな星を描いたのはエッチングという手法だそうで、通常は泡の多いカプチーノやカフェラテに施すんだとか。


「じゃあ、前にやってくれた時のはエッチングってやつですかィ?」

「だな。 まぁどっちにしろ、俺ならなんでも描けるっつう事に違いはねェよ」


そう言って、口端を片方だけ上げて厭味ったらしく笑う高杉を見ると、素直に感心してしまったのが馬鹿らしく思えてしまう。
でも実際、そこそこ凄い人なのは解ってるし、客にも人気あるし、旦那ほどじゃないけどカッコいいとも思うし、意外と優しかったりもする。


「へぇー、そりゃまた大した自信で」

「あたりめーだ、俺だからなァ」

「とんでもねぇ俺様だねィ、あんた」

「まぁな。否定はしねぇ」


その断言っぷりに、思わず吹き出して笑ってしまうと、なぜだか不意に頭を撫でられた。
グシャグシャと掻き混ぜるような乱暴なものだったけど、思いの外気持ちが良くて、されるがままに撫でられていると。


「……猫、だな。マジで」

「はぁぁ!?」

「もし銀時んとこ追い出されたら、猫耳つけて俺んとこ来い。そうすりゃ飼ってやらねー事もねぇ」

「……」


――前言撤回。

こいつは、ただの変態かもしれない。

そう考えを改めた、ある日の昼下がりだった。



20091214




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銀沖サイトさまにも関わらず高沖を書いて下さいました…!
ほのぼの癒されます〜
素敵過ぎる小説をありがとうございました^^







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