また、この季節がやってきた。







スマス








『はーい!私は今江戸でカップルに大人気のデートスポット、もみの木広場に来ています!ご覧ください!この綺麗なイルミネーション!』

「あ、ここ・・・」

夕飯の支度を終え、明日の天気予報をみようと新八がつけたテレビから女子アナの甲高い声が鼓膜に響く。取材現場であるもみの木広場は新八が知っているところだったらしく、「今カップルに大人気なんですよ!クリスマスデートならここって!」と、テレビを指差しながらほぼ女子アナと同じ内容を俺に話した。

「でもすごい混んでるなぁ」

「安心するネ。お前が行く予定はこれっぽっちもないアル」

「う、うるさいな!!」

「こんなののどこが良いんだか。俺には木に豆電球がついてるようにしかみえねぇよ」

「そういうこと言う男って絶対彼女いないネ。そしてこれからもいないアル」

「ふざけんな!なに不吉な予言してくれてんだよ!」

そうやって毒ばっか吐いてる女にも貰い手はつかねぇよと言えば、「なにも聞こえないアル」と明らかに聞こえていた奴が言うタイミングで反論をしてきた。

「別に彼氏・彼女と行かなくったっていいじゃないですか。イルミネーションは万人に楽しむ権利がありますよ!この国の変な風習がこういった事態を招いているんです」

新八はテレビのインタビューに答えている、イルミネーションを見に来たカップルをにらみつけた。

「何お前、こういうの好きだったの?」

「いや好きとか嫌いとかじゃなくてですね」

「仕方ないアル。こういう風習にしてアピールしないとクリスマス商戦に勝ち残ることはできないネ。所詮カップルはただのカモだヨ」

「そうそう。この12月1日〜25日の間にやってるイルミネーションを、10時〜22時までやってる屋台のクリスマスグッズを買って大切な人と見ると、その人とずっと一緒にいられるーとかなんとか言っておけば儲かる時期なんだからよ」

「まんまと口車に乗せられてクリスマスという日にみんなサンタの手のひらで踊らされるアル」

「ちょっと!!やめてくんない?!そういう夢も希望もないこと言うのやめてくんない?!」


慌てた新八が急いでテレビのチャンネルを、イルミネーションから2時間スペシャルのお笑い番組へと変えた。


「もう・・・じゃあ僕ご飯よそってくるのでテーブルの上片付けておいてください」

「今日の飯何?」

「おかずは鮭の塩焼きとほうれん草の胡麻和えと、かぼちゃの煮物です。あとはー・・・あ、お味噌汁と炊き込みご飯です」

「あ、ちゃんとシナシナのほうれん草使っただろうな?今日買ってきたやつは使ってねぇよな?」

「ちゃんと古い方から使ってますよ」


神楽は何度言っても賞味期限が近いものから食べるという感覚が身につかないが、その点新八はちゃんとしていた。今後も彼にこの家の家事をまかせていきたい。新八が台所方面に消えて行ったのをみて、そう思った。

決して自分でやるのは面倒だからというわけではない。


「銀ちゃん、テーブルの上片付けてヨ」

「お前の食った酢こんぶの空箱だろーが。てめぇで片付けろ」

「じゃあサンタさんにお願いするアル。おーい、片付けろヨー」

「『おーい』じゃねぇよ。サンタにそんなお願いする奴見たことも聞いたこともねぇわ」


年に1度、人類に夢を運んでいるサンタがゴミをゴミ箱に運ぶ姿なんて哀れすぎて目も当てられない。

「だってサンタにする願い事、これぐらいしかないアル」

「願いごとなの?今の」

「酢こんぶもまだあるし、昨日姉御から肉まん貰ったし、一昨日はヅラから手紙と便箋のセットもらったからパピーに手紙かけるし、もう欲しいものないアル」


なぜヅラが神楽にそんなものをあげたのか聞いてみると、ヅラが町内の福引で当てたのだが「俺は香り付きのものなど使わん」と言って、くれたのだと言う。たしかにあいつからいちごの香りのする手紙がきたらドン引きだ。


