「新八おめでとうネ!」

「あ、神楽ちゃんありがとう」

「お・・・おめっ・・・んぐっ?!?」

「・・・ちょっと、なんでもう銀さん食べ始めてるんですか。なんでおめでとうって言おうとして喉に詰まらせてるんですか」

「ちげっ違ぇよ!喉に詰まらせたんじゃなくて、食べ物が俺の喉に吸いつくようにだな、」

「私も食べよーっと」


まだまだ暑い、夏まっただ中に新八の誕生日会が開かれていた。

と言っても、居るのはいつもの万事屋メンバーで新八の交友関係の狭さがうかがえる。・・・ということではなく、今日は新八の誕生日当日ではないのだ。

「わざわざ誕生日会ひらいてもらわなくてもよかったのに」

「ばかやろう、そんなんじゃ俺の気が済まねぇんだよ」

「私の新八への愛が伝わらないなんて嫌アル!」

本当は12日に新八の自宅で誕生日会は開かれていた。その日新八は休暇をとっていたので問題はなかったが、神楽と銀時は珍しく大きな仕事が入ったことにより丸1日つぶれてしまったので出席することができなかったのだ。

それを何かと気にしている2人が、再び開いてくれた誕生日会。ここは誰しもが「新八は良い友達を持ったな」と思うところである。

ところが、新八は気づいていた。

「気が済まないとか愛が伝わらないとか言ってますけど・・・結局ご馳走が食べたいだけですよね」

「・・・え、ちょっと・・・嫌だなぁ新八くん。誰もそんなこと思ってねぇよ。なぁ神楽」

「そうヨ。誰も誕生日主役、兼主催者の新八に全額負担してもらって美味しいもの食べようなんて思ってないアル。これっぽちも思ってないネ」

「思いっきり思ってんじゃねぇか!!なんで主役の僕が自分の誕生日会の食事代を負担するんだよ!聞いたことねぇわ!!」

「世の中には理屈じゃねぇ、どうにでもならねぇこともあンだよ」

「どう考えてもどうにでもなることしか起きてないだろ!!」

新八の言うとおり、目の前に置かれているケーキも料理も飲み物も、新八の(貰ったことのない)給料から引かれていた。

乾杯をする前にフライングして食べ物を頬張る社長と、それを真似る女性従業員には常識というものが欠けていた。むしろ持ち合わせていない。

「・・・はぁ、もう良いですよ。好きにやってください」

「言われなくてもやってるぅ」

「やってるアルぅ」

「そうでしたね」

新八は顔を引きつらせ自分のグラスにジュースを注いだ。

「ぱっつぁんもまた1つ歳を重ねたってわけだ」

「え?あ、はぁ・・・まぁそうですね」

「着々と『死』に近づいてるアル」

「ちょっ、神楽ちゃん人の生まれた日になんてこと言うの」

「もうすぐお前家族と会えるな」

「止めてくんない?銀さんまでそんなこと言うのやめてくんない?」

2人から冗談に聞こえない嫌がらせを受けながら食べたハンバーグはあまり美味しく感じられなかった。

「まだ10代だろ?お前」

「はい」

「まだ若ぇよなぁ」

「ほんとアル。まだまだ人生の半分ぐらいネ。ひよっこヨ」

「10代で半分って何?!必然的に僕の寿命30代ぐらいになってるじゃん!!」

「つーか神楽、お前が1番年下のクソガキだろーが」

銀時は自らがリクエストして新八に買わせた焼き鳥を食べながら、軽く笑う。同時に枝豆を食べ過ぎだと神楽に注意したが、神楽は手を止めようとしなかった。

「新八だから、8の倍数の年齢を生きられるんじゃねぇの?88歳とか」

「何基準なんですかそれ・・・っていうか、もう寿命の話はいいです」

「ここ重要な話アル!新八の将来が見えるネ!私には見えるアル!」

「見なくていいよ!」

ジッと見つめてくる神楽に苦笑しながら顔をそむけ、銀時手作り(食材費新八負担)のケーキを頬張った。

「そうやって人の名前でからかうのよくないですよ。僕は名前・・・気に入ってるっていうか、なんていうか」

「うん。お前は新八って感じだよ。新一とか新二とかより」

「それ褒めてます?」

「・・・どうだろう。あ!!神楽てめぇ!!俺の皿から枝豆取りやがったな?!」

あれだけ食べておきながら、銀時の皿に盛られていた枝豆に手を出す神楽は知らん顔をしていた。もちろんそれで納得するはずのない銀時に両頬をつままれて暴れだしている。

