*双子



「…晋、」

控えめなノックと共に耳に届いたか細い声。その主が誰かなど、詮索するのは愚問だ。小さく笑って入る様促せば、躊躇いがちに開いたドアの隙間からひょっこりと顔を覗かせる、そいつ。下がった眉に、不安を孕んで揺れる、俺と真逆の大きな瞳に、どうしようもなく庇護欲を掻き立てられる。そしてそれは、こいつが血を分けた兄弟だからとか、そんな至極当然な思考から掛け離れたところから来る感情だと云う事は、疾うに理解していた。

未だ入室する事もせずにドアから此方を伺い見るだけのそいつに苦笑を零しながら手招きをすれば、怖ず怖ずと足を踏み入れて、ゆっくりと近付いて来る。そうして目前迄来ると、勢い良く抱き着いて来た。――否、"飛び付いて"来た。急な事で構えていなかった為に、バランスを崩してそいつ諸共後ろへと倒れ込む。その拍子にベッドの端に頭を思い切り打ち付けたのは、まあ致し方無い。

「…痛っ、」
「ごめ、大丈夫?」

慌てふためいて体躯を離そうとするそいつを大丈夫だと引き止めて、腰に手を回してしっかりと固定する。
一拍置いてほんのりと朱く染まった頬に口吻けを落としてやると、更に赤く染まるそれ。可愛い。

「…っ、晋っ!」

あんまり可愛いものだから、悪戯心とやらが起動して青い縞模様の寝巻(どうでもいいが俺と色違いだったりする。因みに色は赤だ。)の中に手を突っ込んだ。ら、矢張りと云うか、案の定睨まれた。微塵も怖くは無いが。

「ん?」
「ん? じゃ、なくて…! 手、抜きなせェっ」
「そいつァ無理な相談だなァ」
「ちょ、晋助っ」

にやりと笑って見せれば、顔を真っ赤にして反抗して来る。焦った様に、照れた様に、困った様に。でも、その中に決して嫌悪や拒絶の色が無い事はよく識っていた。だからこそ、愛おしい。可愛くて可愛くて仕様が無いのだ。

白い項にそっと唇を寄せて、その細い体躯を閉じ込める様に抱き絞める。腕の中で、そいつが身じろいだのが解った。

「…晋?」
「視たんだろ」
「…、」
「例の夢」

返事に代わり首に回された腕に力が込もる。きつく回されたそれは、何よりの肯定の証。黙って肩に顔を寄せるそいつの髪を梳く様に撫でてやると、そいつは小さく息を零した。

「…御前は御前だろう」
「…うん、」

どんな内容かは知らない。しかし、恐怖している事は解る。不安で仕方ない事も解る。それを拭い取ってやらなければならない事も、支えになってやらなければならない事も解っている。
こいつは俺の唯一で、俺はこいつの唯一だから。

「夢なんてもんに振り回される必要はねェ。今御前が居るのは此処だろう」
「…、うん」
「だからんな顔すんな。可愛い面が台無しじゃねェか」
「…しん…っ」

ぽんぽんと背中を摩ってやれば、小さな嗚咽が洩れる。こいつは声を出して泣く事を嫌うから、きっと必死に我慢しているんだろう。
そんなところも堪らなく可愛いのだけれど、その愛らしい唇に傷が付いてしまうのは頂けない。

「…総」

名前を呼んで顔を上げさせれば、予想通り唇を噛み締めて声を押し殺しているそいつの濡れた瞳と視線が絡む。ゆっくりと顔を近付ければ、察しが付いたらしい。瞼を下ろして、上げた顔を更にもう少しだけ上に向けた。どうやら俺への配慮らしい。つくづく可愛い奴だ。ぷくりとした形の良いそれを一舐めしてから、そっと己のものを重ねる。長い睫毛が微かに震えるのを見詰めながら、柔らかなそれを堪能する事数秒。遠慮がちに込められた腕の力を合図に、更に深く口吻ける。角度を変えながら、舌を絡めながら。それこそ、呼吸すらも許さぬ様に。

「…ん、」

仕上げとばかりに今一度唇を舐め上げて、名残惜しくもそれを離す。繋がる銀糸が空気に溶ける様に切れて逝くのを哀切に感じながら見詰めていると、小さく名前を呼ばれた。そちらに顔を向けると、真っ直ぐに此方を見据えた総が居て。

「…ありがとねィ」
「あァ、キスか?」
「違っ、っの馬鹿晋!」

にこりと笑いながら感謝の言葉を口にするそいつは可愛いと云うよりは、綺麗で。思わず見惚れてしまった自分が悔しかったものだから、つい皮肉ってしまった。そんな大人げ無い自分に、心中で苦笑を漏らす。

「違うのか?」
「……っ、ちが、くない…けどっ、俺が言ってるのは、その…、励ましてくれて、の方っ」

真っ赤になりながらも懸命に言葉を紡ぐ姿は本当に可愛くて。解ってる、言いながら頭を撫でれば文句を言いつつも身を委ねて来る。嗚、可愛い。
暫くの間そうしていると、徐に総が口を開いた。何を言いたいかなんて、聞かなくても解るけどな。

「……晋、あの、」
「ほら」
「…いいの?」
「ああ」

許可を出せば途端に嬉しそうな顔で笑う。俺は、実はこれに弱い。だからつい何時も甘やかしてしまう。でも、仕方ないだろう?何たってこいつの笑顔は爆弾なのだから。俺の心臓限定の話だけれど。

一人用のベッドに二人は些かきついが、毎回の事なので寧ろ此方の方がしっくりくる。風邪を引かぬ様掛け布団をしっかり掛けてやってから、消灯。向かい合わせに横になった為、暗くなった視界の中でもその顔ははっきりと見える。月明かりに照らされた仄白い肌が酷く煽情的で、艶かしい。
呆と眺めていると、不意にぱちりと瞼が開き、目と目が合う。狸寝入りしていた事は解っていたので、大して驚きもせずにどうした、とだけ尋ねる。恥ずかしそうに言いにくそうに視線をさ迷わせている総を見て、嗚、内心納得する。抱き絞めて欲しいのか。

「総」
「…なに、」
「おいで」
「…! うんっ」

嗚、ほら矢張り。俺は、この笑顔に弱い。顔を綻ばせながら抱き着いて来る総の背中に手を回しながら、そう確信する。

「…晋、」
「なんだ」
「何で、俺の言いたい事解るんでィ」
「…何で、って言われてもな……あァ、」
「……あ、」






















「「双子だからだ」」
























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ごめんなさい双子ネタが書きたかったんだ
なんか昔のネタ帳見てたら書きたくなって…すいません
晋、総って呼ばせたかっただけなのがバレバレだよヤマイさん
そして相変わらず前世ネタが好きなヤマイです
夢=そーちゃんの前世とでも思って頂ければ
それにしてもこの高杉、可愛いを連発し過ぎである
とんだブラコンだ笑







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