今日だけは、素直に・・・。





スマス2







「みんなちゃんとプレゼント買ってきた?」

「もちろんヨ!ありがたく受け取るネ!」

「お前らケチってねぇだろーな?」

「銀ちゃんこそケチってたら承知しないアル」


先日、新八が提案してきたプレゼント交換。食事をする前にどうしてもやりたいと彼らが騒ぐので、ご馳走はそのままにラッピングされたプレゼントをそれぞれ取り出した。


「どうやって交換すんの?」

「本当は曲に合わせてプレゼント回したかったんですけど、なんか寂しいしすぐに誰のかわかっちゃうし、あみだくじ作ってみたんですけど、これでも良いですか?」

「定番だけど賛成アル」

「なんでもいいから始めようぜ。おれ腹減った」


新八の手作りあみだくじはかなり複雑に作られていた。3つあるうちの、どの場所を誰から選択するか、じゃんけんをして決めることになった。


「いくぞー」

「おうヨ!」

「「「じゃーんけーんぽん!」」」


その結果、神楽・新八・俺の順番になった。長考した末に神楽が右端、新八が左端、必然的に俺が真ん中となった。


「じゃあ開けるよ?」

「うん」


新八が紙を折って隠していた誰からのプレゼントか書かれている欄を見せた。


「私はー・・・えーっとー・・・あ!銀ちゃんのアル!」

「僕はー・・・僕は神楽ちゃんのだ!」

「すると俺は新八のだな」


あみだくじをやらなくても残りは俺のだと分かったが、それがいけなかったらしく神楽から「もっと楽しめヨ空気読めないアルな」と冷たく言われた。


「きゃっほぉぉい!!お菓子詰め合わせアルぅぅ!!!」

「わぁ!すごいあったかそうな手袋!神楽ちゃんセンス良いね、ありがとう!」

「あたり前ヨ!私が選らんモグモグ・・・」

「もう菓子食ってんのかよ!飯もまだだろーが!」


神楽は、すでにマシュマロやクッキーなどの袋をいくつも開けて食べ始めていた。新八にあたっても神楽にあたっても良いものをと思って買ったお菓子詰め合わせだが、なんとなく神楽が当てる気がしたので、まさにそれが的中した。


「俺のは新八からだったな」

「はい!銀さん開けてみてくださいよ」

「あぁ。・・・お、手ぬぐいか」

「そうです!お店の人にプレゼント交換の話をしたら、1枚700円なのに2枚で1000円にしてくれたんですよ」

「すげーなそれ。しかも俺この柄好きだわ」

「青海波っていう柄と、雪華文っていう柄です。青海波は魔よけの意味があって、雪華紋は雪の結晶を文様化した柄だそうです」


水色の波がたくさん描かれている青海波と、黒地に白い雪の結晶が描かれた雪華文。どちらも使いやすそうで、柄も好みだった。


「ありがとな」

「いえ、気に入っていただけてよかったです!」

「銀ちゃん!お菓子ありがとう!このマシュマロとっても美味しいアル!あげないけどな!とるなヨ?!」

「誰も取らねぇよ!もういいから早くしまえ、飯食うぞ。冷めちまう」


貰ったてぬぐいを自分の横に置き、すでに取り分けられたケーキの生クリームを乾杯も待たずに指ですくって舐めた。やっぱり自分で作ったいちごのショートケーキは最高だと心底思った。


「ちょっと銀さん、まだ乾杯もしてないですよ?」

「良いんだよ今日は無礼講なんだから」

「ウチはいつでも無礼講アル」

「文句は食ってから言えって。こんなうまいケーキならフライングしちまうから。スタートラインなんかに立てねぇから」

「自分で作ったケーキをそこまで褒められる人も珍しいですよね」


苦笑した新八がいちご牛乳を俺に、オレンジジュースを神楽に渡して、リンゴジュースの入ったグラスを持ち、「改めまして、かんぱーい!」と声を上げた。メリークリスマス!と言うのは恥ずかしかったんだろう。