「別に無理して頼むこともねぇだろ。第一サンタなんてこの世に存在しねぇし」

「何言ってるアルか。サンタはいるアル」

「お前こそ何言ってんだよ」

「だって、この前パピーがこれ送ってきたネ」


神楽が渡してきた写真には、海坊主と肩を組む赤い服と白いひげがトレードマークの男・・・すなわちサンタがカメラに笑顔を向けていた。


「まじでか。『今年もプレゼントのお願いに来ました』って書いてあるけど・・・海坊主まじでか。キャラちがくね?」

「わざわざ自分の欲しいものサンタに直接伝えに行ってるネ。男はいつまでたっても子どもアル」

「いや自分のためじゃねぇだろ!それが本当だったら相当ヤバイおっさんだよ?ただの相当ヤバイ禿げのおっさんだよ?!」

「パピーに送る手紙に欲しいもの書いたら、ついでに私が欲しいものもサンタに伝えてくれるらしいネ。銀ちゃんの分も書いてあげようか?」

「とりあえずお前もう一回最初から手紙読め」

まさか海坊主自身も、神楽がこれほどまでに大きな勘違いをしているとは思っていないだろう。もし俺がいい歳したおっさんがサンタにプレゼントをせがみに行っているなどと思われていたら、恥ずかしくて町を出歩けない。

しかし、それはともかくこの写真はとてもよく撮れていた。


「・・・サンタクロースねぇ・・・」


こちらに向かって微笑むサンタからは、なにか不思議なものを感じた。実際、この人物が本物か偽物かどうかは知らないが、普段自分がサンタ役であるため妙な違和感を覚えた。


「銀ちゃんはサンタに何もらったことあるネ?」

「何もねぇよ」

「何も?何にも貰ってないアルか?!」

「俺ん所にサンタなんか来たことねぇもん」


一瞬、目を丸くした神楽だったがすぐに「相当悪いクソガキだったアルな」と馬鹿にした目で俺を見てきた。そこへ新八がお盆に乗せた夕食を運んできたので、ここぞとばかりに神楽が新八に今の話を簡潔に伝えた。


「へぇ。確かに銀さん悪ガキそうですもんね」

「うっせーよ。ガキの寝込み襲ってる赤いおっさんの方がよっぽど悪い輩だろーが」

「ちょっと待てぇぇ!!!何サイテーなこと言ってんすか!!今すぐサンタに謝れ!!」

「サイテーアルしばらく私に話しかけないで」

新八と神楽から「信じられない」やら「汚れた大人」などと罵られる中、夕食を食べ始めた。

食べながらふと考えてみたが、子どもの頃はサンタなどという人物が世の中に広まっていたかどうかも定かではない。俺にとってクリスマスは、今の子どもたちのように特別な日でもなんでもなかった。

クリスマスではなく、ただの12月25日だったと思う。

もしガキの頃にサンタの話を聞いていたら、それはそれでプレゼントだのご馳走だのに憧れたのかもしれないが、もういい大人だ。夢や幻想を語るには歳を重ねすぎてしまった気がする。


「そうだ!今年はパーティだけじゃなくプレゼント交換もやりましょうよ!」

「プレゼント交換!?はいはいはいはい!!私やりたいネ!!」

「ちょっ、痛っ!!神楽ちゃんなにすんのっ!?」

向かいのソファーからテーブルに身を乗り出して、右手を上げた神楽。あまりにも勢いよく手を上げてきた所為で新八の顔に張り手をくらわせた結果、眼鏡が床に落ちた。その光景に不覚にも少し笑ってしまった。

「銀ちゃんやろうヨ!いつもと違うクリスマスパーティーにしたいネ!!」

「えぇ、面倒くせぇ。誰がそのプレゼント代金払うんだよ。何が悲しくててめぇの金払ってプレゼント交換しなきゃならねんだ」

「そういうと思いましたよ。でも、そこは任せてください」

自信満々な新八が着物の合わせ目から取り出したのは3つの封筒だった。

「今まで僕たち銀さんからお給料もらったことなかったけど、なんとか生活をやりくりして一人1000円ずつお給料出せるようにしておいたんです」

新八曰く、このお金は3人で仕事したときのものをやりくりして溜めた分のようだ。たまに俺1人の仕事の時は、ほとんどパチンコと甘味で消えるから3人で働いた仕事分の給料だけはしっかりと確保していたらしい。

「これなら文句ないですよね?」

「初めてのお給料アル!!酢こんぶ買って、ふりかけ買って、アイス買ってあとは」

「おい、もうプレゼント買うこと忘れてるやつがいるんだけど。一番乗り気だった奴が光の速さで離脱したんだけど!!」


さっき酢こんぶまだあるからいらないと言っていたくせに。こんなんで大丈夫なのかと心配せざるを得なかった。


「とにかく、その1000円使ってひとつだけプレゼント買っておいてくださいね!銀さんも神楽ちゃんもなくしたり別の用途に全額使ったりしないでくださいよ?」


クリスマスまであと数日。俺は面倒だと思いながらも、白い封筒を懐にしまった。少しだけ懐が暖かく感じたのは、臨時収入のおかげだけじゃないような気がした・・・。


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