父の日
「新八ぃー」
「なに?神楽ちゃん、」
スーパーで買った物を袋に詰めている時だった。神楽がカゴから数箱、酢コンブを抜き取りながら新八に声をかける。
「新八のパピーってどんな人だったアルか?」
「僕の?」
「うん」
唐突だなとそう思った新八だったが、ふとスーパーの壁に『父の日フェア』と書かれているのに気づく。これを見て、質問の意図を理解した。
「・・・酷い人だったよ」
「酷い・・・?」
「ろくな思い出がないかな。世間一般の父親とは、かけ離れてたよ。今だって、道場のことで姉上を苦しめてるぐらいだし」
「・・・でも、姉御は守りたい物守ってるだけアル。それでも苦しかったら、万事屋に駆け込むように言ってあるネ。もう柳生の時みたいにはならないヨ」
「ははっ。確かにね」
袋の中の食材の位置を調整しながら、銀時に頼まれた苺牛乳を詰めた。
「坊主さんはどんなお父さんなの?」
「ハゲてるアル」
「いや、それは知って・・・じゃなかった。優しかったとかそういう意味でさ」
「パピー、いつも居なかったからわからないけど・・・でも、いつも帰ってきてくれたアル」
「うん」
「これって良いパピーアルか?」
「・・・そうだね。良いお父さんだよ」
欲のない神楽の言う父親像は、一般的に当たり前のことだったかもしれない。だが幸せそうに話す神楽を、新八は否定などしなかった。父親の良い悪いは、人それぞれなのだから。
「父の日ってね、いつも言えないことをお父さんに伝えるチャンスだよ?」
「ハゲに言うことなんてないネ」
「まぁまぁ、そう言わないでさ。荷物置いてから、これから何か買いに行こうよ」
「・・・喜んでくれるかな?」
「うん!絶対ね!」
「・・・じゃあ・・・買いに行くアル!」
酢コンブしか持っていない神楽は、一目散に出口へと駆けて行った。ほぼ全ての荷物を持たされている新八も、神楽に急かされながら出口を目指していく。
「ちょっと、神楽ちゃんも少しは持ってよ」
「酢コンブ以外持ったら、私頭パーンってなるネ」
「ならねぇよ!!」
◆
「ただいまー」
「ただいまヨー」
「おー」
「銀さん、ちょっと僕ら出掛けてきますー」
「あぁ?」
家に上がってきたと思えば何故か、せわしない様子の2人。テレビから廊下に目を向けると、台所に2人が居るのがわかった。
銀時はトイレに行くついでにと、重い腰を上げる。
「神楽ちゃん、このチラシに代表的な父の日のプレゼント載ってるから、見ておきなよ」
「うん。・・・着物帯、パピーは着物着ないアル。あとはー…お酒?これは高くて買えないネ」
「よし、買ったもの冷蔵庫に全部しまったよ。神楽ちゃん行こう!」
「2人してどこ行くんだよ?」
「あ、銀ちゃん」
台所の出入り口に寄りかかり、銀時は頭をボリボリと掻いていた。
「あ、僕らは・・・!」
「・・・?なに?」
「今から新八と父「ちっち違う違う!!ちっちょっと牛乳買い忘れて!!」」
「は?牛乳?」
神楽の言葉を遮った新八は、なにやら慌てている。新八が神楽を引き寄せると銀時に背を向け、こそこそと話始めた。
「わかった?」
「くふふっ。わかったアル!」
「おい、銀さんは仲間外れですか。何で神楽はニヤけてンんだよ」
「良いから良いから。ちょっと僕ら出掛けてきますね」
銀時の横を子ども達が通っていく。秘密にされ、腑に落ちなかったものの、こんな楽しそうな2人を見ては何も言えない。
「俺も、もうすぐ出掛けるから、鍵持ってけ。何があっても自力で開けんなよ?特に神楽」
「失礼ネ。そんなことしないアル。したことないネ」
「一昨日壊したのはどこのどいつだコラ」
靴を履き終え、いってきますの声と共に、2人は万事屋を後にした。
「・・・嬉しそうな顔して・・・・・・」
玄関に鍵を掛けると、銀時はトイレに入っていった。
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