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「「・・・・・・」」



「あはははは!!!金時にヅラ!!遅いぜよ〜」

「もう全部終わったぜ?無駄足だったな」


颯爽と登場し、形勢逆転で勝利をもぎ取る。そんなことを想像していた桂、銀時の2人だったが、戦はすでに終わっていた。

傷だらけの姿で茫然と立ちすくむ彼らを見て、地面に座りながら高杉と坂本は笑った。


「なんだこの無駄な敗北感は」

「ちょっとさーほんとさー頼むよヅラー、お前の所為でなんか俺まで恥ずかしくなってきたんですけど」

「何を言うか貴様、お前が先に匂いをかぎつけたのだろう。だから俺は全速力で」

「お前こそ『こいつら・・・まだ傷が新しい』とか言ってたじゃねぇか!焦らせるようなこと言ってたじゃねぇか!!」

「馬鹿も休み休み言え。俺だけの所為にするな。『近いぜ、ヅラ』と貴様も申しただろう。ヅラじゃない桂だ!!」

「うっぜーよ!!いちいち自分にツッコミいれてるところがウザさ倍増なんだよ!!何が気を引き締めろだハゲ!!てめぇは毛根でも引き締めてろ!!」 

「貴様!!これ以上俺を愚弄するとただではおかぬぞ!!!」

「おーおー、どうなるんだやってみろやゴラ!!」

「刀を抜け銀時!!!武士たる者情け容赦せぬ!!!」

「俺の腕に勝てると思ってんのか?!あぁン゙?!」

「珍しいのぉ、ヅラが怒っちゅう」

「ガキの遊びに付き合ってる暇はねェ」


坂本部隊の隊士や鬼兵隊が2人のケンカを必死でなだめる中、坂本は平気でその様子を見て笑い、高杉はその場から立ち上がった。


「ん?どこ行くんじゃ?」

「救護班あたり」


高杉は実に曖昧な言い方をして騒がしい場から去って行った。

今回の戦は今までの戦の中でもかなり負傷者が多い戦だった。バラバラだった負傷者を全員集合させてみれば、改めて被害の甚大さを思い知る。

鬼兵隊の救護班が治療している姿をいたるところで見かけながら、高杉はある男を探していた。


「・・・おい」

「!総督・・・」


高杉が声をかけたのは、坂本部隊に襲撃を知らせるよう大役を任された男だった。彼は少し傷を負ったのか、救護班から治療を受けている最中だ。


「どうだ、調子は」

「はい、どこも異常はありません」

「そうか」

「あの、隊長・・・援護ありがとうございました」

「たいしたことしてねぇよ」

「いえ!隊長のおかげで、俺・・・ちゃんと任務を果たせました」

「あぁ。お前のおかげで鬼兵隊の存続が決まったようなものだ」

「いや、あのそんなつもりじゃ、俺は総督の指示に従っただけで!」

「謙遜することねぇだろ。てめェの手柄だ」

「総督・・・ありがとう、ございます・・・」

「次の戦までにその傷、しっかりと治しとけよ」

「はっ、はい!!」


高杉は持って生まれた才能で幾多の人を惹きつける。戦場では総督として部下をまとめ、憧れる者も多い。そんな男からのねぎらいの言葉は、鬼兵隊隊士の胸に深く刻まれた。

高杉はいくつもある治療班の横を通り過ぎ、元来た道を歩いて行った。














「あいつらまだやってんのかよ」

「あれから進歩なしじゃ」


再び坂本たちのいる場所に戻ってくれば、先ほどよりも彼らを取り巻く人が増えており、喧嘩も白熱しているらしく馬鹿でかい声が丸聞こえだった。


「ンだよ高杉!!悪いかゴラ!!!」

「男同士の喧嘩に口を挟むな!!!」

「何ムキになってんだァ?バカか」

「バカって言われてやんのーヅラ」

「貴様の事だ銀時!!」

「さっさと仕度しろ。拠点に戻るぜ」

「おまんらいい加減にするぜよ〜」


高杉と坂本は自分の隊に指示を出し始めていた。そんな中で桂と銀時がどっちが先に帰るか、それでまた喧嘩になったのは言うまでもない。


「おい坂本、あいつらなんとかしろ」

「わしには無理じゃ。何言っても聞く耳もたん」

「・・・うるせぇなァ・・・!!」


ついに苛立ちが頂点に達した高杉の抜刀により、争いは更に勢いを増したのだった。














「風呂借りるぜ」

「おーゆっくりしてきー」


拠点に着いた時には日がだいぶ傾いていた。もうすぐ夜が来る。

本来、血を流すのも身体を洗うのも川で行っていたが、ここの拠点は運良く使われていない風呂がついていた。機械いじりが好きらしい坂本が調べてみると充分に使えるということで、ここの皆は重宝している。

