もし、たった1つ・・・

どんな願いでも叶うとしたら

何を望もうか・・・












「いらっしゃいませー!」

昼時のファミリーレストラン。
店内はひどく慌ただしかった。

次々と飛び交う注文、会計を待つ客、キッチンから料理を運べとの指示、それを運ぶウェイター。

それに青筋を立てて怒る店長・・・

「ちょっとォォ!?!万事屋さん何度言えばわかるんですか!!料理に手を出すなって言ってるでしょ!?!」


エビフライ定食のエビがない。
オムライスの一部が欠けている。
ハンバーグプレートに
ハンバーグが乗っていない。
まだ料理が運ばれてこない・・・

様々な苦情が殺到していた。


「ケチケチすんなヨ。こんなに次々と料理が出てくるんだから、儲かってるんだろ?私にも食べる権利あるネ」

「今の会話のどこから権利を見いだせって言うんだ!!ちょっと、坂田さん!この子困ります!」

「はい・・・(っんぐ)・・・何か?」

「坂田さんンンン!!!何デザートに手出してんですか?!」

「いや、俺定期的に甘いものとか摂らないといけないんで、あの・・・まぁそんな感じなんで」

「どんな感じ!!?全然わかんない!!」

もう君たちクビ!!クビだよ!!


店長にクビ宣告を受けた2人は、なんとかこの状況を切り抜けようと弁解をし始めた。


「店長、まッまぁ落ち着いて」

「何を今更!散々好き勝手やってたじゃないか!」

「違いますよー、おッ俺は新メニュー考案部に貢献しようとして作ってただけですよ!いや本当に!だからこうして今あるデザートを参考に味見をしてただけで」

「私はただご飯を持って帰ろうとしただけアル!」

「おいィィィ!!余計なこと言うな!お前は黙ってろ!!」


この場をやり過ごそうとする努力を、水の泡にしそうな神楽。

苦し紛れの言い訳のような気もしたが、店長は一応作ったという試作品を見せてもらおうとする。


「・・・どれですか?試作品」

「これです」

「・・・・・」

店長の視界に現れたのは・・・







「タイトルは『俺専用パフェ』!」


その名の通り、銀時しか食べられないだろうと思われる代物だった。


「銀ちゃんずるいヨ!!私専用の塩酢昆布パフェも作るネ!」

「あ!?何お前俺の力作に酢コンブ乗せてんだコラ!!ガキくさいモン乗せるな!つーか仕事中は酢コンブ置いて来いっつっただろーが!!」

「こんな宇治銀時丼の延長みたいなもの銀ちゃんぐらいしか注文しないアル!それならみんな大好き[ご飯ですね]乗せた方が美味しいヨ!」

「[ご飯ですね]は、(ご飯にかけて食べると美味しいですね)の略なんだよ。パフェの上にかけて良いモンじゃねぇ!」

「違うネ銀ちゃん![ご飯ですね]は(ご飯にも、付け合わせにも、酢昆布パフェにもいけますよね先生?そうですね)の略アル!」

「長ェェ!!つーか先生と助手の会話みてぇになってるし!!全てにおいて間違ってんだろそれ!!」


「もうさ、お願いだから出てって」


店長の嘆きは2人に届かず、買い出しから戻ってきた新八がクビ宣告を受け、ブチ切れるまで続けられた。












「銀さんたちのおかげで仕事クビなんですけど」

「それは言うな新八。俺たち前だけ向いて生きていこうって決めたじゃねぇかあの日」

「どの日だよ、勝手に都合良い事言わんで下さい」

「新八ぃ、これタッパーに入れといたヨ」

「え?何これ・・・?ハンバーグとか、パスタとか・・・オムライスの欠片?」

「私つまみ食いなんてしてないアル。ただ坂田家の食卓を豪華にしたかっただけヨ。ちょっとずつ客から拝借しただけネ」

「・・・銀さん、アンタこれで良いんですか?めっちゃ悲しい事言われてますけど良いんですか?」

「バカヤロー!!んな貧乏臭ぇことして・・・!!!ごめんね!!銀さんが悪かったごめんね!!!」