続いて神楽と俺もグラスを鳴らし、ひと口ふた口ほど飲んでから箸を持った。


「このチキン美味しいアルぅ・・・」

「あははっ。そんなに喜んでもらえると作った甲斐があるよ」

「嬉しそうな顔してんなーお前」


神楽は少し照れたように笑って、それを隠すようにコーンスープを口に流し込んだ。それもかなり豪快に。


「そうだ、今日新八泊まってくんだろ?」

「はい。姉上も九兵衛さんのところでパーティーやるって言ってたんで」

「なんだよ、それなら俺らも行けばよかったな。今の倍のご馳走が食えたかもしれねぇよ」

「あ、まぁ・・・そうですよね。・・・じゃあ、来年は一緒にやりましょうか」


俺の悪態に「お前はケーキ作っただけだろーが!!」と言い返してくるだろうと思った読みは外れ、何かを言いかけた新八は言葉を飲み込んだ。


「別に、今年も来年も・・・あいつらと一緒にやらなくたっていいけどよ」


ちょっと気を使った俺の言葉に、新八は何もかもお見通しとでもいうように「わかりました」と笑った。


「姉御たちのパーティーに行かないって、私が新八に頼んだアル」

「お前が?」

「うん」

「なんで」

「銀ちゃんの作ったケーキ食べてみたかったアル」

「!」


突如、神楽がショートケーキの上に乗っているいちごをフォークで、ぶすぶす刺しながら普段と変わらない声で話した。


「いっつも銀ちゃん自慢してくるから、そんなに美味しいなら食べてみたいって思ってたし。姉御と一緒にパーティーして、銀ちゃんがケーキ作って持って行ったら私の取り分が少なくなるネ。それだけは阻止しなければならなかったアル」

「実は、そうなんですよ。だから姉上には今年は3人でやるからって伝えておいたんです」

「・・・ふぅん。ケーキ如きにとは言わねぇけどよ、まぁ・・・材料費があれば作ってやらねぇこともねぇ。いつでもってわけじゃねぇけど」

「本当アルか?!」

「その代わり残したらぶっ飛ばすぞ」

「誰が残すもんか!ケーキのフィルムごと食べてやるネ」

「いや神楽ちゃん、フィルムはちゃんと剥がさないと;」


取り分けられたショートケーキを口いっぱいに頬張った神楽がおかわりを催促してくる。ケーキ担当の俺が1つめよりもちょっと大きく切り分けたものを、奴の皿に乗せて渡してやった。












深夜3時。襖の前で眠っている定春を起こさないように、神楽の眠る押入れの襖を開けた。壁にかけてある『ピン子』がひっくり返っていたほどに今日は寝相が悪かった。

欲しいものはないと言っていた神楽だったが、俺は奴がボソッとつぶやいた物の名前を聞き逃しはしなかった。

枕元にキレイにラッピングされた『折り畳み傘』を置いてやる。以前傘を欲しがっていたことはあったが、今度は折り畳みに心を奪われたらしい。俺にはガキの考えることはまるでわからなかった。

そっと襖を閉めて起きなかったことに安堵したのもつかの間、定春が鼻を鳴らしながら俺をみていた。


「くぅーん」

「うぉ?!シっ。・・・んだよ、起きちまったのか」

「わん」

「良い子だから静かにな。・・・ほらよ」


少し眠たそうな定春の頭を撫でて、リボンが巻かれたビーフジャーキーを床に置いてやった。それに気づいた定春が頬を俺の腿にすり寄せて、大事そうにビーフジャーキーを自分の前足で抱えて、床に伏せた。

すぐに食べてしまわないかと心配だったが、どうやら眠気の方が勝ったらしい。静かに寝息を立て始めた白いもふもふを、もう1回撫でて最後の1人にプレゼントを渡すために、自分の寝室に戻った。

「・・・・・・」

神楽とは違い、きちんと布団に入り規則正しい寝息を立て、枕元には眼鏡と明日着る服が畳んで置いてあった。新八らしいといえば新八らしい。

そろりそろりと枕元に忍び寄り、そっとプレゼントを置く。新八が欲しがっていたのは寺門お通のCD・・・ではなく、お弁当箱だった。

仕事で少し遠くに行くときに、毎回言っていたのが「お弁当箱があればもう少し良いもの作って持って来れるんですけどね」だった。ラップに包んだおにぎりだけでは物足りないだろうと、いつも神楽や俺のことを気にしていた。

