「ばーか・・・
嬉しいじゃねぇかコノヤロー・・・」
「ッだぁ!!うざってぇ雨だな!!!」
「ちょっと何騒いでるんですか?」
「雨の所為で気分が晴れやしねぇ」
「そう言って憂さ晴らしにパチンコでも行くって出てったのは銀さんでしょ」
「席は取られてるしタマ出ねぇし景品の板チョコは神楽に食われるしッ。憂さ増しただけなンだけどッ、無駄足だったンだけど!!」
「はいはい。わかりましたから暇なら、この荷物依頼主の所に届けてきてください。僕と神楽ちゃんはお登勢さんに呼ばれてるんで」
「昔、山で修行したときの古傷が痛んでるから無理だな」
「何それ!?一瞬で見破れる嘘なんですけど!!」
「うるせーな。気持ちは前向きだよ?銀さんいつも気持ちだけは熱く燃えたぎってるから!けど仕方ねぇよコレ。身体が言う事聞いてくれねぇンだから。いやほんとだってコレ」
「身体ごと燃え尽きても依頼主に荷物届けてもらいますからね」
◆
10月とは思えないほど寒く、吐く息が白く見える。それに加えて大粒の雨が江戸に降り注いでいた。
「・・・ババァの奴、従業員2人とも奪いやがって。何だって俺がこんな目に遭わなきゃならねンだコノヤロー」
1人町を歩く銀時が零した愚痴について、万事屋にいる新八が聞いたら迷わず反論するだろう。
手に持たされたのは小さくも大きくも無いが、何かを長細く包んだ普通の風呂敷包み。新八が言うには、苗木が入っているとの事。
通りで大きさの割に重いと思った。
「社長ってのはもっと偉くて、苺牛乳とかパフェとか食い放題だろーが。俺の社長像壊しやがってアイツら・・・」
あくまでも世間の常識は、万事屋では通用しないらしい。
しかし仕事は仕事。
人様の大事なものを届けるのだから、いつまでも面倒臭がっているわけにはいかない。
気を引き締めて雨に濡れない様、風呂敷包みを抱えた。
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「すいませーん、依頼を受けた万事屋ですけどー」
「はーい!」
届け先に到着し声を掛けると、出てきたのは八百屋を営む店の店主。腰の低い、優しそうな顔をしたお爺さんだった。
「いえ、雨に濡れていないか心配ですが・・・」
「大丈夫ですよ。こんな雨の中わざわざ来ていただいて嬉しい限りです」
「こちらこそ、ありがとうございます」
ペコリ、と頭を下げた店主の顔は笑顔に満ち溢れていた。
「万事屋さん、少し雨宿りしていきませんか?美味しい柿があるんですよ」
優しい店主の心遣いで、雨宿りと旬の美味しい柿をご馳走させてもらうことになった。
◆
「実はこの柿、息子が生まれた日に埋めた柿の木から収穫したものなんです」
「息子さんの・・・」
「毎年、これが楽しみの一つになってまして」
店主が店の奥で皮を剥き、切り分け持ってきてくれた柿のひとかけらを銀時は一口で食べた。
「・・・美、味い・・・・・」
「はは、ありがとうございます万事屋さん。お世辞でも嬉しいですよ」
自分の家で作った柿を『美味しい柿』と称して人様に出すので、皆さん気を遣ってそうおっしゃってくれます。
店主は謙虚な気持ちを照れくさそうに言った。
「世辞なんかじゃ、ないですよ」
銀時は一口サイズの柿の1つをつま楊枝に刺し、それを見ながら穏やかな口調で話し始める
「店主から息子さんへの想いがつまった、どの柿にも勝る美味ぇ柿だ。間違いなく・・・江戸1番だよ」
銀時の言葉に、店主は嬉しそうに深々と頭を下げた・・・
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今朝、息子夫婦の間に子供が生まれたらしい。
銀時が届けた物は、孫の為に埋める新しい『りんごの苗木』だそうだ。
店主の人柄が柿の味に表れたように、いつか実るりんごも人を温かな気持ちにさせるものになるのだろうと思った。
お土産にと渡されたのは、食べさせてくれた柿。店主の言葉に甘えて、それを受け取り傘を差す。
律儀な店主に見送られながら雨の中、万事屋へ向かった。
「あー!水たまり!」
「大きいなぁ」
「・・・・・」
憂鬱に感じていた雨の日も、人と関わる仕事のおかげで喜びに変わる。そのおかげで、水たまりをみつけた子供と父親のはしゃぐ姿が微笑ましく思えた。
「・・・たまには・・・・・良いか」
いつも歩く帰り道の途中にある、いつものコンビニ。
しかし真っ先に向かったのはジャンプコーナー・・・ではなく、お菓子売り場だった。
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「帰ったぞー」
雨に濡れた傘を玄関の壁に立て掛け、履き慣れたブーツを脱ぐ。
ビニール袋のガサガサした音を響かせ居間に向かった。
「新八ー。神楽ー?」
名前を呼んでも、返事は無い。珍しく万事屋には誰もいなかった。
「・・・・なんだよ・・」
残念そうに、机上にビニール袋と貰った柿を置いて椅子に座る。
適当に置いたせいで、袋から中に入っていたお菓子が顔を覗かせた。
「・・・・・」
ゴロリ、と転がった先程店主に貰った柿を手に取る。
