当時の僕は刀一筋で、刀以外の事を何一つ知らなかった。
僕にとって刀は魂であり、命と同等の価値がある。刀を手放すことなど考えたことも無かった。
毎日道場再建のために、そして生活の為にアルバイトに明け暮れていた。
いつかまた、刀を握れるようにと願って。
銀さんと神楽ちゃんと会って、余計にその思いが膨らんでいった。そして、もっと強くなりたいとも思うようになった。
それが、"当時の僕"
だけど、"今の僕"はどうだろう・・・
気づけば毎日家事をして、たまにある依頼も大したお金にはならなくて。道場再建を目指すとは言いながら、刀は上達せず、強くもなれず・・・。
僕は何をしてるんだろうと思うようになってしまった。
そう思ってしまったが最後。
家事をやることも、依頼をこなすことも、道場再建という目的も、万事屋に居ることにさえ疑問を抱くようになっていった。
「僕は・・・少しでも前に進んでるんでしょうか・・・」
弱音を吐いた僕に、銀さんはこう言った。
「お前が頑張ってること、俺は知ってる」
だから、お前はそのままで良い。
鼻をズビズビ鳴らして、着物の袖口を濡らして肩を震わせた。見兼ねた銀さんが近寄ってきて撫でてくれた、僕の頭。
幼子をあやす様な優しい手つきは、僕を闇から解放してくれた。
誰かに認めてほしかったわけじゃない。
でも
誰かに見ていてほしかった。
プレッシャーと闘っている僕を、そっと見守ってほしかったんだ。
僕は今日ほど銀さんと会えたことに、感謝した事はない。
end...