少し大きめの弁当箱を2つ店でラッピングしてもらい、それを新八の枕元に置いた。


「うーん・・・?」

「!」


突如声を発した新八に気づかれないよう、自分でも驚くような速さで隣に敷いてある布団に滑り込んだ。彼はただ寝返りをうっただけだったようで、無駄に心臓をドキドキさせられた。


「(今年も無事に済んだな・・・)」


布団を深くかぶりなおしながら、無事サンタを終えられたことにホッとした。

夢や幻想を語るには歳を重ねすぎた分、俺にはサンタを信じられなくなったが、こいつらに与えられるものがあるなら・・・と思い、やり始めたサンタ役。

心地よいまどろみの中で、あと何回やれるのだろうと思いながら、明日起きた時の彼らを想像し、喜んでくれるかと、ほんの少し期待に胸を膨らませた・・・。















「銀ちゃん!起きてヨ!サンタ来たアル!」

「ん゛ー・・・・・・」

「銀ちゃんのところにもサンタ来てるアル!」

「ん゛ー・・・・・・ん?」


肌を刺すような寒さを布団から唯一出ている顔で感じた朝だった。まだパジャマ姿の神楽の不可解な言葉に「いや、サンタ俺だから」と危うく口を滑らすところだ。

「これこれ!」

「・・・・・・!」


まだ視点の定まらない寝ぼけた目で枕元を見ると、赤いラッピング袋のものが置かれていた。

「え、嘘なんで?いやだって俺、・・・待て待て待て」

回転しない頭で考えても何も答えが出ない。一方神楽はサンタからだと言ってはしゃいでいる。事の重大さを奴はわかっていなかった。

「え、空き巣?」

「サンタに決まってるネ」

「だってサンタってお前・・・俺もう大人なんだけど。プレゼント貰う歳じゃねぇんだけど。っていや、そうじゃなくてだな」

「サンタに間違いないアル。私パピーに手紙出したヨ」

「手紙?」

「銀ちゃんこの前『あー風呂桶が壊れた。新しいの買う金ねぇー』って言ってたアル。だからパピーに、サンタさんに風呂桶銀ちゃんにあげてほしいって書いたアル」

「まじでか」

「まじヨ」

「じゃあコレ・・・」

正真正銘の、クリスマスプレゼント・・・?


固まる俺をよそに、居間にいた新八がいつものように部屋の襖を開けて「あぁ、銀さん起きたんですね」なんて言うもんだから現実味が増した。


「銀さんよかったですね。初めてサンタクロースから贈り物もらえて」

「何、・・・なに馬鹿言ってんだよ。ガキじゃあるめぇし」

「いいから開けてみてくださいよ」


新八と神楽の言われるがままラッピングのリボンをほどくと、シンプルで使いやすそうな、風呂桶が出てきた。


「前使ってたやつと似てますね。銀さん壊れたやつ気に入ってたから、よかったじゃないですか」

「あ、あぁ・・・」

「銀ちゃん!私は赤色の折り畳み傘貰ったアル!欲しかったこと忘れてたけど嬉しいネ!」

「忘れてたのかよ」

「僕はお弁当箱もらいました。これで大きな仕事も、遠くの町の依頼の時もちゃんとしたお弁当作って持っていけますよ!」

「・・・よかったな」


未だにクリスマスプレゼントをもらったことが信じられないが、手の中にある風呂桶は間違いなく昨日の夜には枕元になかったものだった。

始めてもらったクリスマスプレゼント。嬉しくないといえば、嘘になる。


「銀さん今日のお風呂楽しみですねー」

「私も早く雨降ってこの傘使いたいアル!」

「僕も、このお弁当箱はやく使いたいなぁ」


「・・・あぁ。楽しみだな」



こいつらがあまりにも嬉しそうに話すから、ここは素直に、赤い服のおっさんからもらった幸せを喜ぶことにした。

神楽に手紙を書かれたとはいえ、あのハゲがよく俺へのクリスマスプレゼントを頼んだな、と不思議に思いながら・・・。



end...




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