俺は、その全てが厭で厭で仕方ない。



例えば、声。名前を呼ぶ、愛を紡ぐ、その優しい声が嫌い。喉を引き裂いてしまいたい程に。
例えば、掌。頭を撫でる、髪を梳く、その大きな掌が嫌い。指を切り落としてしまいたい程に。
例えば、腕。抱き寄せる、身を包む、その力強い腕が嫌い。捩曲げて歪めてしまいたい程に。
一番嫌いなのは、目。濃緑の綺麗な切れ長の、隻眼。見詰められると吐き気がする。刔り取って、食べてしまえたらどんなにいいだろう。透明な硝子匣に仕舞って飾るのも良いかも識れない。
だけど、あの人は好き。大切、愛してる、大好き。そんな陳腐な言葉なんかじゃ表せない位、俺にとってあの人は特別。でもだからこそ、

「…総悟?」

どうした、顔を覗き込んでくるあの人の目を見ないように視線を逸らす。見たくない、から。何でもないでさ、笑ってみてもあの人の視線は尚も俺に向けられたままで、早く顔を退けてくれないかな、そんなことを思いながら遣り過ごす。

「…何か有ったのか」
「何も?」

すまし顔で答えれば、ならどうしてと目線が問い掛けてくる。どうして、なんて。解らない貴方が解らない。でもきっと、貴方は一生解らないのでしょうね。明確に解る事柄がそれだけなんて、嗚何て可笑しい。仮にも「恋人」だと云うのに。…否、其も仮初の事。所詮は何て事はない、只の御遊戯なのだから。

「…ね、晋助」

本当は厭で仕方ないのだけれど、彼に向き直ってきちんと視線を交差させる。眉を寄せた顰面が少し驚いた様に瞠目するのを、何処か冷めた瞳で見詰める。嗚、矢張り嫌いだ。

「俺のこと、ちゃんと好き?」

当たり前だろ、即答した彼を殺してやりたくなった。当たり前、何が。何が当たり前なの。そんな言葉、信じられるとでも?

「……嘘」
「嘘吐いてどうすんだ」

呆れた様に吐かれた言葉に多大な不快感。嘘、嘘、嘘ばっかり。俺の事なんか、好きじゃないくせに。

「…俺は、総悟が好きだ」
「本当に?」
「ああ」

嘘。

「本当に、俺が好き?」
「ああ」

嘘、嘘。
俺なんて、見えていないくせに。見てもいないくせに。解る。解るんだよ。貴方の目に俺が映っていない事位。貴方が俺を通して別の誰かを見ている事位。俺は貴方が好きだから、解るんだよその位。貴方が俺を好きじゃない事位。だって、貴方が好きなのは、本当に愛してるのは、

「…、嘘」












俺じゃない、「俺」でしょう?












俺は、その全てが厭で厭で仕方ない。
例えば、声。名前を呼ぶ、愛を紡ぐ、その優しい声が嫌い。喉を引き裂いてしまいたい程に。
例えば、掌。頭を撫でる、髪を梳く、その大きな掌が嫌い。指を切り落としてしまいたい程に。
例えば、腕。抱き寄せる、身を包む、その力強い腕が嫌い。捩曲げて歪めてしまいたい程に。
一番嫌いなのは、目。濃緑の綺麗な切れ長の、隻眼。見詰められると吐き気がする。刔り取って、食べてしまえたらどんなにいいだろう。透明な硝子匣に仕舞って飾るのも良いかも識れない。
だけど、あの人は好き。大切、愛してる、大好き。そんな陳腐な言葉なんかじゃ表せない位、俺にとってあの人は特別。でもだからこそ、俺ではなく俺越しの「俺」に向けられる優しいあの声が、あの掌が、あの腕が、あの、目が、











――大嫌い。



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詰まりは、高杉は前世の記憶が在るけど総悟は無いよってお話
補足しないと解らない罠^^







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