すごく美味かった。
いや、そんな事よりも・・・
自分の生まれた日を、覚えてくれている人がいる。
店主が息子の為にしていることが、関係の無い自分まで嬉しく思わせてくれた。
新しい命が生まれて、命が育つと同時に、植えた苗木も育つ。
2つの命が生まれた日になる。
「・・・・・」
だがこの柿を見ていると、嬉しい気持ちの他に、そうで無い気持ちまで込み上げてくる。
後ろ向きな思考は銀時を支配し、勝手に柿から『今日』は何の日か、と問われているような気になっていた。
チラリ、と視線を柿から移す。
その先にあるのは・・・・・
「・・・なんてことねぇ、ただの日曜だ」
日めくりカレンダー
10月10日
さっきまで晴れていた心を取り戻そうと、憂いを雨の所為にして目を閉じた。
◆
「さ・・ん!銀・・・銀・・・さんッ、銀さん!」
「銀ちゃん!!起きるヨロシ!!」
「あべしッッ!!!?」
「かっ神楽ちゃんンンン?!?」
心地よい眠りは、頭に感じた痛みと、その反動で机上に強打した額の痛みのおかげで、一気に消えていった。
「てめぇ!!何しやがンだゴラァァァ!!!」
「あ!!酢コンブ!!んまい棒まであるネ!!」
「!」
頭を抱えて怒鳴る銀時も、神楽にビニール袋の中身をみつけられて一瞬たじろぐ。
「これどうしたんですか??こんなにたくさん・・・それに、この柿は?」
「柿は依頼主がくれて・・・それ、は・・・ッうるせー!!拾ったンだよ!!文句あるか!!?」
「何怒ってるんですかアンタ」
「察しろヨ新八。照れてんだヨ。恥ずかしいんだヨ。下手くそな嘘しかつけない奴ネ」
「お前何歳?!?」
酢コンブをくちゃくちゃと噛みながら新八に耳打ちするように言った。もちろん銀時にもばっちりと聞こえている。
「神楽ちゃん、」
「わかってるネ」
「あ?何・・・・・・!」
新八の合図で、神楽が銀時に何かを差し出した。
「これ・・・」
「招待状アル!」
「お登勢さん達にも手伝ってもらいました!」
姉上も、九兵衛さんも、桂さんも待ってますよ!
招待状に目を奪われている間に、2人に腕を引っ張られ万事屋の外に連れてかれた。
いつの間にか雨は上がり、空が夕焼けに染まっているのに気づく。
「ちょッ待て待て危ねぇッ?!」
「銀ちゃん!!ケーキは私が食べてあげるから残しても良いヨ!!」
「お料理残したらタッパーに入れて明日の夕飯にします!!」
「おいィィィ!?何このまだ始まってもいねぇのに終わった感じ!!」
階段を駆け下り、スナックお登勢の前に引っ張りだされると、神楽が引き戸を開けた。
パリーンッッ!!
「あ、力み過ぎたアル」
「ちょっとォォォ!!!あれほど気をつけて開けろっていっただろーが!!なに人の店の戸壊してんだいアンタ!!!」
「お登勢さんお登勢さん!!銀さん来てます!!」
「よく来たな銀時、何やら今日はみんなとUNOをするとか聞いて俺も仲間に入れてもらいに来た」
「間違ってないけど間違ってるアル」
「これは柳生家から君へ、贈り物だ」
「九ちゃん、プレゼント交換は乾杯してからよ!」
「はッ、しまった」
「おー銀さん!ただ飯食えるって聞いて俺も来ちゃったよー」
「来ちゃったよじゃないネ。お前だけは有料アル。マダオ料金払えヨ」
「何マダオ料金って?!そんなの無くない?!」
「ちょっと計画と全然違うじゃないですか!!!」
「・・・・・」
神楽が戸を壊した所から、一気に計画が崩れてしまったらしい。目の前に主役の銀時が居るにもかかわらず、スナックお登勢は大騒ぎだ。
「・・・・・・騒がしいなぁ・・」
騒音に消えた声は、笑いながら発せられていた。
「銀さん!何してるんですか!」
「主役が来ないでどうするネ!」
いつの間に騒動の中を抜けたのか、新八と神楽が店の中から銀時を呼ぶ。2人の後では、カラクリ家政婦のたまが騒動の中に入り、より事が大きく発展していた。
「・・・わぁってるよ」
「銀さん!」
「銀ちゃん!」
「ん?」
「「お誕生日おめでとう(ネ!)ございます!」」
向けられた笑顔が嬉しくて、ひねくれ者の彼は2つの頭をわしゃわしゃと撫でて照れ隠しをする。
「・・・・ありがとな」
その後、スナックお登勢では終始笑顔が絶えなかった。
全員がUNOにハマり始めた頃、銀時はカウンターに座り彼らを眺めた。
「・・・憂さも何もかも・・・吹っ飛んじまったなぁ」
銀時は酒を呑みながらポツリと呟き、その後すぐ桂に呼ばれてUNOに参加する。
UNOは大盛り上がりをみせ、スナックお登勢の明かりは夜明けまで灯っていた・・・
招待状
『銀ちゃんへ
新八とシコシコ計画したアル!!今日は銀ちゃんの為にたくさんご飯作ったネ!いっぱい食べて、いっぱい飲んで、私の誕生日に備えるヨロシ!!お返しは10倍返しで手を打つアル!!銀ちゃん、たんじょーびおめでとうネ!!
銀さんへ
お誕生日おめでとうございます!いい歳なんですから、そろそろ万事屋の仕事もたくさん受けて僕らに給料払ってくださいよ!みんなで準備したパフェもケーキも、もちろん苺牛乳も、今日だけですからね!好きなだけ食べて楽しんでください!』
生まれてきてくれて
ありがとう...
end...