全員が入るには時間が足りないので、日によって川に行く人と風呂に浸かる人でだいたい分かれている。


高杉が風呂に行った後、他の隊士たちもそれぞれの場所へと散らばっていった。


「改めてよく見ると、おんしら・・・ひどい顔ぜよ」

「誰の所為だと思ってんだコノヤロー」

「お前が奴を止めぬからこのような事になったのだ」

「なんちゅー言いがかりじゃ!わし何も悪いことしちょらん!!」


戦の傷に加えて、喧嘩の傷と高杉の斬撃により更に怪我は悪化していた。


「これに懲りて、もう仲間同士で喧嘩しゆんは止め」

「こいつに言え」
「こやつに申せ」


服の隙間から見える、赤く染まった止血の布切れが痛々しい。だが、その理由の大半が喧嘩と高杉と知ると、同情もなにも浮かばない坂本だった。


「俺は川に行ってくる」

「おー行け行け」

「貴様もだ銀時。血生臭くてかなわん」

「へいへい」

「坂本、お前は?」

「わしは高杉の次に風呂に入るぜよ!久しぶりにゆっくりするき」

「そうか。では、また後でな」

「ん」



さてと、と腰をあげ風呂に行くために坂本は新しい着流しの準備に取り掛かった。
















「・・・血生臭ェ」

「なんじゃ、さっきまでおまんもそうじゃったろうに」


高杉が風呂からあがり、着流しで部屋にやってきた。『換気する』と言って縁側につながる襖を全開にすると、そのままドカリと畳の上に座る。


「モジャ、早く風呂入れ。もうすぐ酒の時間だ」

「酒よりも食事を摂らぬか」

「なんだてめぇら、もう戻ってきたのかよ」


血生臭いのはごめんだと、鼻を押さえながら口にすれば、お気に入りの着流しに着替えた銀時に「お前こそ身体に染みついてんじゃねぇの」とニタニタした顔で返された。2人一緒に戻ってきたところを見ると、どうやらもう桂との喧嘩は終わっているようだ。