午後4時を回った歌舞伎町は、だいぶ夜が近づいている。

ファミレスをクビになった帰り道で、そんな会話がなされていた。


「・・・ねー銀ちゃん」

「あー?」

「つまみ食いの利点って何アルか?」

「つまみ食いの利点?」

「んなもん、した奴が良い思いするだけだろ。美味ぇモン食えるんだから。逆にされると腹立ってしゃぁねぇなアレ」

「アンタ自分の事棚に上げて人の事言えないでしょ」


神楽の疑問に、頭をガシガシと掻きながら応える。言っていることは正しいが、銀時が言える立場ではないだろう。


「私考えたアル、つまみ食いの利点。つまみ食いすれば世界が変わるって」

「・・・神楽ぁ、それは大きな間違いだ。もしそうだったら銀さん世界を変えた神様になってっから」

「今までどんだけつまみ食いしてきたんですか?!」

銀時のつまみ食い歴は相当なものらしい。


「違うネ。私、ちゃんと考えたヨ」

「だから、何?つまみ食いしても世界は変わらねぇし、ウチは貧乏なままだぞ」

「つまみ食いしなくても貧乏じゃないですか」

「貧乏でも、私たち毎日何か食べれてるアル」

「!・・・」


日が落ちて辺りが暗くなったので、さしていた傘を閉じる。それを見つめながら、ゆっくりと語り出した。


「地球には食べ物が有り余ってるネ。私の星では食べ物も・・・ましてや住む家が無い人、着る服にさえ困ってる人も居たアル」

「・・・」

「銀ちゃんも貧乏だけど、私の家よりマシかも知れないヨ。3食卵かけご飯食べれて、ご飯ですねがあって、お茶漬けも食べれるアル」

「お前ん家ふりかけ飯しか食ってなかったっつってたもんな」


地球に来る前は、3食ふりかけご飯。それで夜兎のお腹が満たされるはずもなく、家族で奪い合ったという話を、昔聞いた記憶があった。


「でも、私思ったアル。地球人は食べ物大事にしないネ」

あって当たり前の物だと思ってるヨ。


神楽は傘を抱きしめ、悲しそうにつぶやいた。


「・・・今の時代、物も情報も溢れてますもんね、神楽ちゃんの言う通りだよ」

「新八もそう思うアルか?」

「うん」

「さっきのファミレスで思ったアル。客が食べれないほど注文して残したり、ハンバーグの付け合わせ野菜だけ残したり、メニューに載ってた魚と、運ばれてきた魚の大きさが違うからいらないとか言う客まで居たヨ」

「もったいねぇなぁどいつもこいつも。俺はデザートの賞味期限が1〜2日前になると処分されるってのに腹が立ったな。それなら格安で提供すれば良いだけの話じゃねぇか、『賞味期限間近ですぅ』とか書いて売れば捨てなくて済むってのによー」

「食品を提供する会社にとって、1番改善してほしい問題ですね」

「そうやってもったいない事ばっかりするから、ハンバーグもパスタも減らしてやったアル。あいつらなんかより私の方が美味しく食べるネ!!」

「だからお前つまみ食いの残りタッパーに入れてたわけ?」

「でもお客さんの勝手に取ったりしたらダメだよ神楽ちゃん;」

「だって、つまみ食いしたら・・・少なめで提供したらみんな残さないヨ。ちゃんとお腹いっぱいになって、全部食べてくれるネ。もったいない事なくなるアル」


思い立ったら即行動の神楽の行動は正しいかどうか、新八を悩ませた。どうも彼女のやり方はむちゃくちゃだと思う。

だが、そんな真っ直ぐな想いを今どれだけの人が持っているのだろうかと不安にも感じた。


「そもそも消費期限と賞味期限は違ぇしな、即捨てるのは納得いかねぇ」

「え?2種類もあるアルか?賞味期限しか知らないヨ!」

「消費期限って言うのは、安全に食べられる期間の事で、賞味期限は美味しく食べられる期間の事を言うんだよ」

「そ。つまり、絶対に守らなくちゃいけねぇのは消費期限。賞味期限は切れても、多少味落ちするが食べられねぇ事もないってもの。でもさすがに何週間も経ってるとかいう商品は別だけどな」