「いひゃい!やえうえひんひゃん!」

「新八!通訳!」

「痛い、やめるネ銀ちゃん。だそうです」

「だったら枝豆返せコノヤロー!!新八!!通訳!!」

「だったら枝豆・・・って通訳いらねぇだろ!」

思わずノリツッコミをしてしまう自分アホらしく感じながら、2人の喧嘩を仲裁するために自分の皿の枝豆を銀時にわけてやる新八。一体誰の誕生日会なのか本人もわからなくなっていた。

「まったく・・・」

「なぁなぁ、さっきの話の続きだけどよ、」

「寿命の話ですか?」

「違ぇよ。名前が気に入ってるとかどうとかってやつ」

あぁ・・・と新八がグラスに注いだジュースに口をつけながら銀時を見つめた。神楽は枝豆に飽きたのか、今度はピザのチーズに夢中だ。

「俺なんかは昔、自分の名前が嫌いでよ」

「え?そうだったんですか?」

銀さんの名前、銀さんらしくていいのに。そう言った新八に、銀時は頭をガシガシ掻きながら曖昧な返事をした。

こういう話を銀時が新八にしてくるのは珍しい・・・というよりも、初めてかもしれない。

「あぁ・・・嫌いだったな。初めて会ったやつに名前なんざ名乗らなかったし」

「そんなに嫌だったんですか・・・」

「当時はな」

神楽からピザを取り分けてもらい、皿を受け取った銀時は上のサラミだけを食べた。

「でも、まぁ・・・ある人に『良い名前だ』って言われてよ。それからだんだん受け入れるようになって、名を呼ばれることの意味みてぇなモンも知った」

「名前を呼ばれる意味・・・」

「名前がなきゃ、この世に存在してねぇのと同じだ。よく考えてみろ、この世界で名前がねぇモンなんざねぇだろ?」

銀時に言われて、ふと周りを見渡してみると身近にあるもので名前がないものなど何一つなかった。それはテーブルの上に並べられたご馳走から、部屋のすみにたまっているホコリまで。

「確かに・・・名前がないものなんてないですね」

「だからな、・・・名前ってのは存在を表す。つまり・・・生きてる証だ」

そう・・・ある人に教わった。


銀時はあまり見たことがないやわらかい笑みを浮かべて、神楽の頭を撫でていた。撫でられている意味がわからない神楽は、口のまわりをケーキのクリームだらけにしながらキョトンとした目を銀時に向けていた。

「ま、本当かどうか知らねぇけど」

神楽の口の周りについたクリームをティッシュで拭きとりながら、いつもの投げやりな口調で言い放つ。「んー」と眉間にしわを寄せながら、おとなしく拭き取られている神楽に新八が笑った。

「銀さん、」

「あー?」

「今は、名前好きですか?」

「私は好きアル!神楽って名前!」

「聞かれてんの俺だからね、お前じゃないからね!」

「新八って名前もそこそこ好きアル」

「あ、・・・そう。まぁ・・・ありがとう」

「銀ちゃんの名前も好きヨ!」

「!・・・そーかい、」

「もちろん定春の名前も良いと思ったから私が付けたネ!」と大きなペットに抱き着く神楽に、わんっと定春が嬉しそうに吠えた。

「そうさなぁ・・・まぁ、銀さんって呼ばれて嫌な気はしねぇ」

「またそんな遠回しな言い方して」

「キヒヒッ、素直じゃないアルなー」

「うるせぇ!!変な笑い方すンな!っもう・・・乾杯だ乾杯!!!」


照れを隠すために、無理やりグラスをもたせて、誕生会の仕切り直しを始めたのだった。









「…と、」

「ん?」

「ぎ・・・ぎんと、き・・・」

「・・・ぎんとき?」

「・・・おれの、なまえ・・・」

「ぎんとき・・・銀時というのですか」

「・・・へんな、なまえ。おれ・・・大きらいだ」

「どうしてですか?」

「かみの色とおなじだし・・・大きらい」

「私はその銀色の髪も、銀時という名も・・・大好きですよ」

「ぇ、」

「銀時・・・良い名前だ。私はとても気に入りました」








あの日から俺は

本当の意味でこの世に


生を受けたのかもしれない





end...









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