「高杉。貴様、ちゃんと救護班に行け。ちゃんと手当しないとどうなると思っている」

「治る」

「馬鹿者。なぜ手当てしないと治るのだ」

「俺の治癒力の賜物」

「たまものってなんじゃ高杉」

「出来が違うんだよ」

「おーすげーさっすが晋助くん」

「その言い方やめろウゼぇ斬るぞ」


部屋に正座をする桂とは対照的に寝っころがった銀時は、高杉の怒声を気にする様子もなく、大きなあくびをした。


「わしは風呂に入ってくるぜよ」

「あぁ。夕餉には間に合うようにな」

「わかっちゅうー」


坂本が部屋を出て行き、残された3人。誰が切り出すわけでもなく、今日の戦について反省が行われた。


「高杉、お前にしては珍しいミスだったな」

「裏を読まれた。あそこまで天人が待機してるとはな・・・迂闊だった」

「・・・・・」


高杉が片手で顔を覆い、やりきれない思いを吐露する。めずらしく表情の固い高杉を見れば、彼がどれだけ追い込まれていたのか理解するのには十分だった。


「これを・・・今後に生かそう。すべてがお前の責任ではない。そこは間違えるなよ、高杉」

「・・・あぁ」

「天人が行動範囲を広げたってことか?それとも東西側の隊が負けて、こっちに流れ込んできたのか?」

「今のところ、東西側からそう言った情報は届いていない」

「にしても、俺らの作戦が漏れたとも思えねぇぞ」

「どっちみち、奴らは数に限りがねぇ。いくらでも替えがきくんだろーよ。俺らとは違ってなァ・・・」


高杉の言葉は間違っていない。だが、こんな時に相手の力を認めたくなどなかった。また新たな問題が浮上したことにより、作戦が大幅に変更になるだろうと銀時は確信した。


「ちょっと話変わるんだけどよ。高杉、お前さ」

「なんだ」

「辰馬がやってる烽火の理由知ってんの?」

「あぁ、あれか。知ってるぜ」


高杉は少し得意げに話をし始めた。


「俺は今日それで命拾いしたようなモンだからな」

「一体なんなのだ?その理由は」

「以前、坂本が言ってた」






「坂本!!!敵襲か?!?」

「ん?何も起きとらんよ?」

「は?!・・・バカも休み休み言え!!ここから烽火が上がったのを見たんだぞ?!」

「落ち着きやー高杉!わしが烽火を上げるときは戦に勝ったときじゃ!」

「・・・は?」

「こうすればわしらの生存も戦の勝ち負けも、他の部隊からの援護を頼まれても、すぐに駆け付けられるぜよ!」

「なんだ、それ・・・」

「便利じゃろー!わしも知恵を絞ったき!」

「早急にそれ全員に伝えねぇと誤解が広がってやばい事になるぞ」

「言わんでもわかるろー?あはははは!!!」








「・・・だとよ」

「だとよじゃねぇよ!!わかんねぇし!!!つーか知ってたんならお前が教えろや!!!」

「まったくだ!!!勘違いするところだぞ!!!」

「俺に当たるんじゃねェよ。毛玉に言え」


銀時と桂の怒りの矛先は、たった今風呂からあがって来た坂本に向けられた。


そのあと部下が見た坂本は、数刻前よりも包帯の数が増えていたらしい・・・














夕餉の席では負傷者が多かったため盛り上がりはしなかったが、勝利と称して酒を注ぎ合う姿がいたるところで見られた。


そんな隊士たちから少し離れた廊下の柱に寄りかかり、夜空を見上げる男はどこか寂しげだ。


「高杉、約束のモンじゃ」

「!・・・すげェ」


高杉の隣に座り、自信満々に酒を取り出した。


「これはワシが自信を持って勧める土佐の地酒じゃ!まっこと美味いぜよ!」

「ほぉ・・・」


飲みすぎには注意するぜよ!!と言った坂本の声に耳を貸さず、さっそく注ぎ始める高杉の表情は期待で満ちていた。


「・・・どうじゃ?」

「・・・うめェ・・・これは美味いな」

「あはははは!!おまんの口から2回も美味いと言わせられてワシは満足ぜよ!!」


この酒は1本しかないからみんなで仲良く分けようと坂本がそれとなくそそのかしてみたが、「これは俺のだ。誰にもやらねぇ」と、高杉にあっさり拒否されてしまった。


「坂本、まだあいつらに烽火の説明してなかったんだな」

「おまん、あの場にいたら助けてくれても良かったと違うがか?!」


坂本は先ほど桂と銀時に殴られたことをまだ根に持っていた。


「俺は誰も助けねェよ」

「なんじゃ!まっこと冷たい男ぜよ」

「だが・・・てめェには1つ借りが出来たな」

「借り?」

「今日の・・・まぁ、わからねぇならそれで良い」


言葉とともに酒を一気に流し込み、持っていたおちょこを置いて、再び夜空を見上げた。


「昼間は曇ってたが、夜には良い月が出てるなァ・・・」

「おんしはまっこと月を好いちゅうのぉ」

「あぁ」

「なんでじゃ?」

「・・・そんなこと聞くなんざ野暮ってモンだ」



















「今日は月がとてもきれいですよ、晋助」

「せんせいは月が好きなんですか?」

「えぇ」

「どうしてですか??」

「美しいものを好むことに理由などありませんよ。自分が美しいと思ったものに理由はいりません」

「・・・おれも、綺麗だと思います」

「ふふっ。私と同じですね」

「・・・せんせいと・・同じ・・・」



















美しいものを美しいと思うことに

理由なんざ、あるめぇよ。






end















おまけ



「あれ?!ここにあったさつま芋の甘露煮は?!」

「さっき間違えて食べた。すぐ吐き出したけどな」

「高杉てめェェェ!!!」



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