だから賞味期限切れの商品は、流行のワケあり商品としてでもいいから売っとけコノヤロー。

神楽の思ったことは素直に正しいと思った。3人が3人の意見を言い合い、いつの間にか『もったいない』という言葉を持つ国が、『もったいない』ことをしているのではないか、という事に気づかせられた。


「まさに暖衣飽食って奴だな。俺たちの状況」

「だんいほうしょく?」

「何だ、お前色々思う割には何にも知らねぇのな」


自分を見上げ、首を傾げる神楽に苦笑しながら、わかりやすく説明をする。


「飽食暖衣とも言うが、暖っけー服着れて、飽きるほど食い物が食える。すなわち、服にも食にも恵まれた生活が送れてるって意味だ」

「銀さんの言う通り、今の日本みたいなものですね」

「日本は飽食の時代の、飽食の国だからな」

「それの所為で食べ物の大切さがわからないやつが増えてるアル」

「良いか悪いか知らねぇが、昔はこの国も食に困ってただろ?」


銀時は新八と神楽を交互に見て、新八は頷いたが、神楽が知らない。と首を振ったのを確認すると詳しく話を進めた。


「戦だ戦。すべてを犠牲にしてでも権力を得ようとしてた・・・あの頃の食に対する苦しみとか恐怖とか飢餓の状態にあった事が、今の時代のこの国に飽食をもたらしたんだろうけど・・・まさか飽食を超えて廃棄処分するまで偉くなったとはな」

「とんだ大出世アル」


神楽が吐き捨てた言葉には、ひどく皮肉が込められていた。


「最近TVでやってないですけど、他国の飢餓問題が悪化しているのだって、こういう飽食の国が手を差し出すものですよね」

「国境なんざ関係ねぇ。国も人種も越えて、繋がるのが人間だ」


帰り道に続く電灯に光が灯った。その光が3人の影を映しだす。

なんの接点もなかった3人が出会ったように、国も互いを思いやり支え合ってほしい。

そう、らしくない事を考えた。



「・・・これ、せっかくだから夕飯に食べましょうか」


ファミレスを出た時に、持っててと神楽から渡されたタッパーを軽く持ち上げて、新八が笑った。


「今日は、ハンバーグにパスタにオムライス、チャーハンとサラダとチキン、スイートポテトとモンブランがありますよ」

「さすが私が入れただけあるヨ!!めちゃくちゃ豪華アル!!誕生日かクリスマスみたいネ!!」

「全部残り物・・・っていうか、つまみ食いの詰め合わせですけどね」

「残りものには福があるって言うし、良いんじゃねぇの?」

「銀ちゃん!新八ぃ!早く帰るヨ!定春も待ってるネ!!」

「うん!帰ろう!銀さんも早く!」

「わぁってるよ!」











『もったいない』


『モッタイナイ』


『MOTTAINAI』



世界中に、とどきますように。




end...









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皆さんこんにちは!
ginkumkaです。

今回テーマとさせて頂いたのは、
『もったいない』『暖衣飽食』です。

以前、飲食店でアルバイトをしていたことがあって、そこで知ったことを書いてみました。お店にたくさんのお客さんが来てくれましたが、やはり良いお客さんばかりではありません。

神楽が言っていたように、たかだか魚の大きさが違うと言うだけで食べることを拒否される方も居ましたし、毎回同じものを注文して、同じものを残す方もいらっしゃいました。

しかし、定食のご飯を減らしてほしい・卵はいらない・パスタは少なめで、など事前に教えて下さる方も中には居たんです。そういう方が食べ終えた、何も残っていないお皿を片づける時、店側として、とても嬉しかったのを覚えています。

私には全部否定する権利はありませんし、ここに書いてあることは一個人の意見にすぎません。ですので、もちろん異なった意見があって当然だと思います。

ただ、ほんの少しでも飽食がもたらす現状・飢餓問題についてを、多くの方に考えて頂くきっかけになってほしいなと思っています。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました!


ginkuma







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