いつも銀時が寝ている寝室に新聞を敷きつめる。読み終えてたまっていたジャンプを何冊か積み重ねて椅子を作り、そこに神楽を座らせた。
髪の毛が落ちてもいいように神楽に広告の紙を持たせ顔の前で固定させる。
「神楽ちゃん、じっとしててね。動いたらあぶないから」
「わかってるヨー」
暖かな春の陽気の中、万事屋で神楽のイメチェンが行われようとしていた。
それは神楽のある一言から始まった・・・。
前髪
床屋から帰ってきた銀時をみて、最初は全然変わってない!だの、なぜスポーツ刈りにしなかったの?!などと、うるさかった神楽だが突如黙り込み、すごい速さで洗面所へ走って行った。
「神楽ちゃん??」
「ほっとけほっとけ」
とくに気にしていない様子の銀時と、少なからず神楽の様子を気にしている新八。
数分後、居間に戻ってきた神楽の表情は、何か言いたげである。ジットリとした視線を感じた銀時がソファーに座り、ジャンプに視線を注ぎつつ反応を見せた。
「・・・なに?」
「私もイメチェンしたいアル」
「イメチェン??」
洗濯物を畳んでいた新八も横から話に加わった。
「だってさ、銀ちゃんばっかりズルいヨ。私もイメチェンしたいネ。劇的に変化したいアル!!」
「俺別にイメチェンするために床屋行ってんじゃねぇよ。髪伸びて読者が見分け付かなくなったらやべぇから行ってるだけ。お前は頭にポンポンつけてりゃいいの」
「なんでアルか?!銀ちゃんの天パ切るお金あるなら、私に使った方が良いアル!!」
「却下」
確かに神楽も思春期真っただ中の女の子。可愛くなりたいとかキレイになりたい、という気持ちはあって当然だと話を聞いていた新八は思った。
「銀ちゃんー、お願いー」
「だーめー」
「ねぇ銀さん、たまにはいいんじゃないですか?」
「新八ィ!!お前は味方してくれると思ってたアル!!」
盛り上がる彼らを、眉間にしわを寄せた銀時が睨む。
「あのなぁ、髪型変えたぐらいで何も起こらねぇよ。そもそもイメチェンってなんだよ。俺らみたいなアニメの世界の住人はイメチェンなんかしたら終わりじゃねぇか。読者が主人公の区別つかなくなったらお蔵入りだぞ?」
「確かに銀ちゃんは存在がお蔵入りだから床屋に行って天パを保たないとアニメ原作共に終了の危機だけど私は違うネ!元が良いアル!」
「てめっ誰が存在がお蔵入りだコラァァ!!!」
「怒るなヨ。本当のこと言われたからって」
「うっせーよ!!てめぇ二度と蔵から出てこれねぇようなイメチェンしてやろうか?!イメチェンしたのに前の方が良いって言われるようにしてやろうか?!あァん?!」
「ちょっとまた話がずれてますよ!1回ぐらいいいじゃないですか。銀さんが行ってる床屋さんならお得意様扱いしてくれて、安くしてくれたりするんじゃないですか??」
「お前、あの将軍の事件があってからアブさんとこは行くのやめたじゃねぇか。俺は別の床屋行ってんの。だから安くもならねぇの。ハイ、この話は終わり!1」
「嫌アル!!!」
ジャンプをテーブルに放り投げ、いちご牛乳を取りに台所へ向かうその着物を、神楽が掴んだ。
「嫌だっつったってしょうがねぇだろ」
「・・・だって」
「・・・・・・」
ガシガシと銀髪を掻きながら、神楽の掴んでいる袖をみつめた。正直なところ、床屋ぐらいは連れていってやっても良いと思っていた。しかし、お金がないのも事実だ。
どうしたものかと頭を悩ませ新八をチラリと見れば、何か思い付いたそぶりをみせた。
「ねぇ神楽ちゃん、前髪だけだったら僕切ってあげるよ?」
「ほんと!?」
「銀さん、読み終わってるジャンプ何冊か借りますね」
「好きにしろ」
ひゃっほーぅ!と言いながらくるくる回る神楽を見て、「やっぱり女の子っすねー」と銀時に話しかける新八は嬉しそうだった。そんな二人を居間に置いて、台所にいちご牛乳を取りに行く銀時だった。
◆
こうして新八が神楽の前髪を切ることになった。神楽がジャンプを積み重ねて作った椅子に座り、新八は膝立ちをして神楽と向かい合っている。
その様子をなんとなくソファーから眺めている1人の男。
「長さはどれくらいにする??」
「ものっそいイメチェンな感じのがいいネ!!」
「うーん・・・なんだかよくわかんないな;」
苦笑しつつも、とりあえずハサミを動かし始めた。
シャキ…シャキ…シャキ…
神楽の前髪が少しずつ短くなっていく。ハサミが動くたびに聞こえる音が神楽の心を弾ませた。
数分後ハサミが細かい音を刻み、形を整え終わると神楽の顔にくっついた細かい毛を軽く手で払った。
「はい、完成したよ」
神楽は新八の声と同時に、バタバタと音を立てながら洗面所へ走って行く。
「喜んでもらえたみたいですね」
「頑固なところはハゲ親父ゆずりかねぇ。世話の焼けるガキだ」
そういう銀時の口調は、いつもより穏やかだった。
洗面所では、満面の笑みで鏡を見つめる神楽がいた。
end...