と安堵


その日は風もなく、日が沈みかけているというのにジメっとした暑さだった。

万事屋へ帰る途中、聞こえた音。

赤い車が、大音量でサイレンを鳴らしながら赤信号で足止めを食らう俺の前を何台も横切る。それが、今帰ろうとしている万事屋の方へ向かっていったから、俺はなんだか不安に駆られた。

まるで赤い車を追いかけるように俺は万事屋へ、スクーターを走らせた。


もし、赤い車の行先が万事屋であるならば、カーナビと化したブルー霊子の『コタツとの距離』を無視した俺の責任である。いや、この場合ガスコンロか何かか。

兎にも角にも、俺の気持ちと同調するように、アクセルを踏む力は強まった。










俺は野次馬が群がっているところから少し離れた場所に急いでスクーターを止めた。転がるように降りた俺の足に引っ掛かり、大きな音を立ててスクーターが倒れこんだが、そんなもの直してる暇も余裕もなくて、野次馬の中に飛び込んだ。

防護服を着た人達が出入りしているのは、万事屋ではない。

細かく言えば、『万事屋から何軒か離れた建物』だった。どうやら火が上がったわけではなく、ぼやだったらしい。誰も怪我をせず、みんな無事だったようだ。


俺は、跳ね上る心臓のせいで乱れた呼吸の中、安堵のため息をつかずにいられなかった。


「はぁ・・・はぁ・・・っ」

「あ!銀ちゃん!!」

「銀さん!!」

「!っ、お前ら・・・?!」


駆け寄ってきた2人に俺も駆け寄り、驚きのあまり神楽の肩を結構な力で掴んだ。


「神楽おまえっどうした?!真っ黒じゃねぇか?!」

「あの建物の中に入って、消防のおっさんの手助けしてきたアル!」

「銀さんすみませんっ、僕止めたんですけど神楽ちゃんの方が力、強くてっ」

顔と衣類についている黒い煤(すす)。それは神楽が建物の中で奮闘した証拠だった。

「っ」

「わっ?!い、んぐっんー!!痛いアル!!」

「うるせー!!動くなこの馬鹿楽!!」

「ばかぐらって何アルかっ?!やめろヨー!!顔が変形するアル!!」

「ちょっ、銀さん!袖が!えっとー、ハンカチどこだっけっ」

新八がハンカチを見つけるまで待てず、袖口で神楽の顔についた煤を拭った。俺の着物の袖が汚れようが、そんなことかまってなどいられなかった。

「うわっ?!」
「なんっ?!」

無事なのを確認したくて、ここにいることを確かめたくて両腕を伸ばし、2人を掻き抱いた。


「ぎ・・・ん、さん・・・?」
「・・・銀ちゃん・・・・・・?」

「・・・っ」

2人の声は聞こえていたけど、頭の中を巡る風景は・・・燃えている松下村塾。

大事な人も、大事な居場所もなくしてしまったあの日が、また来てしまったかと焦った。

煤けた神楽の顔がやけにリアルで、人を助けに建物に入ったという神楽を本来ならば褒めてやるべきなのに、罵倒してしまった。


ただ・・・こいつらのことが心配だっただけなのに。


「銀さん・・・、」

「銀ちゃんっ」

「!」

名前を呼ばれた直後、背中に、2人の腕を感じた。

きゅっ、と着物の腰のあたりを掴まれ、ぴったりくっついてきた温もり。

こいつらは、俺の気持ちに気づいてくれた。それを何も言わずに受け止めてくれた。


ガキのくせにと思いながら、もう一度強く抱きしめた。











「(・・・やべ、勢い余ってこんな感じになったけど、こっからどうすれば・・・・・・)」


その悩みが、もはや幸せ。





end...




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